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29 ゴブリンとスープ








 ゴブリン達がほぼ同時にスープをグイッと口に入れた。


 四人が共に同じ行動をする。

 目をカッと見開き、スープを二度見する。

 顔を上げるとゴブリン同士で目を合わせあう。


 まさか、吐き出そうとかいうのはやめろよな。


 そこでリーダー的存在のググがつぶやいた。


「メロディ様、料理、上手、です」


 驚愕の言葉。

 旨いと分かるとゴブリン達は、物凄い勢いでドロドロした緑色の液体を飲み干した。


「こんな、旨い、初めて」


 ガガが器を舐めながらそんな事をつぶやいた。

 嘘ではない様だ。

 ゴブリンには毒物が効かないのか?

 まさかスライム好きとか?

 

 それとも俺の味覚がダメなのか。

 いや、俺がダメな訳ない、人間に合わないに違いない。

 きっとそうだ、亜人の味覚に合うスープなんだこれは!


 ああ、折角美人なのに残念でならない。

 しかし、この俺に割り当てられたスープ、どうしたものか。

 ふと、メロディと目が合う。

 なんか、嬉しそうに俺と俺の手に持つスープを見つめている。

 

 捨てられん……


 残ったスープをパンと一緒に喉の奥に流し込むと、急いで俺は行動に出た。

 鍋に残るスープをゴブリン達の器に注いで早いとこ空にする作戦だ。


「どうだ、旨いだろう。メロディは料理上手だな。ほら、お替りだ、沢山食って良いぞ。はは、はは、はははは」


 俺は常に冷静だ。


 明け方、狼二匹の遠吠えで目が覚めた。

 腹の調子も悪い。


 遠吠えということは、何かが近づいて来るのかもしれない。

 今のところ遠吠えなのでまだ大丈夫。

 唸り声を上げ出すと危険だ。


 辺りはまだ暗い。

 夜明けまで半刻ほどある。


 メロディも目を覚ましたようだ。

 獣車の荷台から顔を出している。

 眠そうな顔までもが、やたら可愛らしい。


 俺は胃の奥から湧き上がるものを必死で耐えつつ、言葉を絞り出した。


「メロディ、狼達が何か嗅ぎつけたみたいだ。まだ遠いが武器は直ぐとれるようにしておけ」


 見張り番のガガとギギがキョロキョロしている。


「ガガ、ギギ、落ち着け。何かが近づいたら狼達が知らせてくれる」


 そう言うと、少しは落ち着いたようだ。

 

 中途半端な時間である。

 再び寝るには時間があまりない。

 ならばと、俺は起き上がり武器を装備して湯を沸かす。


 するとメロディも起きて朝食の準備を始める。

 心配になって何を作るのか見ていると、パンを焼いている。

 それとハーブティーの準備のようだ。

 これなら食える、大丈夫!


 安心したその時だった。


「ガルルルルッ」

「グルルル」


 このタイミングでイーストとサウスが唸り出した。

 何かが近づいているのか。

 

「ググ、ゲゲ、起きろ!」


 寝ているゴブリン二人を叩き起こす。

 ガガとギギは既に槍を構えて臨戦態勢だ。

 メロディも弓の準備をしている。

 

 狼二匹はどうやら街道の方向を見ているようだ。

 この時間に街道を進む人族はまずいない。

 やはり魔物か。


 しばらくすると馬のひづめの音が聞こえ始める。

 

 そして突如、街道からそれて音がこちらに近づいて来る。

 

 馬ということは人族の可能性が高い。

 まさかケンタウロスってことはないだろう。


 ひづめの音は一定の速度でこちらに近づいて来る。

 

 ――血の匂い


「人です、怪我をしています!」


 突然のメロディの叫び声。

 そして走りだす。


「まて、安全の確保――くそっ」


 すでにメロディは暗闇の中へ走り出していた。

 しょうがなく俺も走りながらゴブリンに指示をだす。


「お前たちは獣車を見張っていろ!」


 ほどなくして一頭の馬が見えた。

 乗馬しているのは、かなり衰弱しているが人間のように見える。

 フードを被っていて人種も性別も不明だ。

 直ぐに分かったのは血を流しているってこと。

 

 メロディが馬の横に近づき、今にも落ちそうなその人を馬から下ろそうとする。

 腕力の無いメロディには無理だ。

 直ぐに俺も手を貸す。

 

 そして抱きかかえるようにして、ゆっくりと地面へと下ろす。

 

 軽い。

 それに柔らかい。

 こいつは女性だ。

 

 肩を斬られている。

 それほど深い傷でもないが、出血を止めなければマズい状態だ。

 

 まずは焚火の近くまでお姫様抱っこで連れて行く。

 毛布を引いてその上に寝かせる。

 フードとマントを外すと、やはり女性だった。

 獣耳があるってことは獣人族で、装備を見るに剣士だ。

 それに冒険者ギルドのバッチが見える。

 銀等級らしい。


 ゲゲに水を持ってこさせる。

 俺はワインに湿らせた布で傷口を拭う。

 斬られてそれほど時間は経っていない。

 ということはここも危険かもしれない。


「ガガ、ギギ、ググ、周囲を警戒しろ。こいつに傷を負わせた何かが近くにいるかもしれない。油断するな」


 そこでずっと見守っていたメロディが一言。


「あの、治癒魔法使いますか?」


「え?」


「だから、治癒魔法を使えばこれくらいの傷なら治りますけど……」


 治癒魔法が使えるのかよ!

 何でもっと早く言わないの。

 

 びっくりである。


「使えるなら頼む……」


「はい、それでは」


 そう言って治癒魔法を掛けるメロディだった。


 魔法を掛けると傷口があっというまに塞がっていく。

 何度見ても不思議な現象である。

 俺も魔法が使えたらなあと、何度夢見た事か。


 これなら命に別状はない。


 傷を治したからか、獣人女が意識を取り戻して起き上がる。


「ここは、いったい……むう、仲間はどこに!」


 急にハッとした様子で辺りを見まわす。

 そんな彼女にメロディが優しく声を掛ける。


「もう大丈夫ですよ。傷は治しましたから、あとは安静にしていてくださいね」


 獣人女は慌てて自分の肩の傷を押さえる。


「傷が、傷が治っている?」


 治癒士は都市部に集中していて、地方の村や小都市にはほとんどいない。

 都市部の方が数倍儲かるからである。

 だから地方の人々は治癒魔法自体を知らない者までいるという。

 この女性もそうなのかもしれない。


「はい、私が治癒魔法で直しましたから安心してください」


 そうメロディが告げると、獣人女が突然メロディにすがり付いて言った。


「頼む、仲間を、仲間を助けてやってくれ!」








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