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22 槍の投擲








 狼達がしっかりしてるおかげで、ゴブリンライダー達もなんとか立ち直り、木々の間を走り回る。

 走り回ることで投石を回避しているのだ。


 木の上にいる森猿達は、投げつける物は手に持てるだけだ。

 ほとんどの個体がひとつしか持っていない。

 一回投げてしまえば地上に降りてまた石か枝を拾わなければ、次の攻撃が出来ない。


 しかし全部で十五匹はいるだろうか、十五発分投げつければまぐれで一発くらいは命中するもので、ガガの頭に一発が命中した。

 当たったのは石ではなく木っ端だったから良かったものの、石だったら致命傷だったかもしれない。


 だがそれでガガの怒りが爆発した。


 狼を走らせ助走をつけると、ガガが身体を逸らしながら持っていた槍を大きく振りかぶる。

 十分勢いがついたところで、振りかぶった槍を木の上に向けて投げつけた。


 腕力が無い代わりに、身体全体を使って全体重を槍に乗せた投擲だ。

 そんなこと出来るとはな。


 槍を投げ切ると、勢い余ったガガは狼から転げ落ちる。


 しかし投げた槍はまさかの命中。


「キキ!」


 槍は片耳猿の胸を貫ぬき、そのまま後ろの木に張り付け状態にした。


 それを見た他の森猿は大慌てだ。

 ここで群れは退散するだろうと俺は思ったんだが、そうはならなかった。

 群れにはボス猿がいたからだ。

 ボス猿が群れを統率していて、そいつが逃走を許さなかった。


「キキー、ギャッギャッ!」


 ボス猿の叫び声で群れが動く。


 森猿の群れが地上へと降りてきたのだ。


 一匹での森猿は弱い。

 初心者の冒険者が一人でも、何とか倒せる程度の脅威でしかない。

 だがそれはハグレ森猿のような単体の場合であって、十数匹の群れが相手だとその脅威度は一気に跳ね上がる。


 数は力であり、数は暴力である。


 地上に降り立った森猿達は、降りると直ぐに落ちている棒切れや石を拾っている。

 石を拾った森猿は投石の構えをし、棒切れを手にした森猿はそれを棍棒の様に構えた。


 こいつら、知能を有してやがる。


 群れを成す森猿の場合、時にボス猿の能力によってはまるで知能を有する集団と化す。

 前にそんな事を護衛の冒険者から聞いた事があった。


 それが本当だとすればボス猿がこの群れの頭脳の役割だ。


 狼から落ちたガガは負傷したようだが、それほど酷くはなさそうだ。

 近くにはガガを乗せていたイーストが側で警戒している。

 命に別状はなさそうだが、現状だと負傷でガガは狼には乗れなさそうだ。


 他のゴブリンライダー三人は、負傷したガガの周囲を守る様にウロウロと動きまわっている。


 さて、俺は気が付かれていない様だし、どんな行動をしようかな。


 そんな事を考えていると森猿の群れが動き出す。


「ギャッ、ギャッ、ギャ」


 合図のようなボス猿の叫び声が響いた。


 するとゴブリンライダーに向かって一斉に投石が始まった。


「ウウッ」

「イタイッ!」

「オオット」

「ヒイイッ」


 ゴブリン達が騒ぐ。


 森猿の体格は大きくない。

 腕力はそこそこあるが、物を投げる動作に慣れていない。

 つまり威力が低い。


 でもあのボス猿は迷惑だな。

 俺の自宅の近くの森で、こんな面倒臭い魔物がいるのは邪魔でしかない。

 

「消去だ」


 俺は決心するや直ぐに行動を開始する。


 ロープを伝って音もなく地に降り立つ。


 十メートルほど先に、その場で何度もジャンプして威嚇いかくの声を発するボス猿が目に入る。


 戦闘開始だ。

 こいつ程度に気配を消す必要もなさそうだな。


 俺は一気に木々の間を走り抜ける。

 直ぐに俺はボス猿の後ろに立った。

 そう、真後ろにだ。


 こいつ、気配を殺していない俺にも気が付かないのかよ。

 ちょっとあきれる。


 突刺剣を引き抜き、ボス猿の首の付け根に合わせる。


「消去」


 そうつぶやき、細い棒状の刃を一気に突き入れる。


 刃は首の付け根から入り、喉の奥を通って口へと突き出した。


「ギャ……ハッ……」


 ボス猿の命が消える寸前だった。


 視線を感じて咄嗟とっさに森の奥へ目を向ける。


 誰かが俺を見ている。

 マズい、今のを見られた!


 ゴブリンライダー達を残し、俺は一人その視線の先へと走り出す。


 すると俺の行動に合わせる様に森の奥の気配が動き出した。

 俺から離れて行く。

 かなり早い動きだ。

 

 全然追いつけない。

 何かに騎乗しているのか。

 くそ!


 そして気配は完全に消えた。

 

 俺の殺しの瞬間を見られた可能性が高い。

 これは闇世界の人間にとって致命傷である。

 殺しの手口を見られるとは、俺としたことがとんだ失敗をしてしまった。

 油断して気配を消さなかったのがいけない。

 下手をするとこの業界の仕事を受けられなくなる――ってあれ、俺は引退したんじゃなかったか?


 なんだ、問題ないじゃないか。

 ああ、誰だか知らないが驚かせるなよな、もう。


 俺がゴブリンライダー達の所へ戻ると、既に決着はついていいた。

 数匹の森猿の亡骸が散乱していて、残りは逃げ出したようだ。

 やはりボス猿をやってしまえば、あとは問題なかった。

 怪我もガガの負傷だけで済んだし、結果オーライだ。

 

 生憎あいにく、森猿は金に成らない。

 素材は全て売るとこなしだ。


 肉もマズいが狼達には問題ないらしいし、ゴブリン達も肉を食べるという。

 俺は人の形をした肉は、とてもじゃないが食う気になれない。

 好きなだけ喰わしてやろう。

 ゴブリン達は大喜びだった。


 だがゴブリンに投げ槍が出来ることは盲点だった。

 投げ槍も立派な飛び道具だ。

 しかし今更ながら槍を禁止して別の武器を一から訓練するのも大変そうだ。

 しょうがない、飛び道具解禁するか。

 俺が気を付ければ良いだけの話だし。

 それに俺を襲いそうな雰囲気は全く無い気がする。

 狼達の主人は俺だからかもしれないな。


 こうしたことから、ゴブリン達の飛び道具の使用を解禁することにした。








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