10 美人と奴隷
その『導き手』の能力だが、道案内が出来る程度なら大した能力ではない。
それが特殊能力というなら、地方へ行けばそれが出来る土地土地の案内人がいくらでもいる。
だがこの『導き手』の能力はもっと上に位置する力だと言う。
追跡という能力もあるが、それは痕跡を見つけて後をつける能力で、この『導き手』とは違う。
例え空を飛んで痕跡を残さず逃げたとしても、『導き手』の能力ならば見つけられる。
そうか、それでオークのゾッチに狩りに連れ出されていた訳か。
獲物を追わせられていたんだな。
それに賞金首を探す奴ら、賞金稼ぎにとってはかなり有用な能力でもある。
狩人の追跡技能の上級みたいなものだろうか。
確かに凄い能力だとは思う。
凄いとは思うが、それくらいの能力でこれほどまでに取り合いになるのか?
目立つエルフ族を非合法で奴隷にするほどにだ。
あまりにもリスクが大きい気がする。
この女、まだ何か隠してそうだ。
待てよ、俺だったらどうする?
この能力をどう利用するかだな。
情報があれば探せるのか。
そうだな、大金を稼げる事といったら……
「なあメロディ、ちょっと聞くが、例えば伝説の宝剣のおとぎ話を聞いただけで、それの今ある場所が分かるのか?」
俺がそう質問したらメロディの表情が変わった。
「そ、それは、そ、その情報内容によります……」
どれくらいの情報を得ればその場所が判明するかは知らないが、彼女を見るかぎりだと俺が言ったことはあながち間違いではない様だ。
過去に滅亡した国の王様の情報を与えれば、その王様の墳墓の場所が判明するって訳だ。
そうなると墳墓の発掘をして埋葬品が手に入るって寸法か。
そう言う事なら彼女は取り合いになるな。
かなりの的中率で宝探しが出来る。
太古の遺跡の場所が分かれば莫大な富を得ることも可能か。
こいつは凄い奴を手に入れてしまった。
考え方を変えれば、このエルフは危険。
側に置いておくだけで俺まで命を狙われるってことでもある。
これは難しい対応を強いられるのか。
そこから俺とメロディはお互い黙り込む。
なんか会話が続かない。
気まずくなったところで女中が頼んでおいたメロディの服を買ってきてくれた。
一般的なチェニックの服と、顔が隠れるようなフードが付いたマントだ。
早速着替えさせてみる。
するとたかだかチェニックを着ただけなのだが、それだけでメロディの美しさはさらに際立った。
今こそ痩せこけてはいるが、しっかり栄養をとれば大変なことになりそうだ。
さてと、ここからやることは多い。
今だ俺達を遠目で監視している奴らがいる。
フードで顔は隠しているが、背格好から見てもゴブリンだろう。
ゾランの手の者か。
うーん、どうするか。
このまま不用心に街を出れば、それこそ人気の少ない場所に差しかかったところで襲われる。
とはいっても、いつまでもこのダバドの街に留まっている訳にもいかない。
まずは奴隷男の四人は解放するか。
俺は奴隷商へと行き、奴隷の男四人を自由奴隷にしてやった。
これで彼らは自由に歩き回れる。
あとは折角だからアーレの街までの帰り道での輸送依頼がないか、商人ギルドで探そうか。
それと護衛も雇うか。
だけど戦争の影響で護衛が雇えるかが問題だ。
商人ギルドへ行くと、相変わらずギルド内は混雑している。
半時ほど粘った結果、輸送依頼はかなり安いものしかなかった。
その代わりに大量の毛皮の販売取引が見つかった。
五十枚ほどの魔物の毛皮だ。
これを銀貨百五十枚で購入、一枚当たり銀貨三枚だ。
そしてこれをアーレの街へ持って行けば、少なくても一枚当たり銀貨五枚で売れるはず。
そうなると最終的には銀貨百枚、つまり金貨一枚分の利益になる。
ただし、これは護衛を付けなければの話だ。
護衛を付けると赤字になるが、今回は道中襲撃を受ける可能性が高い。
どうしても護衛は必要。
しかし護衛の依頼をしようと思ったのだが、護衛の依頼が余りに多い。
つまり受ける者がいないから、依頼が溜まっているってことだ。
それもこれも戦争の為だ。
戦場へ行けばいくらでも仕事はある。
それこそ腕に自信があるなら、傭兵として戦争に参加すれば良い稼ぎになる。
そうなると、賃金の安い護衛の依頼を受ける者などいなくなる。
見れば商隊同士で隊商群を組んで、少ない護衛で移動を開始する者が多い。
それも護衛は亜人ばかりだ。
言い換えれば護衛は亜人しか残っていない。
その亜人護衛はゴブリンが殆んどだ。
そのゴブリンは人気がなく雇用料金が安い。
それでも現在は以前よりも高くなっている。
ここは俺も諦めてゴブリンの護衛を雇う事にした。
隊商群を組むのはエルフが居て迷惑が掛かるから諦めた。
ゾランの事があるからゴブリンの雇用は怖いのだが、そんな事を言っている余裕などもなくなった。
一応ギルドを通すから大丈夫だろうという勝手な判断だ。
しかしゴブリンは安い。
アーレの街まで一人に付き食事付きで前金に銀貨二枚、後金で残りの銀貨三枚の合計で銀貨五枚だ。
これでも値が上がってるてんだから驚きだ。
結局、俺はゴブリンの護衛を十名雇った。
本当は弓が使える者が良かったんだが、それさえ出払っていて槍持ちばかりとなった。
これなら赤字にはならないのだが、その反面で戦力的には不安が残る。
まあ、いざとなったら俺にはウエストとノースの二匹の愛犬がいる。
ゴブリンよりもよっぽど戦力にはなる。
翌朝、俺達の隊商はダバドの街を出発した。
犬が引くカートには魔物の革が積まれ、御者席には俺とエルフが座る。
その周囲をゴブリンの護衛達が徒歩で付いてくる。
ゴブリンは歩く速度が人間よりも遅いので、犬達もそれに合わせてゆっくりとした足取りだ。
ゴブリンの護衛なんだが、正直言って当てにならない。
見るからにやる気なさそうにダラダラと歩き、食事の時間になると急にソワソワと落ち着きが無くなる。
一応この護衛の中にも、ゾランの息が掛かった者が居てもおかしくはない。
だから警戒だけはしておく。
もし敵が襲って来るなら、ダバドの街とソーダンの街を繋ぐ街道のどこか。
それより先のアーレの街へと続く街道は、人の行き来が多く襲撃には向かないからだ。
だから俺はかなりの警戒をしていた。
だが、何事もなくソーダンの街へ到着してしまった。
ここで一旦商隊は解散し、翌朝に再度ここに集合となる。
俺達は宿を探しに街中へと向かうが、ゴブリン達は宿に泊まらない。
外壁の外で野宿をするらしい。
彼らの労働賃金では宿泊所は高根の花なのだ。
俺は獣舎付きの宿を選んだ。
俺一人なら雑魚寝部屋でも良いんだが、エルフが居るからどうしても個室になり、値段も上がるがしょうがない。
彼女を人にあまり見られたくないからな。
泊まった宿は人のよさそうな若い夫婦が営んでいた。
生まれて間もない乳飲み子を抱えて接客している。
一見大変そうに見えるが夫婦共に笑顔が絶えない。
なんだか癒されるな。
だがその平和そうな宿で事件は起きた。
まさか街中で襲撃はしてこないだろうと考えてた俺が甘かった。
その夜、奴らは街中だろうが堂々と俺の泊まる宿を襲撃した。




