表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/45

35 リーダーは誰だ









 今俺は股間を押さえ、恥ずかしそうに椅子に座っている。


 同じテーブルにはメロディとボー、そしてブルンブルン女と銀等級の女も座っている。

 名前はブルンブルン女がジャーラ、もう一人がインガという。

 その周りでは護衛のゴブリン四匹が、周囲を睨みつけるように警戒している。


 まるでVIP席のようでもある。

 護衛がゴブリンでなければだが。


「すまない、チンピラか何かに絡まれたのかと思った」


 俺が正直に答えると、腰を浮かして怒り出すブルンブルン女のジャーラ。


「チンピラとはなんだ!」


 イチイチ災害級の胸をブルンブルンされると、視線のやり場に困る。


「すまないな。しかしあそこで放って置いたらお前はボーを殴ってただろ」


 俺が最もらしい事を言うと。


「確かにそうなんだが……」


 そう言ってすごすごと元の椅子に腰を下ろすジャーラ。


 簡単に話をまとめると、ボーはこの二人と同じパーティーを組んでいた冒険者だ。

 だがボーが突然そのパーティーから抜けたから怒っているらしい。

 しかもその抜けた理由を言わないから、話がややこしくなっているんだという。


 パーティーを抜けるのにわざわざ理由を言わなきゃダメなのか。

 そんな理由を聞いてどうするんだとは思うが、こいつらにとっては重要な事らしい。


「なあボー、こいつらはそれが気になるっていうんだから、教えてやれば良いんじゃないのか。それでこの話は片が付くっていうんだしな、どうだ?」


 俺がボーにそう言うと、ジャーラとインガの二人は黙ってうなづく。

 すると(あきら)めたようにボーがゆっくりと口を開く。


「これはあまり言いたくはなかった。だが言えというならば仕方ない。話してやる」


 ここに居る全員が前のめりになってボーの話に耳を傾けた。


「パーティーを組んで初めは良かったんだ。三人で仲良く順調に稼いでいたよ。このパーティーなら私も上手くやっていけると思ったよ。だがな、ジャーラとインガが付き合い初めてからパーティーの雰囲気は変わったんだ」


 付き合い出したと?

 女同士でか。


 突然のぶっちゃけトークに、メロディはボーを二度見する。

 俺は逆にジャーラの胸とインガの顔を交互に見てしまう。

 深い意味はない。


 するとジャーラが話し出す。


「待て、私とインガが悪いというのか!」


 悪いと言わないが原因はお前らだろうに。

 三人のパーティーで二人が良い仲になったら、残った一人は居ずらいだろうな。

 それくらい察しろって感じだ。


 ボーが話を続ける。


「まあ、そうだな。野宿する時も私は常に気をつかわなければいけない。最初は二人の邪魔をしないようにと思っていたんだがな。でもな、放って置いたからだろうけど、お前ら、だんだエスカレートしていっただろ。昼だろうが夜だろうがお構いなしだ。獣じゃあるまいし……」


 お構いなしに、何がだ?

 そこは男が一番詳しく知りたいところだぞ!

 ぜひボーの口から聞いてみたい。


 途中からメロディにもどういうことか理解してきたらしく、顔を赤くしてずっとうつむいている。


 ずっと黙っていたインガが口を開いた。


「そんな理由だったのか……悪かったよ、気が付かなくて。これからは夜だけにするよ」


 そこまで言われておいて、やっぱりするんだ、お前らは!

 獣だな、いや獣人だからか?

 しかし話に入っていけない。

 

 そこへボーが変な事を言い出した。


「悪いんだが、私はもう彼らのパーティーに入ってしまったんだ。今更もう遅いんだよ、すまないね」


 は?

 このパーティーって俺とメロディとゴブリン、そして狼のことなのか?

 ゴブリンは奴隷だしメロディだって書類上は奴隷だし、ましてや狼達は使役獣だぞ。

 パーティーとは違う。

 だいたい俺は冒険者じゃないしな。

 しかしボーは強引にその設定で話を進めるらしい。


「だから、悪いが新しいメンバーを見つけてくれ、すまない!」


 何故かボーが謝罪している。

 逆のような気もするが。

 取りあえずボーは元のパーティーには戻りたくないらしいから、俺もその設定に付き合うとするか。


「俺からも頼む。ボーは俺達のパーティーにとってかけがえのないメンバーだ。悪いが見逃してはくれないか」


 何故かボーが俺を見て目をウルウルさせている。


 しばらく考えてからジャーラが返答した。


「わかった、そこまでいうなら仕方ない。ボーを頼む」


 その言葉にインガは少し驚いたようだが、最終的には諦めたのかインガも「頼みます」と言ってきた。


 こうして穏便に話は済んで、ジャーラとインガの二人が手を繋いで店を出て行く。

 すると何故か周囲のテーブルから拍手が巻き起こった。

 すべて聞いていたらしい。

 完全に酒の(さかな)にされたな。

 どうりで店内が静かだった訳だ。


「いやあ、ありがとうローマン」


 直ぐにボーが礼を言ってきた。

 俺も社交辞令的に返す。


「問題ない、困った時はお互い様だ」


「そうか、そうか、私も正式にこのパーティーメンバーか。ふふふふ」


 ん?

 今、変なことを言ってたような。


「おめでとう、ボーさん。でも私の方が先輩ですからね?」


 あれ、その言い方はメロディも認めているってことなのか。

 さっきの話の流れはあくまでも設定だろ。

 だいたい俺は商人であって冒険者じゃない。

 同じパーティーって変だろ。


「ええっと、ボー、ひとつ聞いていいか?」


「なんだ、リーダー」


 へ?

 リーダー?

 もしかしてパーティーリーダーってことか。


「俺は商人ギルドの銀等級、ボーは冒険者ギルドの銀等級だな」


「ああ、良い感じに一緒だな」


「つまりだな、俺とボーじゃギルドが違っているんだぞ。それでパーティーって変だと思わないのか」


「そうか? それを言うならメロディやゴブリン、それに狼もギルドに登録してさえいないよな」


「ああ、確かにそうだが……」


「なんか問題あるのか、リーダー?」


「ない、な……」


 どうでも良くなった。


 ただ、うやむやの内に俺の隊商メンバーにボーが加わったってだけのことだ。

 うん、実に些細なことじゃないか……


「なあ、ボー。ひとつだけ頼みを聞いてくれるか?」


「ああ、何でも言ってくれ、リーダー!」


「その、リーダーってのだけは止めてくれ。恥ずかしい……」







 店の外にいるサウスとイーストの二匹が俺から何かを感じ取ったのか、いつもより長めの遠吠えを始める。


 その物悲しそうな声が、街の空にいつまでも響き渡るのだった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ