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2章 Flame(2)


 数十分も歩けば、いつしか炎の音も臭いも遠くなっていた。ただ慣れない暗い道が広がるばかりである。イスフィは寝入ってしまったのか、寝息だけが微かに耳に届く。

 一応二人には行く当てがあった。アナンの十年来の親友、キケ=オルティスとその妹、ユリア=オルティスの家だ。

 村の孤児院で育った彼らは三年前に義兄妹となって森の外れへ出ていった。きっとまだ火の手は回っていないだろう。

(……そういえば、ユリアは教会で修道女見習いとして働きに行っているはずだが……大丈夫だろうか)

 気が滅入っているのか、不吉な考えが頭を過る。そのせいなのかアナンは足元の木の根につまづきかけた。

「おっと……ん?」

 どうやらイスフィの髪を木の枝に引っ掛けてしまったらしい。彼女が起きたら大目玉を食らいそうだ。慌てて解こうとかがんだ瞬間、なにかがアナンの頭上を通り抜けた。

「え……?」

 少し遅れて何かが破裂する時の耳を劈くような音が聞こえた。恐る恐る上を見る。木の幹にはなにか玉のようなものがめり込んだ跡があった。

 やっと彼は我に返って音のした方を見る。

(……誰だ)

 そこには確かに人がいた。恐らく年端もいかない少年だろう。

 思わずアナンは弓を弾いていた。

 矢が風を切って、微かになにかを貫くような音がした。

(……人に矢を向けてしまった)

 弓が重くまとわりつくような心地がする。振動の余波なのか、或いは別のものなのか、彼の手はまだ小刻みに震えていた。

 追う暇もなくその人影は踵を返した。幸いにも彼は大事には至らなかったようだ。呆然とアナンは彼が消えていった暗闇を見つめていた。

(あれはなんだ……武器だったのか? じゃあ、あれは俺を……)

 殺そうとした?

 いやな想像が頭を過る。

 なにもわからない。なにも。

 どうして? 誰が? なにを? 

 なんのため?

 ただ今の彼にわかるのは、イスフィの髪が引っかからなければ間違いなく彼はその鉛の玉の餌食になっただろうということだけだ。

「……またお前に助けられたな」

 イスフィの温もり。今この瞬間、信じられるたった一つのもの。

 そっと彼女の手を包み、アナンはまた逃げるように走った。


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