表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/45

36 ハーフリング








 俺達はダバドの街を出発した。

 しっかりと買い入れはした。

 すべて戦利品として商人が兵士達から買い上げた品々だ。

 やはりほとんどが武器である。

 元兵士だという奴隷も多数いたが、この街では買い取りのみで販売はしていない。

 となると買い上げたのは武器ばかり。

 利益は薄いが金属製の武器は、中古と言えどもそこそこの金にはなる。

 誰が買うかといえば、その顧客のほとんどは冒険者という訳だ。

 しかし戦利品となると状態もピンキリなので、俺は状態の良い物しか買い付けない。

 確実に売れる品物という訳だ。

 大きくは儲けられないが、赤字になることもない。

 そんな荷物を積んだ荷車が街道を進む。


 この辺でも元兵士や傭兵の盗賊には気を付けないといけない。


 ダバドの街を出てしばらくすると、自然と同じ方向へ向かう隊商がいくつか連なり始めた。

 俺達もグループの加わった隊商のひとつだった。

 前を行く荷台の馬車にピタリと付いている。

 休憩時間も同じ。

 

 俺達のすぐ後ろにも一頭立ての荷馬車がひとつ付いている。

 これで俺達の隊商は合計で荷馬車が五つとなり、中規模の隊商群に見える。

 そうなると護衛の数もそこそこいる訳で、このグループを襲う盗賊はそれなりの規模と覚悟が必要となる。

 それにこの辺りで十五人以上の盗賊が出たという話は聞いた事がない。

 となると、それよりも少ない規模の盗賊しか存在しない、つまりは襲われる可能性は低いということ。


 しかし、頭が悪いから盗賊をやっているのだろう。

 だからか盗賊の襲撃に合った。


 突然街道沿いの木が倒された。

 やり方はワンパターンだよな。

 ただしいつものように、先へ進めなくするためではない。

 最後尾に付いた馬車の前で倒されたのだ。


 分断という作戦。

 一番弱そうな馬車だけを狙った襲撃だ。


 最後尾の馬車は前へ進めなくなり、かといってその前を行く俺達や先頭を行く馬車群はお互いに知らない間柄。

 わざわざ命を掛けて助けるとは限らない。


 分断するとは盗賊連中も馬鹿ばかりではないようだ。

 それこそ元兵士、それも指揮官クラスがいる盗賊グループなのかもしれない。


 ふつうなら最後尾の他人の馬車など見捨てて行くだろう。

 もちろん俺でもそうするし、今までもそうして来た。


 しかしだ。


「ローマン様、後ろの馬車が襲われそうです。加勢しましょう!」


 元気よくそう言ってきたのはメロディだ。

 するとボーまでもが。


「承知した!」


 俺は何も言っていないのだが、ボーがユニコーンモドキで走って行くと、それに騎乗したゴブリン二人が付いて行く。

 俺のしもべである狼やゴブリンが、何でボーのいう事を聞いてんだよ。

 主人は俺なんだぞ?


 最後尾の馬車にも護衛はいるが少ない。

 見た感じだと人間の冒険者がニ人しかいない。

 舐めすぎだろと思う。


 しかし戦闘となったらそんな考えが吹っ飛んだ。


 襲撃を仕掛けて来たのはやはり十人程度。

 獣人と人間の混成盗賊団だ。

 矢が少ないのか、数本の矢を飛ばしただけで接近戦を挑んで来た。


 そこで最後尾の馬車の荷台から、一人の少年が現れた。

 いや違うな、あれは小人族、ハーフリングか。

 ハーフリングは身長が人間の子供ほどしかないというだけで、人間と外見の大差はない。

 ただし魔力が人間よりも多いことから、魔法が使える者は人間よりも多いと言われている。

 だが小人属のような非力な力が一人加わったところで、この戦局は変わらないぞ。

 しょうがない、助けるか。


 御者席に座るガガに獣車は任せ、俺は荷車から飛び降りて後方へ向けて走り出す。

 途中、メロディの獣車に護衛として乗っているギギに「メロディを頼む」と伝えるのを忘れない。

 一応、恰好はつけておく。

 メロディをチラリと横目で見つつ、颯爽さっそうと俺は走り去った。


 まずは盗賊団の後方に回り込んでやろうかと考えていたところ、既に始まっている戦闘に変化が生じた。


 ハーフリングが一人で大暴れしているのだ。

 護衛の冒険者二人は全く手を出していないのに。

 俺は思わずつぶやいた。


「魔法が使えるとはな」


 ハーフリングの男は土系魔法を使えるらしく、土のつぶてを飛ばしている。

 面白い事に、その土のつぶての飛ばし方が普通じゃない。

 長い棒状のスタッフ・スリングと呼ばれる飛び道具を使って、土のつぶてを飛ばしている。

 土のつぶての魔法は魔力で飛ばすのが普通なのだが、それをさらにスタッフ・スリングを使って加速させている。

 早い話、物凄い威力だ、


 そこへ我々の秘密兵器、メロディの魔法が加わった。

 エンタングルの魔法で動けなくなった盗賊に、スタッフ・スリングでの魔法攻撃。

 まさに一網打尽だった。


 あっという間に半数を失った盗賊団は退却も早い。

 号令の下、さっと森の中へと消えて行った。

 残されたのは重傷を負った盗賊か遺体だけである。


 軽傷なら連れて行って売り払えたんだが、重傷となると連れてはいけない。

 メロディのヒール魔法でも、治して直ぐに動かせるほどの効果はない。

 となると、この場に置いて行くか、楽にしてやることになる。

 そう言う汚れ仕事はゴブリン達がやってくれる。

 ボーもしっかりそれに交じってくれた。


 あちこちから盗賊の悲鳴が聞こえてきた。


 俺は挨拶をしようとハーフリングの男に近づくと、幌付の馬車の中から別のハーフリングの女が顔を出した。

 小人属自体が珍しくはあるが、時々街で目にするくらいはいる存在だ。


 一応ハーフリングの男の方に挨拶をと思ったのだが、先に女の方から挨拶された。

 

「私はシルパ・マヌエルと言います。まずは、ありがとうございます、助かりました」


 女性のハーフリングはさらに小さい。

 顔つきは確かに大人の女性だが、身長が小さいと子供にしか見えない。


 盗賊の装備品の回収をしている間に話を聞いたところ、スタッフ・スリングを使った男性の方はアノ・マヌエルといって彼女の夫らしい。

 二人は夫婦だという。

 二人とも見た感じだと人間の三十代前半に見えるのだが、エルフ同様に長寿だからもっと年齢は上かも知れない。


 主に塩を売って生計を立てている行商人だそうだ。

 塩土のある場所で塩を採取して、各地へ移動して売っている。

 旦那のアノさんが魔法が使えるから護衛は少ないらしい。

 働き者の夫らしく、俺達が話している間にもテキパキと盗賊の装備回収をしている。

 ゴブリンよりも小さいから子供の様に見えて、なんとも微笑ましい光景の様に目に映る。


 そして、こちらの自己紹介も済んだところでシルバさんに嫌な質問をされた。


「先ほどの魔法なんですが、見たことない魔法ですね。どういった方が使っているのですか」


 メロディのエンタングルの魔法のことだ。

 やっぱり珍しい魔法なんだよな。

 これは迂闊うかつに使わない様に言っておかないとだめだな。







 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ