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28 お口に合いますでしょうか








 しかしコームは懲りずにまたも詠唱を始める。

 向きになっているようだな。


 そこへ俺はまたも突撃。

 足払いを仕掛けると、いとも簡単にコームはすっころんだ。

 どうやら詠唱中はそれ以外の集中力が散漫になるようだ。


 すると顔を真っ赤に染めて、怒りの表情のコームが叫ぶ。


「卑怯な手を使うな!」


 何が卑怯なんだろうか。

 ならばもう少し待ってやるか。


「そう言うなら待ってやる」


 するとコームがまたも詠唱を開始する。

 俺が今度は何もしないでいると、コームの顔の前に植物の種のような物が浮かんできた。

 あの種が勢いよく飛んでくるのか。


 ならば突撃!


 発射される前に短剣で種を払い落してやった。


「貴様、シード・バレットを叩き落としたのか……なんて無茶な事をする。そんな事する奴は初めてだ」


 地面には植物の種っぽい何かが落ちている。


「なあ、コーム。この種って土に植えると芽は出るのか?」


「知るか!」


「そうか、それなら次の魔法を頼む」


 そう俺が言うとコームはため息をつきながら剣を下ろした。


「あれ、どうした。今度は別の魔法か?」


 疲れ果てた様子でコームが答える。


「もう、おまえの勝ちで良い……」


 それを聞いたメロディは子供の様に飛び跳ねて喜んだ。

 そして俺に抱き着いてくる。


 おおおお、す、すげえ!

 美人に抱き着かれてる、俺!

 嬉しさ百万倍だが、俺はえて冷静な態度を崩さない。


「分かったから、ちょっと離れてくれ」


 そう言って格好良く、抱き着くメロディを引き離す俺。


 反対にコームと一緒に来たエルフ達の落ち込みようが凄い。

 信じられないと言った様子か。

 コームはそれほど強かったとは思えないんだが、彼らの落胆をみると期待されていたんだろうか。

 

 まあ良いだろう。

 礼ぐらい言っておくか。


「コーム、色々と勉強になった。感謝する」


 しっかり感謝の念を伝えると。

 

「待て、腕の傷を治す……」


 そう言ってコーム自らが、俺の腕に治癒魔法をかけた。

 なんだ、悪い奴でもないのか?

 消去しなくて良かった。


 一応、種は持ち帰る。

 ぜひ土に植えてみたい。


 そして俺は獣車に乗り込んだ。

 メロディもユニコーンの獣車に乗り込むと、当たり前のように俺の獣車の後に付いて来る。


 俺達はギルドの依頼をこなすため、新たな方角へと進む。

 行く先はバルトの街だ。

 もちろんメロディも付いて来る。


 そう言えば俺は何の為に決闘をしたのだったか……



 

   ◇ ◇ ◇ ◇




 ダバトの街を経由して街道に入り、途中バルトの街へと向かう街道へと入る。

 バルトの街はちょっと危険地帯が多い地域だ。


 それに途中で一泊する必要があるのだが、途中の街道沿いには街が無い。

 せいぜい小さな村があるくらいだ。

 そういった村にも宿泊所はあるのだが、ちょっと質が悪いし女性はお勧めできない。

 メロディみたいな美人が泊まったら、何をされるかわからない。

 エルフとバレるかもしれない。


 そうなると覚悟して宿泊所に泊まるか野宿するかの二択になる。


 俺一人ならば間違いなく野宿を選ぶ。

 護衛のゴブリンもいるしイーストとサウスのモフモフ二匹もいる。

 夜番には事欠かない。

 

 問題はメロディだ。

 宿泊所もお勧めできないが、野宿させるのも気が引ける。

 野宿の場合だが、トイレはどうするのだ。

 あの美しいメロディがまさか大自然の中で……


 想像出来ない!


 これは本人に選んでもらうしかないな。


「メロディ、バルトの街へは二日かかるが途中には村しかない。一応宿泊所はあるがお世辞にも綺麗なところではないし、何よりも治安が悪い。しかしそれを避けると野宿しかなくなる。それでだ、どっちにするかメロディが選んでくれるか」


「じゃあ野宿で」


 即答かよ。

 むむ、トイレはどうするんだ?

 まさか本人に聞けないよな。

 いやまてよ、美人はトイレにはいかないって聞いた事がある。

 なんだ、そういうことか。

 

「分かった。良さそうな場所で野宿をするとしよう」


「はい、楽しみですね。ローマン様」


 何かウキウキしてる気がする。

 野宿が楽しみなのか?

 美人が考えることは理解できないな。


 陽が沈む前に手ごろな場所を見つけたい。 

 この辺はそういう隊商が多く通るので、野宿の跡が見つかるはず。

 すると意外とすぐに焚火の跡のある開けた場所が見つかった。

 街道のすぐ脇が広く空き地の様になっている。

 野宿している者は誰も居ない。

 

 誰も居ないなら、エルフを抱える俺達にとっては好都合だ。


 俺は獣車を止めて、後ろからくるメロディに手で合図した。

 ゴブリンの四人が直ぐに野宿の準備を始めてくれる。

 野宿生活が長かったらしいゴブリン達は、中々手慣れた手つきで焚火の準備を進めて行く。

 なんだ、結構こいつら役立つんだな。


 ホーンの二匹は獣車から外して少し休ませることにする。

 ウエストとサウスの狼二匹は放し飼いだ。

 好きにさせておく。

 運が良ければ自分たちの食事は自前で調達してくれる。


 近くに水場がないのが残念だが、贅沢は言ってられない。

 

 メロディが自ら進んで食事の用意をしてくれるらしい。

 と言っても材料が限られているから、せいぜいスープくらいしかできない。

 それでも美人女性が作ってくれるというだけで、その味は飛躍的にアップするものだ。

 うん、なんかワクワクしてきた。


 その間に俺は周囲の索敵をしておくか。

 周囲はゴブリンの胸くらいの高さの草が生えており、木々はところどころといった感じだ。

 四つ脚の魔物や動物は、姿を隠して近づきそうではある。

 だがこの草、折ればパキッと音がする。

 つまり接近しようものならパキパキと音を立てることになる。

 それなら何かが接近して来ても、直ぐに察知出来る。

 どのみち今から別の場所を探す気もない。

 

 それに俺には強い味方の狼がいる。


 俺が周囲の索敵から戻ると、既に食事の準備が出来ていた。

 香草と干し肉のスープと焼いたパンらしい。

 なんとも香しい香りだろうか。

 こんなスープを出されたら……惚れてしまうだろうが!


「大したもの出来ませんでしたけど、ちょうど近くに香草が生えていましたので使ってみました。お口に合うか分かりませんが、ローマン様、どうぞ」


 夕暮れ時に焚火を囲んで美人と夕食。

 焚火の揺らめく炎がメロディの顔を照らす。

 ああ、俺は幸せ者か!

 

「で、でわ、す、す、スープを頂こうとするか……」


 俺、興奮しているな。

 冷静になれ!


 スープを飲む。






 ま、まずい……

 




 まさか、毒……





 もう一口飲む。






 間違いない、まずい!

 

 だが俺の表情は変わらない。

 絶対に表情を歪めない。

 常にポーカーフェース。


 間髪入れずにメロディが感想を聞いてくる。


「お味はどうですか?」


 こ、これはきっとエルフの味覚の料理だ。

 人間の俺に合うはずがない。

 だがな、マズいなんて死んでも言えるか!


「め、メ、メロディ、お、美味しいよ……」


「きゃ~、嬉しいです。お替りもありますから、沢山食べてくださいね」


 毒物にお替りもあるのか。

 

 改めてスープに視線を落とすと、緑色のスープだった。

 さっきは暗くて良く見えなかったのだ。


 器を揺らしてみるとドロドロしているのが分かる。

 緑色のドロドロしてるスープ……

 まさか、スライムとかじゃない、よな?


 あ、そうだ。


「おお、ガガ、ギギ、ググ、ゲゲの四人もこっち来て食べてみろ。凄く旨いぞ。いいだろ、メロディ?」


「そう、ですね……ゴブリンさん達もよろしければどうぞ」


 よおし。

 皆で分けて食べれば怖くない。

 

 四つの器に注がれたスープを見つめる四人のゴブリン。


「さあ、さあ、遠慮するな。折角メロディが作ってくれたスライ……スープだぞ。ほら、冷めないうちに!」


 ゴブリンの四人も、恐る恐る器に入れられた緑色の何かに口を付けた。









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