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37 鍵付の本を知ってるか?







 メロディの魔法の説明か、どう答えた方が良いだろうか。

 一瞬考えたのだが、俺の魔法知識じゃ誤魔化しきれないと判断。

 それならば。


「すまないが、手の内を明かす訳にはいかない。それと出来れば他言無用でお願いしたい」


 そう言ってみたら、問題なく受け入れられた。

 後でボーに言われたのだが、冒険者の間では手の内は明かさないのが普通らしい。

 だから答えたくない場合は普通にはぐらかしても問題ないとのことだ。

 危なくしゃべるところだったな。


 その後、シルパ・マヌエルさんは話好きらしく、ずっと話続けた。

 おかげで色々と情報は聞けるし、俺は(うなず)いていれば良くて楽だった。

 どうやら悪い人ではないようだ。


 この夫婦は小人属の中でもハーフリングという種族らしい。

 夫のアノさんは土のつぶての魔法が使えるという。

 シルパさんは殆んど魔法は使えない。

 詳しくは教えてくれなかったが。


 ざっとこんな情報を得た。

 

 そんな話をしている内に盗賊からの戦利品も回収が終わり、再び俺達は動き出した。

 

 しかし俺達は頻繁(ひんぱん)に盗賊に襲われている。

 いくらなんでも多すぎだろう。

 何故だろうかと考えながら、俺は呑気に移り行く景色を眺めていた。

 ゴブリンに獸車の手綱を任せるようになってからは、こんな余裕も出来る様にもなった。

 ゴブリン、正解だったな。

 

 途中、休憩の為に隊商を停めた時だった。

 シルパさんが俺の側に来て言った。


「若い女性はねぇ、なるべく外から見られない様にした方が良いわよ。あれじゃ盗賊に襲ってくれと言ってるようなものよ」


 言われてみたらその通りだ。

 メロディは平気で獸車から顔や身体をさらけ出していた。

 気を付けよう。

 俺はこういった非常識なところが、ちょいちょい顔を出す。

 まだ商人には慣れてないってことか。


 そのおかげか無事にソーダンの街に到着した。

 さて、この街では情報集めをしないといけない。

 俺達はいつもの宿へと向かった。

 

 情報屋のおっさんがいる『古のランタン亭』だ。


 いつものように居眠りするおっさんに、情報の依頼をする。

 依頼内容は『大地の女神の神殿』についてと、『ゴブリンのゾラン』についての二つだ。

 さすがに数日では調べはつかなそうだ。

 調べがついたら伝達屋を通して連絡が来る事になった。

 情報料は恐らく高い。

 今回は後払いだからちょっとドキドキする。


 情報が集まるまでに稼がないといけない。

 アーレの街に着いたら商業ギルドへ行って依頼を探すつもりだ。


 なんだかんだで、マヌエル夫妻とはアーレの街まで一緒に行動することになった。

 こういうのは、お互い知った仲の方が行動しやすい。




 無事にアーレの街に到着したところで、直ぐに商業ギルドへ直行だ。

 マヌエル夫妻もこの街まで運んで来た塩を卸すそうなので、一緒にギルドへ向かう。

 盗賊で得た戦利品の分配もあるからな。


 何故かボーもついて来る。


「なあ、ボーは冒険者ギルドへ行かなくて良いのか?」


 するとボー。


「何をしに行くんだ?」


「何をしにって、依頼を探しにじゃないのか」


「まさか、私をこのパーティーから追い出そうと言うのか!」


 だからパーティーなんか組んでないんだがな。

 何か目に涙を浮かべているし。

 メロディまでが俺を冷たい目で見るし。

 俺はため息の後に話を続ける。


「冒険者ギルドには報告は済んでるのか?」


「ああ、それか。ならば一緒に来て説明してくれ」


 急に笑顔になったな。


「先に商業ギルドへ行ってからだ」


「分かった!」


 扱い易いが面倒臭いな、こいつ。


 商業ギルドへ到着して、ゴブリン達は獣車に残してギルド内へと入った。

 アーレの街でゴブリンは、あまり良く思われていないからだ。

 できるだけ人目に付かない様にしている。


 まずは罰依頼の輸送の品を渡さないといけない。

 結局は中を見たいという欲求には耐えた。

 ギルド員に手伝って貰い、思い箱を運び入れて無事に罰依頼終了となった。

 

「依頼終了お疲れさまでした。念のため聞いておきますが、中身は見ていませんよね?」


 受付嬢のマーヤの言葉だ。

 

「ああ、見なかったから安心しろ。しかし中身は何なんだ?」


「呪いの品らしいですよお。見たら呪われるってやつで、見た目はきらびやかな王冠なんですよ。重いのは箱に呪いを防ぐ素材を使ってるからですよ」


 それでこれを渡すときに、見たら厄介に事になるって言ってたのか。

 礼を言って俺が受付から立ち去ろうとすると、何故かボーがマーヤに話し掛けた。


「ちょ、ちょっと聞いていいか。その呪いってどんな呪いなんだ……」


 するとマーヤ。


「えっと、決まった呪いじゃないらしくてですね、何でも毎回種類が違う呪いみたいですね」


 それを聞いたボーが何故か青ざめた顔で立ち尽くす。

 そこでマーヤが言葉を付け足した。


「あ、でもその呪いで死んだ人は十人くらいしかいないみたいですけどね」


 ボーの口が開いたままになっているな。


「なあ、ボー。まさか中身を見たとこじゃないよな?」


 俺が一応聞いてみたところ、ボーは口を開いたまま力なく首を横に振った。

 見てないならその顔はなんだよ。

 ボーの考えていることがどうも読めないな。


 それから戦利品の売却をするために、買い取り専用の受付へ品物を差し出す。

 残念ながら買い取り額は安かったが、元値はタダだから問題ない。


 そこで盗賊を奴隷商に売った金も合わせて、皆で分配する事になった。

 メロディとボーは遠慮したが、ボーが欲しそうな目でチラチラ見てきたので強引に二人にも渡した。

 後で何を言われるか分かったもんじゃないからな。

 特にボーがだ。


 マヌエル夫妻はこの後はどうするのか聞くと、この街で一泊して塩を売った金を持って帰るそうだ。

 しかしその前に調べものがあるとか。

 一応だが何を調べるか、何気なしに聞いてみた。


「実はね、私達夫妻は何年も前からずっと、一冊の本を探しているんですよ」


 本を探していると聞いて思い出すのは、俺が買った鍵付の本。

 すっかり忘れていて、鍵を開けるのも放置していたあの本。

 まさかあの鍵付の本な訳ないだろう。

 しかし気になって聞いてしまった。


「まさかと思うが、それって鍵付の本だったりするのか?」


 マヌエル夫妻の顔が驚愕の表情に変わる。

 そして寡黙(かもく)だった旦那のアノさんが答えた。


「それはどんな本だ!」

 

 急にしゃべられると驚くだろ。


「茶色い革表紙でだな、題名がない。かなり古そうな本だな」

 

 そう俺が答えると、興奮した様子で返答が返ってきた。


「鍵を開けたのかっっ!!」


 恐ろしいまでに大きく低い声だ。

 商業ギルド内が一瞬静まり、俺達に注目が集まる。

 俺は慌てて制する。


「ここでそういう話しもあれだ。場所を移さないか」


 マヌエル夫妻もそれには同意し、金を払ってギルドの個室を借りた。


 部屋に入り席に着くなり、アノさんが大きな声を出す。


「その本は開けたのか!」


 何だか尋問されているみたいで嫌だな。

 それが俺の表情に出たのか、シルパさんが割って入る。


「あなた、そんな聞き方はないでしょ。人にモノを聞く時の態度はどうするのっ」


 まるで子供を叱っているようだ。


「ああ、すまない。詳しく教えて貰えたら嬉しい」


「ま、及第点だな―――あっ」


 しまった、声に出てしまった!

 これはまずい!


 そこへメロディが突っ込みを入れた。


「ローマン様、心の声がダダ漏れですよ」


 するとマヌエル夫妻は笑い始めた。

 特に夫のアノさんは大爆笑だった。


 メロディにナイスフォローだと目で合図したら、胸を張ってドヤ顔された。

 ちょっとイラっとするが、救われたことに間違いはない。

 

 気まずい空気を笑いに変えてくれたメロディには感謝しかないな。









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