38 ボーの痣を見つけろ
題名変えました
俺は咳ばらいをしつつ、改めて本の説明を続ける。
「確かに鍵付きの本だが、手に入れた時からカギはなかった。だから開けずにそのままにしてある。その内開けてやろうと思っていて忘れていたよ」
俺がそういうとアノさんは続いて声を震わせながら聞いてきた。
かなり興奮しているが大丈夫なのか。
「も、もしか、してだが……その本、まだ、持っているのか……」
「ああ、まだ自宅にあるはずだが……」
「是非とも見せてくれ! 頼む、この通りだ!」
アノさんが急に両手をテーブルにつけて頭を下げてきた。
さらにシルパさんまでも。
「ローマンさん、私からもお願いします。その本をどうかお見せください、お願いします」
ここまで言われると断りづらいのだが、そこまでしてその本を見たいのか。
そうなるとあの本の中身には何かあるってことだ。
それを知らずに見せるのはダメだ。
「見せるだけなら構わないが、なんでそこまでしてその本にこだわるんだ。それを教えてくれるか?」
するとマヌエル夫妻はお互いに顔を合わせて頷くと、アノさんが俺の方へ向き直ってから説明を始めた。
「ローマンさん、大地の女神を知っているか?」
第一声にいきなりドキリとさせられた。
言葉が直ぐに出てこない。
それは俺だけじゃない、メロディもあからさまに驚いて口を開けたまま固まっている。
「なんだ、知っているのか?」
メロディのリアクションを見て完全に悟られてしまった。
まあ、ここで嘘を言ってもしょうがない。
「ああ、実は俺も知っている。いや、知っているどころじゃないんだが……」
俺はそこまで言ってメロディに視線を移す。
すると固まっていたメロディが口を開く。
「は、はい。実は私達、“大地の女神の神殿”を探しています」
そこまで話すのか。
まあマヌエル夫妻なら信用出来そうだから大丈夫か。
するとメロディの言葉にアノさんが反応する。
「何っ、そこまで知っているというのか!」
もう大興奮だ。
コメカミの血管が凄いことになってるぞ。
俺は慎重に返答する。
「ということは、あんたらも神殿に関して知っているのか、恐ろしい偶然だな。で、どこまで知っているんだ?」
単なる偶然かもしれないが、あまりに出来過ぎているので念のために、警戒しているぞってことは匂わせておく。
するとアノさんが真剣な眼差しで俺に訴える。
「勘ぐらないでくれ。我々は財宝に興味はないんだ」
財宝だと?
大地の女神の神殿には財宝があるってのか。
ヤバい、今の俺の顔は嬉しい気持ちがダダ漏れしてる。
するとアノさんが逆に驚いたようだ。
「待て、知らなかったのか。君らトレジャーハンターではないのか?」
俺はメロディと顔を見合わせてお互いに呆れ顔をする。
するとシルパさんが頭を下げてきた。
「ごめんなさい。てっきり財宝目当ての冒険者かと……」
俺とメロディは一斉にボーを見る。
冒険者と言えばボーだからな。
ずっと黙っていたボーが急に振られたと思ったのか、椅子から転げ落ちそうになった……
こいつは全く話に乗って無いよな。
そこでメロディが口を挟む。
「シルパさん、私達が大地の女神の神殿を探している理由は財宝が目当てではありません。私達は―――」
そこまで言いかけたところでアノさんが割り込む。
「なんと、君達も大地の女神の信徒なのか!」
とんだ勘違いだ。
そこで再びメロディ。
「いいえ、違います。私が子供の頃に大地の女神と名乗る方からお告げを受けました。神殿を探すようにと。それで神殿を探しています。ローマン様の本といい、マヌエル夫妻の事と言い、全て大地の女神様に関係していますよね。何か因果めいたものを感じます」
さらにアノさんが畳みかけるように言ってきた。
「これはきっと大地の女神様の思し召しだ。どうだ、一緒に神殿を見つけ出そうじゃないか!」
うーん、「思し召し」ねえ、そんな気はしないでもない。
あまりに偶然が多すぎて説明がつかない。
メロディに出会ったことといい、本といい、マヌエル夫妻との出会いといい、確かに因果を感じる。
あれ、そうするとだ。
俺はそおっと視線をボーに向ける。
あっ、目を逸らしやがった!
「なあ、ボー。どうやらここにいる人達は皆、大地の女神に関わっているようだが、もしかしてお前も何か関係があるのじゃないか」
するとチラチラと俺の方を伺い見ながら小さな声を発した。
「×〇▽……」
モゴモゴしか聞こえない!
「もっとはっきり言えや!」
やばい、ついカッとなってしまった。
しかし効果てき面。
「痣があるっ!!」
痣?
「どんな痣だ、見せてみろ」
何気なく見せろと言っただけなのだが、ボーが突然顔を真っ赤にして怒りだす。
「ひ、人様に見せれるようなものじゃない。ダメだ、絶対に無理だ!」
なんだよ、痣くらいで向きになりやがって。
冒険者だったらそんなもんの一つや二つくらいあるだろう。
「おい、痣くらいで大騒ぎするな。それくらい、誰も気にやしない。さあ見せろ、ほら見せろ、即効で見せろ!」
「だから無理だって!」
そこでメロディが仲裁に入る。
「ボーさん、その痣ってどこにあるのかしら」
するとボーは明後日の方に視線を向け、口をとんがらせながら言った。
「し、尻にある……」
「よし、メロディ、押さえてろ。俺が確認する」
そう言って俺が立ち上がるとボーが剣に手を掛ける。
「貴様、斬られたいのか!」
「何でそうなる。ケツを見るだけだぞ?」
そこでシルパさんが止めに入った。
「まあ、まあ、落ち着いてください。ボーさん、ここは商業ギルドの建物内ですから、剣を抜いたら大変な事になりますよ。ローマンさんも席に座ってください」
俺とボーが落ち着いたところでシルパさんは再び話を始める。
「それではボーさん。まずはその痣はどんなものですか」
するとボーは少し恥ずかしそうに答えた。
「痣は尻にあるんだ……だから自分じゃ良く見えない。でもな、昔教会で見た聖印にそっくりなんだ。私が神様と何かつながりがあるとしたら、それくらいしかないんだ」
その時、俺は笑いを堪えるのに必死だった。
確かにそれは人に言えないし見せれないよな。
「どうしたのです、ローマン様?」
そう言ったのは、俺の様子が変なのに気が付いたメロディだ。
まさか笑いを堪えているとか言えない。
俺は鼻がむず痒いふりをしながら「何でもない」と言って顔を逸らして誤魔化した。
変なところで良く気が付くな、メロディめ。