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3 依頼と消去


本日3話目の投稿です。










 俺は何気なくオーク達の馬車に近づくと、番をしていた人間の男奴隷が「近づくな」と俺に槍を向け威嚇いかくしてくる。


「まあまあ、そう目くじらを立てないでくれ。同じ種族の人間じゃないか。そうだ、これいらないか?」


 そう言って果物を奴隷男に差し出す。

 オレンジだ。


 直ぐに男の目が俺の出したオレンジを凝視する。

 そして男はオレンジを見つめたままこう言った。


「えっと、本当にいいのか?」


 そこで俺はオレンジを男に投げ渡す。


「主人が来る前に早いとこ喰っちまえ」


 男はオレンジを受け取ると、周囲をキョロキョロと見回した後、口いっぱいに頬張った。

 男はむさぼるのに必死の様子だ。


 その隙を狙って俺はオークの馬車に軽く傷をつける。

 もちろん目立たない程度にだ。

 傷というより印なんだがな。

 奴隷男はオレンジに気を取られてそれどころではない。


 さて、俺は帰るか。


 俺はさっさとこの地を離れて行った。

 結局、獲物は森カラスが四羽だけ。

 犬達よ、すまんな。


 俺は家に着くと伝達屋への返信を書き始めた。


 依頼の返信を送って数日が経った頃、伝達屋から契約完了の返事が届いた。

 これで俺には標的『消去』の義務が生じる訳だ。


 詳しい内容を見ると、やはりこの間“迷いの森”で出会ったゾッチというオークが標的だったことが分かった。

 これであの忌々(いまいま)しい野郎をあの世へ送れる理由が出来た。

 久しぶりにやる気が出てくるってもんだ。


 契約は標的『消去』で報酬は金貨十五枚。


 そして手紙には追加報酬について記されていた。

 『奴隷エルフの獲得:その場合報酬に金貨十枚追加』

 とあった。


 金貨十枚はデカいな。

 標的のオーク消去だけだと金貨十五枚だが、エルフ救出も合わせれば金貨二十五枚になる。

 それだけあれば半年近くはスローライフがおくれる。


 それ以外の追加報酬も記されている。


『ゾッチの部下のオーク一匹に付き:金貨一枚』

 とある。


 まあ、これはついでだな。

 護衛は全部で四人だそうだ。


 ゾッチ配下の者の手の甲には皆が同じ入れ墨をしているということで、手首が証明になるらしい。

 手首を持ち帰れとか、ちょっと個人的にはやりたくない。

 報酬は大事だが今の俺にとってはそれよりも、あの胸糞悪いオークを許しておけない。


 俺は手紙をローソクで灰にすると直ぐに準備に入る。


 ふと、棚に置いてある一冊の本に目が留まる。

 先日、衝動しょうどう買いした鍵付きの本だ。

 買ったは良いが、中身が見れなければ意味がない。

 この本も早いとこ売った方が良いか、置いておいてもしょうがない。

 そう思い、本に手を伸ばしたところで思い留まる。

 また今度にしよう。


 俺は倉庫に向かう。


 倉庫の床に埋められている木箱を掘り出す。

 掘り出した木箱を見ればなんだか懐かしく感じる。

 ナイフを使ってギーギーと音をたてながら木箱を開けていく。

 

 土まみれの木箱の蓋を開けると、中には使い慣れた突刺剣やダガー、投げナイフなど懐かしい道具の数々が現れた。

 引退を決意した時に埋めたものだ。


 必要なものを装備していき、最後に黒い衣装を取り出しバッと広げる。

 黒く染められたフード付きのマント。


 それら身にまとい立ち上がる。


 何年ぶりかにこの格好をするのだが、やはり身が引き締まる。

 これに身を纏った瞬間から商人である“ローマン”から“闇の執行人”へと変わる。


 俺のいない間の犬の餌やりは、いつも頼んでいる村の少年が小遣い稼ぎでやってくれる。

 それが出来ない場合は冒険者ギルドに依頼を出す。

 番犬は置いて行くのだが、柵の中に入らなければ餌やりも安全だ。


 使役獣には干し草を山積みして、水もたっぷりにしておいたから数日は大丈夫だろう。


 そして俺は人が寝静まった真夜中に、人知れず出発した。

 今回はウエストとノースが相棒だ。

 二匹にカートを引かせていく。


 目的の場所へは翌日の午前中に到着した。


 多種族が混在する街、『ソーダン』だ。

 

 領主は人間の男爵なのだが、どういう理由かは知らないが種族にこだわらない居住権を与えている。

 それで各地からこの地へと亜人が集まっている。

 その数は今も増え続けているとかで、外壁の外にまで家が溢れている。

 人間が半数を占めるが、残りの半数を獣人にゴブリン、ハーフリングやドワーフが占める。

 だがエルフだけはいないらしい。

 エルフはそういう閉鎖的な種族だからだ。

 

 情報によると標的がこの街で連泊していることが分かっている。

 ただし宿泊場所をちょくちょく変えているらしい。

 狙われているのを知っていて、警戒しているのかもしれない。

 そうなると少し厄介になる。

 警戒している標的というのは非常に難易度が高い。


 俺はソーダンの門で通行証でもある“商人証書”を見せる。

 犬の登録証も見せる。

 犬は荷運び用の使役魔物で登録してある。

 この大きさだ、普通の犬では疑われるからだ。

 いつもの事だが犬を見て門番がビビる。


 これがあれば大抵の街へ問題なく入れるが、入街税は支払わなければいけない。

 俺の分で銀貨三枚、それと犬二匹でさらに銀貨ニ枚。

 意外と高い。

 

 さて、街へと無事に入ったのだからまずは拠点を見つけないといけない。

 早い話が宿だ。

 それも獣舎がある宿を探さないといけない。

 しかし前に来た時よりもはるかに人の数が多い気がする。


 確かこの辺にあったと、過去の記憶をもとに街路を探す。

 宿の名前は『古のランタン亭』だったか。


 そして古ぼけた宿をやっと見つけた。

 宿に入ると昔と変わらないおっさんが、受付椅子に座って居眠りをしている。

 相変わらずでっぷりとした体形だ。


 俺が声を掛けると一瞬だけ驚いた顔するが、直ぐに不愛想な表情へと戻る。

 どうやら俺を覚えていたらしい。


 俺はおっさんに顔を近づけると小声で言った。


「宿泊を頼む。使役獣二匹もいる――それと今この街に滞在しているゾッチというオークについて調べてほしい」


「わかった、夕暮れまでに調べておく。それより、闇の執行人は引退したって聞いたんだが……」


 引退宣言しておいてまた仕事かと思うのは当たり前だよな。

 言い訳出来ないんだが。

 ちなみに“闇の執行人”とは現役時代の俺に付いた呼び名だ。

 偽名をいくつか使っていたはずだが、いつの間にかこの名で呼ばれるようになった。


「あ、ああ、やり残した仕事があってな。えっと、金はこれで足りるか?」


 俺がカウンターに金を置くとおっさんは慌ててそれを押し返す。


「おいおい、やめてくれ。あんたは命の恩人だ。恩人から金なんて貰えねえよ」


 俺は過去にこいつの命を救ったらしい――が、俺は覚えてない。


「それは過去のことだろ。良いから取っておいてくれよ。この街へは今後も商人としてくる事もある。その時に色々と融通してくれればいい。それに確か子供は五人いるんだよな、金はあったほうが良いだろ?」


「それが、六人目が生まれてな……」


「そうか、それならなおさらだ。とっておけよ」


「すまねえ……」


 おっさんは俺が出した金貨を懐に仕舞ってくれた。

 宿代と情報料として金貨一枚は高いのだが、これも先行投資みたいなもんだ。


「部屋は前と同じところで構わないか?」


「ああ、空いている。好きに使ってくれ」


 俺は犬を獣舎に預けて部屋へと向かう。

 二階の角部屋だ。

 この部屋は逃げる時に隣の建物に乗り移れる場所にある。

 ただそれだけの理由で選んでいるのだが、逃げ道があるという安心感は大きい。


 俺は部屋に荷物を置くと直ぐに街中へと情報の収集へと出かけた。

 向かうは商人ギルドだ。

 カートを牽いてまでして折角この街へ来たんだ、手ぶらで帰るのはもったいない。

 何か仕入れられないか調べつつ、最悪はアーレの街への荷物の輸送依頼を受けたい。

 

 商業ギルドは込んでいた。

 

 凄い人の数だ。

 依頼数もアーレの街の比ではない。

 近くにいた人のよさそうな商人に聞いてみれば、なんでもこの街の近くで戦争が始まったらしい。


 それは男爵同士の喧嘩が発端の戦争だという。

 迷惑な話だ。


 そうなると物資が大量に消費されて商人は儲かり、戦争で多くの捕虜が発生して奴隷が一気に増える。

 そうすると奴隷商人が儲かり、その奴隷の輸送護衛に冒険者が集まって来る。

 このソーダンの街でもその戦争景気にあやかっているということだ。

 










明日にまた何話か投稿予定です。





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