32 依頼の品を受領
荷物を積み終わり俺達は出発した。
ボーはバルトの街まで付いて来ることになった。
冒険者ギルドに報告する為だ。
途中、弱い魔物には遭遇したが、特に問題なくバルトの街へと到着した。
街の商用門に来たんだが、何度来ても治安が悪そうな雰囲気を醸し出している。
そこかしこに浮浪者がいて、金や物を強請ってくる。
門番までが悪そうな顔に見えてくる。
だがここの門番は賄賂が効くから、実は重宝していたりする。
バルトの街へ入ると中はもっと酷い。
糞尿の臭いが立ち込め、浮浪者に加えて生きてるか死んでるのか分からない者が、そこらに普通に転がっていたりする。
さらに建物の陰では、目付きのの悪い奴等が蠢いていた。
前に来た時よりも酷くなっているな。
これも戦争の影響かもしれない。
俺はなるべく前を見る様にして、この町の商業ギルドへと向かう。
ボーは冒険者ギルドへ行くというのでここでお別れだ。
「縁があったらまたどこかでな」
「ああ、ローマン。その時は私がお前たちを助けるよ」
そう言ってお互い違う方向へと進んだ。
商業ギルドへは到着すると、俺一人で受付へと出向く。
他は獣車で留守番だ。
治安の悪いこの街では、昼間の街中でも普通に窃盗があるのだ。
商人の獣車や馬車は、襲撃の格好の的となる。
盗賊襲撃で得た荷物はここですべて売り払ったのだが、予想はしていたが大した金にはならなかった
ただし盗賊の二人は、ここで売るよりもソーダンかダバトの街の方が高く売れる。
この街よりも奴隷市場が盛んだからだ。
常に見張りが必要だが金の為だ、少しの間は監視する。
そして書類を渡すと受付女は俺の顔を怪訝そうに何度も見つつ、裏口に行くように言ってきた。
渡した書類というのは、罰依頼の書類だ。
俺は言われた裏口の扉を開く、するとそこは外だった。
「ひゃあっ――ってローマンさんじゃないですか」
そこにいたのは獣車を見張るメロディ達だ。
魔物でも見るような目で俺を見つめていた。
「なんだ、ここに出るのか」
俺が裏口から外に出てほどなくすると、別の建物から若い男が出て来た。
商業ギルドの職員バッチを胸に付けている。
「君がローマン君かな?」
「ああ、そうだ」
「それなら運んでもらう物を渡すんでサインを貰っても良いかな」
書類を渡されたのでサインをする。
「これで良いか」
「ああ、完ぺきだね。それでは引き渡しだよ。ちょっと待っててくれるかい」
そう言ってギルド員の男は再び離れの建物へと入って行く。
なんだろうか、その運ぶ物とは。
罰依頼っていう位だから、誰もやりたがらない依頼なんだろうとは思う。
直ぐにギルド員の男が台車に載せた箱と一緒に出て来た。
それに護衛らしき冒険者が二人いる。
箱の大きさは人の手の長さほどの正方形。
一人じゃ持てそうにない大きさだ。
確かに輸送には荷車が必要な大きさではある。
「それが依頼の品で間違いないか。それと中身を教えてくれ」
俺がそう言うとギルド職員の男は首を横に振る。
「いやあ、中身に関しては秘密だよ。ローマンさんの仕事はこれをアーレの街の商業ギルドへ持って行くことだよ。中身は絶対に見ないでほしいかな。見たら面倒臭い事になるからね」
ギルド員の男はそう言って台車ごと俺に引き渡した。
俺はゴブリン達に助けを借りて、その大きな箱を荷車の荷台へと移す。
結構な重さだ。
中身が気になる。
生き物かと思い、箱を叩いたりしてみたが動きはない。
見るなと言われると凄く見たくなるのが人というもの。
ちょっとくらいならば……
「ローマン様、何をしておられるのですか?」
メロディに見つかった。
「ああ、ちょっと箱の模様が気になってな、はは、はははは」
「えっと、箱に模様なんてないですけど?」
「え、そうか。う、上手いこと言うな、メロディは。はは、はは、ははは」
ギルド職員の男も疑わしそうな眼で俺を見ている。
ふうぃ~、危ない。
ついつい見たくなる、気を付けねば。
ギルド職員の言葉が本当なら、中身を知ってしまったら巻き込まれるパターンだ。
厄介ごとはいらない。
だから見ないぞ、絶対に見ない!
「では、後は頼んだよ。間違いなくアーレの街の商業ギルドに届けてよね。ここからは君達の責任だからね。それと忠告しておくけど、中には変わった奴がいてさ、この箱の中身を欲しがったりする。気を緩めない方が良いと思うよ。まあ、頑張ってくれ」
ギルド職員の男と護衛二人は荷物を渡すなり、さっさといなくなった。
まずは値段は張るだろうが、出来るだけ安全そうな宿に泊まる。
それでも終始警戒態勢は解かない。
箱も宿泊部屋まで持ち込んだ。
この街の宿はゴブリンでも入室可能だったのは助かった。
おかげで交代で夜番を回せたが、一晩中気を張るはめになった。
夜中に何度か外で叫び声が聞こえたが、特に俺達の宿は問題なかった。
翌朝、俺達は早々にバルトの街を出発しようと門を出たところ、直ぐに呼び止められた。
「ああっ、ローマンじゃないか!」
見れば馬に跨っている獣人女のボーだった。
「おお、どうした、こんなところで?」
俺が聞くと嬉しそうにボーが答える。
「ソーダンの街まで同行させてくれる隊商を探している。さすがに一人じゃ色々大変だからな」
そうか、仲間を失ったんだったよな。
「冒険者ギルドで依頼を受けないのか?」
そう俺が聞くとあっけらかんとボーが答えた。
「ギルドで紹介する依頼はひとつも残ってなくてね、こうやって直接交渉してるんだよ。ところでローマン、君らはどこへ向かうつもりだ」
「俺達はアーレの街までだが……一緒に来るか?」
「おお、それは助かる!」
「いや、こっちこそ護衛が増えるのは助かる。でも護衛費用はあまり出せないが良いのか」
「かまわん、食事さえ保証してくれれば問題ない」
「よし、交渉成立だ」
こうして護衛が一人増える事になった。
そして新たなメンバーを連れて、俺達はひたすら街道を進む。
途中、昆虫系魔物が出現したが、ウエストとサウスの敵ではない。
弱って動きが遅くなったところへ、俺が放ったバリスタの槍が脳天を貫いた。
あ、バリスタで仕留めたのは初めてかもしれない。
仕留めたのは嬉しいのだが、虫系魔物は実入りが少ない。
殆んどが食用にはならないし、素材も利用価値がない。
せめて食用になる魔物が来てほしい。
と思ったら、狼達は平気でバリバリ食べていた。
そして本日二度目の虫系魔物出現。
鮮血アリというアリ系の赤色をした魔物だ。
体長は人の片腕の長さほどもあるのだが、それが行列を作って街道を横切っていた。
早い話、そいつらが居ると獣車が通れない。
何か餌を見つけて巣とエサの間を行列しているのだろう。
と思ったら来るときに俺が倒した盗賊の死骸に集っていた。
そう言えば死体、埋めなかったな。