↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/75

《リンカーネイション》6 Collapse


(なにこれ……イノと、ステラ……?)

 テームは呆然とその音声に聞き入っていた。何かを壊してしまったような、取り返しがつかないことをしたような、生暖かい気持ちに包まれて。

 ここまでは何もかも順調だった。

 セキュリティーシステムが停止したこの棟はどこまでも静かでがらんどうで、いとも容易く彼の入棟を許した。普段は何重にも鍵がかけられているであろうこの倉庫の戸も、古い木箱のようにあっさりと開いた。

 言わば、過信の要塞。単純な人為的ミスを想定していないという油断、或いは敵の侵入も手前で食い止められるという驕り。それは《リンカーネイション》そのものの弱点でもあると言えるだろう。

とはいえ、テームとしてはそこまで深い考えに至ったわけではなかった。ただステラの為の機械油を少しだけ瓶に取って持ち出せれば、それで。

 運命は動かないはずだった。彼がその横の箱に気付かなければ。

 No.997。

 ステラの識別番号だけが記された小箱。思わず触れてしまったそれはあっけなく開いた。普段はこの小さな箱のセキュリティーまで一括で管理されているのだろう。

中にあったのは黒い石のような何か。何気なく触れた途端、それは古びた音声を流しだした。

 聞きなれたステラの声、幼げなイノの声。

「どういうこと……?」

 イノの様子から判断するに、この音声は彼女が幼い頃――恐らく千年以上は前に撮られたものだろう。どうやら二人は親しい仲だったらしい。

 だが、それならば。どうしてステラはイノへ別れの挨拶を言ったのか。『また会える』、そう確信をもって言えたわけ。……そして、今テームが知る二人が互いの話を一切しないわけ。

「……いや、それよりも……」

 クルーヴァディア。

 彼女は確かにそう言った。

 クルーヴァディア。幻の楽園だと教えられてきたその場所。科学によって作られた理想郷。そこではどんな病も治って、飢饉だって起きないって。そう言われてきた。

『僕らの言うことに従いたまえ。科学が更に発展すれば気候も操ることができるようになる。君達のような不幸な子供だって減らせるのだよ』

 孤児院から銀貨一枚で売り飛ばされてきたテームとリラに、オリヴェルはそう言ったのだ。

 揺らぐ。抜けかけの歯のように、揺らぐ。

 もう一度、はじめから音声が流れだす。

 大地を汚した? 空を壊した? そして、何を。

 何を、間違えた? 

 熱を帯びた衝動が内側からその身を支配する。

 誰かが何かを間違えた世界で、生きているらしい。

 不平等な世界で。魔導と科学が手を取り合えなかった、その世界で。

(本当に、クルーヴァディアには病める人も飢える人もいなかったの?)

(本当にクルーヴァディアが理想の世界なら、どうしてその国は滅んだの?)

(今まで払ってきた沢山の代償に、意味はあったの?)

 鎖に繋がれたように縛られていた脳が、一気に胎動を始める。見ないふりをしてきた疑念が、頭の奥を廻りだす。ひびの入った神殿が、嫌にくっきりと脳裏をよぎる。機械仕掛けの神話が、壊れていく。

 三度目の音声を繰り返す石を、小さな手のひらで包み込む。

 もう遅い。

 思わずポケットに滑り込ませた黒い石が、そう囁いている気がした。

(……ねえ、本当に)

《リンカーネイション》は、皆が信じる『科学』は。

「……世界を救ってくれるの?」


お読みいただきありがとうございました!

ブックマーク、感想等はお気軽に!

誤字脱字がありましたら報告していただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。