26 過去の記憶
メロディが語ってくれたその内容に俺は驚いた。
話によると彼女は幼い頃に自分の能力に気が付いたのだが、そのきっかけは夢の中に出てきた神様からの助言だったという。
その神は自分を『大地の女神』と名乗ったというのだ。
そしてメロディに向かって『あなたにギフトを授けます』と言ったそうだ。
それに加えて『そのギフトを使って大地の神殿を探すのです』と告げられた。
本当にそれが女神なら『神託』というやつになる。
しかし幼かった当時のメロディは怖くて誰にもそのことを話さなかったそうだ。
だがその能力だけは普段使っていたら、その内バレてしまったらしい。
探し人の居場所を特定したり、無くし物を見つけたりしてはさすがになバレる。
幼い子供に隠せる様な能力じゃない。
その能力だけはバレたが、夢の話までは誰にも話さないできたという訳だ。
そしてやはりギフト持ちと思われる人物に初めて出会い、どうしても聞いてみたくなったのだとか。
それが俺という訳か。
でもなあ、俺は神には会っていない。
俺は子供の頃、かくれんぼをしていて徐々に自分の能力に気付いたのだ。
一度隠れたら全然見つからない。
少し変だと思いながらも、これが特殊な能力とは思わずに俺は育っていった。
それがギフトと気が付いたのは、村を夜盗に襲われた時だ。
そのギフトのおかげで俺は生残ったのだ。
俺の家族は農業でなんとか生計を立てていた。
採れる農作物は芋や野菜がほとんどだ。
はっきりいって貧乏だった。
出来た作物のほとんどが税金として領主に持っていかれる。
だから日々の生活がやっとで、子供ながらにいつもお腹を空かしてした記憶しかない。
そんなある夜のことだった。
村に盗賊が襲って来た。
真っ先に狙われたのは村の外れに近い場所にある我が家だった。
初めは暗い部屋の隅に身を潜めていた俺なのだが、家族が次々に外に連れ出されていく中、何故か俺だけが見えていないかのように奴らは通り過ぎた。
母親が俺を探して泣きわめいていたが、母親にさえ俺は見えない様だった。
薄暗い部屋の中を物色しながら、時々目の前を通り過ぎる夜盗。
子供だった俺は心臓が飛び出しそうだった。
恐怖で身動きすら出来なかったのを覚えている。
俺に出来ることと言ったら、ひたすら部屋の隅でじっとしている事。
外からは家族の鳴き声や悲鳴が響いていた。
しばらくすると、やっと村の人達が鎌や鍬を持って駆けつけてくれた。
しかしその時には全て終わっていた。
家の外には家族の遺体が並んでいたのだ。
その時だった。
子供ながらに自分には特殊な能力があるんだと気が付いたのは。
そんな説明したらメロディが顔を両手で被い泣き始めた。
おいおい、美人に目の前で泣かれても対応に困るんだよ。
何も出来すにオロオロしている内に、メロディは落ち着いたようだ。
「悲惨な体験をしてきたんですね。私の悩みなんて悩みの内に入りませんね」
「メロディ、君と比べる事自体がおかしいからな。気にしなくて良い」
「でも、そうなるとローマン様は神様に合っていませんよね。神様に合わないのにどうやってギフトを貰ったんですか?」
「いや、ギフトってもらうのじゃなく、生まれた時から持っているものだと聞いたんだがな。もしかしたらエルフの言い伝えと人間の言い伝えは違うのかもしれない。ギフト持ちなんか会ったこともないから聞くことも出来ないしな。ただ人には知られない方が良いだろう。それはメロディ、実体験で分かったよな?」
するとうな垂れて答えるメロディ。
「はい、奴隷にまでなりましたから身に沁みました」
「外の世界は危険だ。エルフの森とかに引っ込んでいた方が良いんじゃないのか」
「そうなんですが、やはり大地の女神様に言われたことが気になってしょうがないんです。女神様はこの私に使命を託されたんです。放ってはおけません。ローマン様も同じ信託を受けているなら一緒に探せると思ったんですが……」
やめろ、そんな目で俺を見るのはよしてくれ。
俺は手伝わないぞ。
「お、俺は忙しくてな。い、色々やることが多い。む、無理だ」
メロディが俺を見つめてくる。
凄い破壊力だ、美人の上目遣い。
「ダメ、ですか?」
メロディが両手を組みつつ、ウルウルした目で俺を見てくる。
ぬぬぬぬ!
「そ、そうだな。時々なら手伝ってやる」
「本当ですかっ、嬉しいです。やっぱりローマン様は優しいお方でした!」
完全に俺の負けである。
美人には縁のない俺はこういった時の耐性が無い。
火炎耐性や冷気耐性なんかよりも、女耐性が欲しい。
こうして俺はメロディの手伝いをすることになった。
「取りあえず今から俺はエルフとの交易をしに行くんだ。メロディも一旦はエルフの森に帰るだろ?」
「はい、そうですね。森を抜けだしたのがバレたらまた怒られます」
それより奴隷だったことの方が重要だと思うんだが……
食事を終えた俺達は酒場を出て、宿屋へと入っていった。
翌朝、ダバドの街を出発した。
もちろん目指すはエルフの支配地域だ。
ギルドのお仕事はダバドの街の手前の街道を曲がるのだが、それは後回しにする。
エルフとの交易の荷物を積みっ放しは危険だからだ。
早いとこ送り届けて身軽になりたい。
そして問題なく、前回来た時と同じ枝道に入って行った。
道を進んで行くとメロディが何やら草笛を吹きだした。
何かの合図っぽいな。
すると遠くで返答するかのように草笛の音が聞こえる。
そして前回と同じ場所らしきところで俺達は獣車を止め、エルフが来るのを待った。
しばらくすると森の奥から人影が現れる。
出て来たのはエルフ達で、先頭を歩くのはコームだ。
俺が挨拶を交わそうと獣車から降りて前へ出る。
するとコームは俺を素通りしてメロディに話し掛けた。
無視かよ。
「メロディ、どういうことだ。どこへ行っていた」
「あなたには関係ありません。私にもやらなければならないことがあるのです」
何だか良い気分だな。
いいぞメロディ、もっと言ってやれ!
だがコームはちょっと嫌な表情をしただけで、それ以上は何も言わない。
そして俺に向き変えると改めて挨拶をした。
「すまないね。よく来てくれた。それとメロディが世話になったようだ」
コーム、ちょっと怒ってる感が拭えない。
「それほどでもない。それより、ちょっと来るのが早すぎたか?」
「いや大丈夫、一日くらいの誤差は問題ない」
長寿だから“たかが一日”という感覚なのかもしれない。
そこからはスムーズに事は進み、持って来たビールやパンに小麦は金に変わった。
残念ながら今回は香辛料はない。
やり取りも終わり、さて帰ろうかという時になってコームから声が掛かる。
「メロディ、どこへ行く気だ!」
そうなのだ、メロディはエルフ達と一緒に行かず、俺達と一緒に行こうとしたからだ。