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13 装甲荷車







 一時ほど休んだらノースも少しは楽になったようで、なんとかアーレの街まで無事にたどりついた。


 街の門をくぐると直ぐに行商人の恰好をした男が声を掛けてきた。


「中々良さそうな毛皮だね。それ俺に売る気はないか」


 接触が早いな。

 こいつは行商人なんかじゃない、伝達屋だ。

 もう何回か顔を合わせている。


「金貨十枚だったら譲るがどうだ」


「ひゃあ、それは無理だな。今度、安い品が入ったら頼むよ。邪魔したな」


 そう言って握手をするフリをして、俺の手に伝書を握らせた。

 伝書の中身は、依頼結果の報告と金の受け渡しの方法に関するもの。

 それをする前にまずは、カートで運んで来た魔物の毛皮を買取所へと運ぶのが先だ。

 

 交渉の結果、買取金額は一枚当たり銀貨五枚と銅貨五枚となった。

 五十枚あるから買取合計は銀貨二百七十五枚、入手金額が銀貨百五十枚だったから差し引きの利益は銀貨百二十五枚となる。

 予想よりも少しだけ良かった。

 これならゴブリンの護衛の費用を差し引いても黒字だ。

 それに加えて依頼の金も入る。

 

 さてと、問題はメロディをどうするかだ。

 引き渡せば金貨十枚を貰える。

 これはあくまでも追加報酬。

 

 俺はメロディの横顔を盗み見る。

 深くフードを被っていて顔が見え辛いが、それでも美人オーラを発している。


 そこで俺は決心をした。


「メロディ、エルフの森まで送り届けてやる。案内してくれるか」

 

 俺も男だ、美人には勝てない。


 驚いた表情で俺を見つめるメロディ。

 こんな表情は初めて見るな……なんか照れるじゃねえか。


 俺はさらに話を続ける。


「本当は奴隷商へ行って自由奴隷にするのが良いんだが、そうなるとエルフの奴隷がこの街へ入ったことがバレてしまう。だから悪いが奴隷のままで開放する」


「奴隷の私を開放するのですか? それであなたにとって何のメリットがあるというのです」


「メリット? そんな洒落たもんはないよ。まあ、あるとすれば……美人を救ったという男のロマンかな」


 すると突然メロディがクスクスと笑い出す。


「ふふふ、あなた様は変わっています。でも、ありがとうございます」


「あ、ああ、き、気にするな……」


 なんか恥ずかしくなってきた。

 しかし、すげえ破壊力だな、美人の笑顔ってやつは。

 自分の顔が火照ってきたのが分かる。


 さあて、そうと決まればやることは多い。

 まずは依頼結果報告と金の受け取りだ。

 一旦ビーンズ村の俺の家にメロディはおいて、俺は犬のサウスを連れて指定された場所へと向かった。

 

 毎回指定場所は変わるのだが、今回は冒険者ギルドのホール内だ。

 人混みで騒がしく、内緒話にはうってつけの場所かもしれない。


 犬のサウスは建物の外の獣舎で待たせ、俺は冒険者ギルドへと入って行く。

 俺が壁を背に寄りかかって待っていると、若い男が接触して来た。

 男は冒険者のような恰好をしていて、この場所だと違和感が全くない。


「早いな」


 そう男が話しかけてきた。

 男も壁を背に寄りかかり、二人してホールの中央を見ながらの会話だ。


「要点だけ言うが良いか」


 俺がそう聞くと男が「ああ」とだけ言って話を促す。


「標的は消去、護衛四人も消去。証拠は冒険者ギルドに聞けば証明してくれる。以上だ」


「“闇の執行人”は健在だな。分かった、信用する。それでエルフはどうした」


 やはり聞いてくるよな。

 しょうがない。


「ああ、そいつなら逃げたよ」


 男の表情がピクリと動いたのが横目で見てとれた。

 さらに男は俺に目を向けると繰り返し聞いてくる。


「全員を消去しておいて、エルフは逃げたと?」


 俺は大きく伸びをしながらホールを見まわしてから返答する。


「ああ、そういうことだ。メインの依頼は達成している。エルフはあくまでも追加報酬だろ、特に問題があるとは思えないがどうなんだ」


 男は不貞腐れたように返答する。


「ああ、そうだな。あんたが正しい。だけど“闇の執行人”さんよ、あまり調子にはのらない方が良いぜ?」


「ふん、好きに考えればよい。だいたい俺は引退した身だ。もう仕事を持って来るな。さあ、報奨金を寄越せ」


「ちっ、ほら、メインとサブの依頼の分だ。中身を確認しろ」


 俺は金を受け取ると、直ぐにその場を去った。

 金貨十九枚だ。

 確かに大金ではあるが、家のお犬様は肉食な上に身体が大きく良く食う。

 早い話が金が掛かる。

 狩りで肉が取れなければ、俺の生活は火の車になる。

 貯金をほとんど使い果たした今、商人の収入だけでは生活は無理かもしれない。

 

 エルフの森へ行くにも、商売をして金を稼ぎながらの移動をしないといけない。






 家に帰って来ると、留守番をしてくれていたメロディと犬達が出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ローマン様」


 うーん、悪くないな、こういうのも。

 犬達は遠慮してか、俺に覆い被さって来ない。

 

「あのう、どうしても気になる物がありまして」と前置きして、メロディが唐突に質問をしてきた。


「あの本は何なのでしょうか」


 本とは俺が婆さんから買った鍵付きの本の事だ。

 俺が経緯を説明して鍵がない事を告げると残念そうにするメロディ。


「なんだ、本に興味あるのか?」


「いえ、そう言う訳じゃないんですけど、何故か気になりまして……」


 そう言って本を見つめるメロディ。


 俺と一緒だな。

 俺はそれでこの本を衝動しょうどう買いしたんだからな。




 翌朝、俺は犬二頭を護衛にして、荷車を水牛型の魔物“ホーン”に引かせて家を出た。

 荷車と言っても周囲を部厚い板で覆ったもので、俺は装甲荷車と呼んでいる。

 天井には小型バリスタを備える現金輸送も出来る獣車である。


 ただし今回は護衛を雇えない。

 メロディのこと、しいてはエルフの森のことを人に知られるのはまずいからだ。

 出来るだけ危険は避けたいから、情報が漏れるのは困る。

 前回の護衛ゴブリンで懲りたというべきか。


 よって俺は御者席に座るとして、メロディにはいざとなったら荷車の中からクロスボウを射ってもらうか、天井に設置してあるバリスタを操作してもらうことになる。

 一応サウスとウエストの犬二匹も護衛にいるから大丈夫だとは思うが。


 念の為、メロディにはバリスタの操作を教えておいた。

 それからクロスボウの操作を教えようとすると、弓が使えるという。

 弓なら古い品だが家にあったので、それをメロディに渡したらこいつがかなりの腕前だった。

 エルフは弓が得意だというのは、おとぎ話の中だけではなかったってことか。

 

 まずはアーレの街で輸送依頼か品物の買い付けからだ。


 方角的には戦闘地域の近くを通るから、輸送依頼は非常に多いし輸送料金も悪くない。

 だが確実性よりも利益を選ぶならば買い付けだ。

 安く仕入れて高く売れれば、それだけ利益は大きい。

 しかしギャンブル的要素もあるし、持って行った先で何が売れるかの“読み”も重要になる。

 

 それで俺は買い付けを選んだ。

 戦争で物資が品薄の状態だ。

 ここは大きく出る。


 依頼報酬で得た内の金貨十五枚を使って買い付けをした。

 大口の買い付けは喜ばれるし、かなりの値引き交渉も受け付けてくれる。

 

 買い付けした品物とは酒樽と小麦粉やチーズに加えて燻製肉等の食料品だ。

 食料品なら確実に売れるからこっちは保険みたいなもんだ。

 本命は一樽で金貨一枚もする酒樽。

 これを四樽も買い付けた。

 中身はビールである。

 戦闘に勝利した陣営になら必ず売れる品だ。


 これらを我が装甲荷車に積み込み、俺達はアーレの街を出発した。


 

 

 






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