表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

泣き落としにはめっぽう弱い自覚がある

結論。誤魔化ししたかったのに有無を言わさず闘技場に引っ張って行かれちまったぜ……

手元のナイフは常に携帯している二本しかねえ。おい、おれは通常の戦闘時に五本は使うんだぞ。なんだよ、二本だけでどうやって勇者様と一対一かつ邪魔の入らない状況下で勝てって言うんだよ。

おれまさかまじで、あいつと結婚せざるを得ない道を進まされちゃってるわけ!?

そんな冗談はやめてくれ! おれはまだ結婚したりなんかしねえんだよ!

おれ一人暮らしのダメダメ人間なんだよ! どっかの誰かに尽くすとか土台無茶な話なんだよ!

そういう一般的な誰かを支える人間ってのにはなってねえしそういう教育うけてねえんだよ!

まじだから! おれ育ちが奴隷上がりの農民が小説家になったっていう異端児だから! 普通の家庭知らねえの! 普通の家庭って何してんのって感じなんだよ!

小説家になったのも、口伝えで英雄伝を語り歩いて生きていこうと思ったら、話を聞いた編集部の編集長が、ぜひこれを文章化してくれって言うから、超特急で文字とか綴りとかあれこれそれを覚えて、やってきてんの!

だから一般家庭の人間がどういう風に生きているか、俺知らねえの! なのにさらにお貴族様と結婚して相手を支えるとかいう未来確定な人生まっぴらごめんなんだよ!

勘弁してくれ!!

そんな事を思いつつ、おれはどんだけ抵抗しても、どうにも闘技場から逃げ出せないと判明したため、非常に苦い顔で、今現在、闘技場の控室にいる。

何度脱走を図ろうとしたか。そのたびに

「もうすぐ試合が始まりますよ、どこに行こうと言うんですか」

とか言われて、控室に連れ戻されてんだよ。おれの忍び足スキル何でこんな時だけ役に立たねえんだと思ったら、なんのこっちゃねえ、そういうのの阻害の術式が、闘技場に組み込まれていただけの話。

いわゆる裏取引を阻止するためだ。

くっそ……

おれはナイフの切れ味を確かめて、これをあいつにつきつける日が来るとは思わなかったぜ、と心底思った。

このナイフを投じる時は、絶対に、あいつの敵を、あいつの背中を守る時と決めてここまでやってきていたのに、何の因果かあいつの事を攻撃しなくちゃいけないとか、本当に運命ってどうにかしてるぜ。

そんなこんなを考えながら、おれがいると、闘技場の用意が整ったという事で、警備員がおれを控室からおったてる。

おったてなくてもちゃんと行きますよはいはい……もうどうにでもなれ、結婚は絶対しねえから、おれはなんとしてでもあいつから、勝利をもぎ取らなきゃならねえ事確定。

深くため息をつき、おれはやんややんやの喧騒が響く闘技場の試合場に、足を踏み入れた。



それまでは、結構薄暗い場所に待機していたから、明るい所に行くと、まばゆさに目が細くなる。

……何でこんなに見物客が多いんだ? どれだけの人口が、というか都の人口が、ここに集まったんだと思っちまうくらいの満員状態。

待ってくれ、立ち見してる奴らも相当いるじゃねえか。おれとあいつの結婚をかけた争いなんてものにそんなに興味があるわけ……ああ、勇者様が結婚するとなれば、それなりに人は集まるか、そういう事か……

残念だったな、結婚しろと勇者が言っている相手が、こんな可愛げのないやつで。はっ。

おれは黙って難しい顔で、試合場に立ち、観客に手を振っている、余裕も感じられるシャンドラを睨み付けた。

シャンドラは、嬉しそうに笑う。


「町から逃げていると思ったのに」


「まだ小説の事完結させてねえからな! ちゃんと最後まで書かにゃならねえだろうが!」


「へえ、あの小説に対してかなり思い入れがあるみたいだな」


「おれの人生初の書籍化だからな! それに色々な事を整理するのにも役に立つし、知識を増やすのにも役立つからな、大事なものに決まってんだろ」


「じゃあ何でお前、その大事な物で、俺のねつ造してんだよ」


「だから、してねえって、言ってんだろうが! ちゃんと創作ってしてるだろうが!! 文字読めよ!」


「読んで理解しての発言だよ!」


俺たちは試合場の端と端で言い争いをさっそく始めていた。審判が大丈夫なのかこいつら、という顔をしている。

さてそんなだが、審判は無情にも、試合開始の旗を掲げてしまったわけであった。

くっそ、予備動作しなきゃなら念んだよ俺は! おれは即座に、相手との距離を目算した。

ナイフが二本しか持ってねえから、それ相当の苦戦になるし、相手は使い慣れた……おいおい、聖剣なんか持ってきてんじゃねえよ!? なんでおれと戦うのに、魔王を打倒した聖剣なんてやべえもん持ってきてんだよ!


「なんで聖剣なんて持ってきてんだよ! おれの事殺す気か!」


「だって一番使い慣れた物じゃなかったら、どうあがいてもお前相手に勝算なんてないだろ! 俺は本気でお前と結婚することを視野に入れているんだ!」


「おもっくそやめろそんな視野!」


言いつつおれは、あいてとの距離を保てるように、ずりずりと地面をすべるように足を動かす。

相手が距離を詰めてきたら厄介で、どうしたって聖剣相手に、おれのそこら辺のものよりちょっとばかり切れ味がいい程度のナイフは、分が悪いのだ。

相手もそれは十分に分かっているから、距離をつめて来ようとしている。


「くそったれが!」


おれはそう言って、本気出して、ナイフを投じたのだった……






結果。おれの火事場の馬鹿力と、結婚したくねえという思いが勝利し、地面に倒れているのはなんと勇者様であるシャンドラだった。

おれが、ナイフを本気で投げて、聖剣を握る手に、痺れ毒を仕込んだナイフがかすった結果、シャンドラはじわじわと握力が弱まり、聖剣を取り落としたところで、思いっきり飛びかかって引きずり倒して、マウントポジションで蛸殴りした結果である。

シャンドラは、おれの武器に痺れ毒を仕込んだナイフがある事も織り込み済みだったはずなのに、それを回避しなかったのが馬鹿である。

勝ちたかったらちゃんと回避しろよ……とおれは思うわけだ。

そして蛸殴りにされているシャンドラは、顔もぼこぼこだし、鼻血は出ているし、あおあざとかやべえし、はっきり言って色男台無しだ。

こんなぶっさいくになっちまって……って、おれが殴ってんのか。


「おれの勝ち! けっこんしねえ!」


おれが吼えると、シャンドラが、うううってうめいた後、がっちりとおれの腕を掴んできた。

おい痺れ毒で手が動かなかったんじゃなかったのかお前、一体どこにそんな力が残ってた……


「やだ!」


「やだじゃねえだろ! おれに勝つって言うのは第一条件だろうが!」


「お前と結婚できなかったら、他の誰とも結婚の望みなんてなくなるだろうが!」


「他の誰かにしろよ!」


「どんだけ縁談ぶち壊しだ思ってんだよ!」


ぎゃんぎゃんと怒鳴るおれ。すがるシャンドラ。これどうするんだ。


「お願いだヴァミー! 一生のお願いだから! 頼むから! 俺と結婚してくれ!」


「だからやだって言ってんだろうが!」


「そこを何とか!!」


おれらのしょうもない低レベルな言い合いに、観客たちは困惑しているに違いない。

おれもこんなものを、人様に見せるわけにはいかないと思ったのに。


「俺だって妹の花嫁衣装が早く見たいんだあああああ……」


ついに、シャンドラがべそっべそに泣き出したのだ。それもおれが弱い泣きかたで。

一生懸命泣くのをこらえているのに、泣いちゃうって感じに、おれはとても弱いのだ。そしてなんだか、悪い事をしているような気分になる。

おれちっとも悪くねえんだけどな!

シャンドラが、血まみれの顔で、ぼろぼろ涙をこぼして、首を振って、いやだいやだ、と駄々っ子のように言う。

この、しょうもなく我儘を聞いてやりたくなるやり方ってのがずるい。


「なら妹ちゃんと説得しろよ」


「してる! 俺なんて放っておいてちゃんと早く好きな男と一緒になれって何度も言うのに! 兄ちゃんが結婚するまで無理とか言うんだ! あの子を一生独身にさせるわけにはいかないだろうが、俺はお兄ちゃんなんだ!」


「……で、誰も結婚してくれねえからもうおれしかいねえって言いたいのお前」


「うん」


…………

………………

……………………


「おい、シャンドラ」


「なに」


「おれはお前の結婚相手として相応な事は何一つできない奴だ、それでもいいのか」


「うん!」


泣き顔がぱっと明るくなる。

おれはそんな相手に、苦い顔でこう言った。


「しかたねえから、一回だけ結婚してやるよ、シャンドラ」


「うれしい、ヴァミー!」


ぱあっと明るくなった面で、シャンドラがおれに抱きつく。

だからその馬鹿力、一体どこに隠してたんだよ!!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ