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21 ゴブリンライダー







 いよいよゴブリン対森猿の戦いが始まる。

 ググのスリングはまあ当たらない。

 それでも森猿は危険を察知してか、屋根の上をあっちこっちと逃げ回る。

 地上からは四匹の狼がガウガウ言いながら倉庫の周囲を走り回るため、森猿は地上に逃げることも出来ない。

 完全に詰んでいる。


 おお、なんか見ている俺が興奮してきた。


 屋根に登ったガガ、ギギ、ゲゲが槍を構えて、ジリジリと森猿の逃げ場を無くしていく。


 森猿はキーキーと歯を剥き出しにして威嚇する。

 その森猿は結構若い猿で、他の魔物に噛み千切られたのか、片耳が無くなっているのが見えた。

 森猿の群れの中では歴戦の勇士なのかもしれないが、今は単に逃げ惑う雑魚猿でしかない。


 三人のゴブリンは横に広がりつつ、森猿を屋根の隅っこに追いやって行く。


 狼達がその屋根の隅っこの真下に集まり、前足を壁に当て後足立ちをしながらガウガウ騒ぐ。


 片耳猿に逃げ道はもうない。

 この状況は完全にゴブリンの勝利となるだろう。

 

 と思ったんだが――――


「キキーッ!」


 行き場を失った片耳猿が奇声を上げてゴブリンへ突進。


 突然の突進に、ガガが槍を突くが腰が引けている。


 片耳猿はその槍の柄を足場にして跳ねる。


 そしてガガの頭の上に跳び乗り、後ろ足でトンと蹴った。


「ヒッ」


 ガガが小さく悲鳴を漏らす。


 片耳猿はというと、そのままガガの後方へ着地。

 屋根の反対側へと走り抜き、大きく跳躍ちょうやくしたかと思ったら下に飛び降りたようだ。

 

 狼達は慌てて倉庫の反対側へと走り、俺も急いでそちらに向かう。

 

 しかし俺が追いついた時には、柵の向こうの片耳猿に向かって狼達が、ガウガウ吠える声だけが森に響いていた。


 逃げられたのだ。

 完敗だ。


 しかしゴブリン達の戦闘レベルは分かった。

 お話にならない。

 何がゴブリンライダーだ。

 ゴブリンライダーはゴブリン族の中でも精鋭と聞いた事があるだけに、かなり落胆した。


 ゴブリン四人を呼び寄せて俺の前に立たせると、どいつもサッと視線をらしやがる。

 俺が落胆しているのは理解しているようだ。

 

 俺はため息をついて取りあえず家の中へと案内した。


 一通り案内して説明するが、細かいところは明日にする。

 今日の所は簡単な食事で済ませて、こいつらも寝かせることにした。

 そこでゴブリン達の寝る場所がない事に気が付いた。

 

 倉庫ならまだ余裕があるから、倉庫にわらを引いて寝てもらうか。

 

 と思って倉庫に連れて行ったら、どういう訳か獣舎へ向かうゴブリン達。


「おい、そっちじゃない。そっちは獣舎だぞ」


 俺がそう言うとゴブリン達は「?」的な表情をする。

 そして指を差してググが言ってきた。


「あっち、オオカミと寝る、だめっすか」


 なんだ、狼と一緒が良いのか。

 さすがテイマー……なのか?


「お前らが良いなら構わないが、綺麗な場所ではないが良いのか?」


 すると四人共に首を縦に振った。


 それ以降、ゴブリン達いつも狼達と寝る事になる。

 直ぐに狼達とゴブリン達は恐ろしいほどに仲が良くなった。

 ちょっとだけ嫉妬しっとする。


 日常の仕事も徐々に覚え、武器の訓練も毎日欠かさない。

 初めは武器を持たせる事に不安があったのだが、今じゃ慣れてしまって日常的に持たせている。

 もしもの場合に備えて槍と短剣の装備は欠かせない。

 護衛として買ったから当たり前だ。

 しかしそうなると、時々奴隷であることを忘れてしまう。


 そんな日常の中でも時々、ゴブリン達の足枷あしかせ)に目がいってハッと思い出す。

 そうだ、こいつらは奴隷という身分だと。

 ここで油断は禁物だ。


 ゴブリンは思った以上にずる賢い。

 隙があれば俺を襲ってでも脱走しようとするはずだ。

 気を緩めないように気を付けよう。


 となると飛び道具は危険かもしれないと思い始めた。

 遠くから狙い撃ちされたらたまらない。

 近接武器なら襲われてもこいつらの腕なら対応できるし、そもそも狼の四匹が黙ってないはずだ、そう狼達は俺の味方のはず……だよな?


 そうなるとスリングはしばらくお預けかな。

 物資輸送中の護衛で襲撃者があったら、荷車からクロスボウを射かけさせようと思ったんだが、それもしばらくは無しだな。

 

 ゴブリン四人の訓練には狼のえさ狩りも取り入れた。

 狼に騎乗させて槍を持たせての狩りだ。

 ゴブリンライダーでのデビューである。


 そんな狩りをしていたある日の出来事だ。

 場所は自宅からほど近い場所にある小さな森。

 大した魔物はいない、比較的安全な森である。

 狩りの許可さえ申請すれば匹数に制限があるが、狩りが認められている森だ。


「よし、取り囲んで追い詰めろ!」


 俺は高い木の枝に座り、ゴブリンライダーの狩りの様子を高みの見物だ。


 ググはやはりリーダー素質があるのか、他の三人に指示を出しつつ獲物の角ウサギを追い詰める。

 彼らはもうすっかり狼を乗りこなしていた。

 狼達とゴブリン達の間には、信頼関係のようなものを感じる。

 

 四人と四匹は角ウサギの周囲をグルグルと駆け回り、角ウサギが逃げる隙間を与えない。

 その円陣を徐々に狭めて行き、最後に槍で突き殺す作戦だ。


「おっ、そいつ二本角だぞ、絶対逃がすな!」


 二本角の角ウサギはちょっとだけ高い値が付く。

 ちょっとだけだがな。


 あともう一息で角ウサギを仕留められる、ってタイミングで事件は起きた。


 最初に狼達の様子に変化があった。

 急に立ち止まり、鼻を高く上げて何かを嗅ぎ取ろうとしている。


 そこへ突如、多数の石がゴブリンライダー達に降り注いだのだ。


 木の上にいた俺は直ぐに石を投げた者の方を見る。


「クソ、森猿の群れだ……」


 十数匹の森猿の群れが木々を伝ってこちらに接近していた。

 早々に到着した若い森猿数匹が、持っていた石や木切れを投げつけたようだ。

 その中にこの間逃げられた“片耳猿”が混じっているのを発見した。


 あの野郎、仕返しに来やがったか!









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