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そもそもの始まりは

家具付史上最大のギャグコメディの予定です!! 完結までちゃんと書きます!

「……ええと、ここは、だな……あいつなんて言ったっけ?」


おれはそんな事を呟きながら、何冊も書き溜めていた日記を広げる。この記録の時の日付はこれだ、だから日記のページはこのあたり……のはずだな。

ぱらぱらとめくっていくと、その記録に該当する記述を見つけた。ここだ。


「そうだ、『お前と一緒にいるとどこまでもいけそうな気がする。世界の果てだって一緒に行こう!』って言ったんだな……よし、これをこのまま引用して……」


そんな独り言をつぶやきつつ、おれはその記録で用紙を埋めていく。かたかたかた、とタイプライターが打ち込まれる音が、室内に響く。

室内には色々な参考文献が本棚に差し込まれ、そこに入り切らなかった物は壁際に積み上げられている。

壁際に積み上げられなかった物たちは、さらにいたるところで塔を建設するかのように、乱雑に置かれていた。

それらが絶妙に倒壊しない、ぎりっぎりの状態でお互いを支え合い、おれの部屋の風景の一つになっていた。

おれはいつものように、必要な知識を確認するために、それらを引きよせて流し読みをして、間違いのない表現や知識である事を確認する。

今回も問題なし。この前のように、難しい顔をした編集と校正の奴らに、


「我々は呪術の専門家ではないので、これが間違いかわかりませんので、専門家に頼みましたが、間違ってましたよ! ここは語りてが間違った認識でいた、という事で問題ありませんか?」


といちいち確認されるのはくそ面倒だ。

そういうわけで、おれは、そういうやりとりにならないように、気を付けて、文章をくみ上げて行く。

かたかた、かちかち、かたたたん!

おれは、日記の中の記録と、それからほんの一匙程度のねつ造を織り交ぜて、とある文章を作っていく。

今回必要な文章の中の、最後の一ページの文章が決まり、おれは、よし、とそれを手元に置き、問題がないかどうか、目を通す事にした。

……あ、誤字を見つけた。ここを直すために、赤インクと羽ペンを引き寄せて、ざりざりと手書きで訂正の印を入れて行く。

ここは……いいと思ったんだが、ちょいとばかり嘘くさい言い回しになっちまった。だからここもすこーしだけ変えてみる。よし、自然な感じになったぜ。おれは達成感に包まれながら、その一ページを上から下まで読み直す事にした。


********************************

勇者シャリオスは、つまらなさそうな顔をしたままの相棒の肩を抱き、酒場の美人な店員が、これがこの町の名物だ、と言って進めてきた果実酒を、ぐいっと勢いよく飲み干した。


「そんな飲み方してっと、直ぐに体に酒が回っちまうだろ、やめろよ」


相棒が彼の酒の飲み方を咎めると、シャリオスはやはり酒が回ったのだろうか、ひどくご機嫌な顔になって、ししし、と笑い声を漏らし、さらに相棒の肩に回した手の力を強めて、やはりご機嫌な声で言う。


「俺はこんな程度の酒では酔っぱらったりしねえよ」


明らかにその言い方は酔っぱらっているように、相棒の目には映っていた。相棒は肩を抱かれたまま、面倒くさい酔っ払いだ、という顔を隠しもしないで、同じ酒を、ちびり、ちびり、と舐めるように飲んでいる。

シャリオスがぱかぱかと勢いよく開けている酒だったが、かなり度数は強いに違いない。

果実の甘味と風味がうまい酒だが、舌に触れた時に感じる痺れに似た物や、喉を通る際に、かっと喉を焼くような感覚からして、明らかに度数の強い酒である事に、間違いはないように思われた。


「なあバドゥ。お前いい匂いだなあ」


「お前完全に酔っぱらってんじゃねえか、おい、人の首の匂いを盛大にかぎまくるんじゃねえよ、あほかお前は!」


相棒バドゥの首に、勇者シャリオスは突如自分の整った鼻筋を埋めて、そのまま人目も無視して匂いを嗅ぎ始める。

酒場で夕食をとってから、身を清めようと考えていたバドゥからすれば、この暴挙はたまったものではない。おい、てめえいい加減にしろよ。


「シャリオス! 離れやがれ! おれの匂いなんて珍しくもないだろうが!!」


確かに。これまで何度も、勇者シャリオスは相棒バドゥの事を背負ったり、肩に担いだり、小脇に抱えて引きずったりしてきたのだ。

バドゥの匂いなど、嗅ぎ慣れた親しみのある物に違いないだろう。

明らかに酔っぱらって変な事を始めた、としか思えない行動だ。


「いー匂いだ……かじりたくなる……」


「おれはハムじゃねえ!」


鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、だんだんと鼻ではなく唇の方が首筋に触れるようになり、いい加減にしろ、とバドゥはシャリオスの頭をひっぱたき、ぐいと髪を掴み、力任せに引きはがす。


「なんだよ、ちょっとくらい齧ったっていいじゃねえか」


「人間は齧るものじゃねえって事だろうが! お前毎度毎度、なんでそう、酔っぱらうと普段以上に奇行に走るんだ! おれじゃなかったら付き合ってられないぞ!」


「ふへへへ……バドゥは付き合ってくれるから、いーじゃねえか」


完全なるいい気分の酔っ払い間違いなしだ。そう判断したバドゥは、手を動かし、酒場の店員を呼んで会計を済ませた。

それから勇者の相棒は、そのままぐでぐでと融けたようにカウンターに突っ伏す勇者の腕を自分の肩に回し、

「よいせー!」

と気合の入った掛声をかけ、自分よりわずかばかり大柄な体を持ち上げた。そして後ろ手に、勇者のズボンのベルトを掴み、安定した姿勢をとって、酒場の店主に声をかけた。


「おい旦那、この上、空いてるか?」


「空いているよ。一部屋、二部屋、どっちだい」


「こいつをぶん投げるだけだからな、一部屋だ」


「あんたは泊まらないのかい」


「はっ、仲良しこよしで同じ部屋に泊るわけねえからな。どっか空いている所を探すまでさ。こいつが起きて降りてきたら、おれが迎えに来るまでは飯食って待ってろって言ってくれ」


「ふうん」


酒場の店主はそれ以上詮索をするつもりがないらしい。短く


「奥から二番目の部屋が空いている。鍵が刺さっている部屋は空き部屋だ」


と、端的に説明をして、他の客の相手に戻って行った。バドゥも店主にそれ以上会話を持ちかけず、少しばかりやりにくそうに、酔っぱらって、力の制限がなくなってきたのか、引っ付く力をやたらに増す勇者を引きずりながら、階段を上がっていく。

階段を上がって奥から二番目、確かにその部屋は空いていた。

少し広い寝台、水差し、清潔な布とたらい。設備はなかなか整っているようだ。


「おい、シャリオス、水もたらいもある、体清めるだろ? お前今日はずっと、王女様探しで魔物の血を浴びっぱなしだったじゃねえか」


バドゥはそう言って、自分にべったりとしがみつく勇者に声をかける。もごもごとしていたシャリオスの目が瞬き、綺羅星に匹敵する、鮮やかな青の瞳が相棒と、部屋を見る。


「……ああ。手伝ってくれよ、バドゥ」


「へーへー、……まだ左腕、しびれてるのか」


「うまく物を握れないんだ。頼んだ酒も、毒抜きの作用がある果実を使った酒だったんだけどなあ……」


「おい、だからぱかぱか空けてたのか?」


「酒は回るのが早いだろ、だからきくのも早いかと思ったんだけどよ」


言いつつ、おっくうそうにバドゥが盾や剣、鎧と言った装備を脱ぎ始める。だがやはり、左手がしびれているというのは嘘でも何でもなく、動きがとても鈍かった。

それを見て、勇者の相棒を名乗るバドゥは、黙って手を伸ばし、乱暴ながらも、装備のベルトなどを外し始めた。


「どうしたんだよ、積極的じゃないか」


「積極的もくそもねえだろ! てめぇ一人にやらせてたら、おれが身を清める時間もなくなっちまって朝だろうが!」


少しにやついた勇者に、軽快な言い返しをする相棒。ほどなく裸になった勇者が、たらいに入れた水と清潔な布で、体をぬぐい始める。


「なあバドゥ、背中やってくれ、届かねえんだ」


「わあったよ」


大体は自分で何とか出来た物の、背中は片手がしびれた状態ではままならなかったらしい。勇者の言葉に、相棒は慣れた物、と返事をして、その鍛え抜かれた鋼の体の、背中をぬぐい始めた。

その背中にある物を見て、相棒の手は一瞬だけ鈍り、それを敏感に察した勇者が、問う。


「背中、残ったか」


「残っちまってるな。……あの時ぁ悪かった」


「お前が気にする事じゃねえだろ、仕方がない事だし、男の勲章の一つだ!」


「お前はそう、楽天的に言うなあ……」


勇者が受ける傷としては、小さいであろう傷痕に、バドゥは一瞬目を伏せて、何事もなかったかのように背中をぬぐってやる。

そして終わると、布を勇者に渡した。


「んじゃ、おれは別の宿で寝泊まりするからな」


「えー、同じ部屋じゃだめなのか?」


「えー、とかかわい子ぶるんじゃねえよ、気持ち悪いな。お前幾つになったと思ってるんだよ」


「今年で十八」


「だろ、お前みたいなガタイのいいでかいのが、えー、なんてかわい子ちゃんぶっても、ちっとも可愛くねえからな。もっと可愛くてふわふわした奴が似合うセリフだ。そしてお前は見事に似合わねえ」


「ひっでえ!」


けたけた笑った勇者は、あ、と思い出したように言った。


「バドゥ、この酒場の隣は風呂場だぞ」


「何だって?」


「混浴じゃねえ風呂場だから、間違いも起きねえだろ? バドゥは今日、俺がはまるはずだった泥悪魔の罠に代わりにはまったから、結構気持ち悪いって言ってたじゃないか」


「なんだ、分かってるじゃねえか! でも風呂場は金が余計にかかるだろ」


「俺の財布から出すって言ったら?」


「おっしゃ、じゃあ入って来るわ」


「おう! だから一緒の部屋で寝てくれよ」


「はあ? それとこれとは」


「風呂代銀貨一枚」


「……しょうがねーなあ! 風呂入ったら戻って来るぜ!」


勇者の気前のいい言葉に、相棒は笑いながら言い、勇者は道具袋の中の財布から、銀貨一枚を取り出して、相棒の手のひらに乗せた。


「俺は体が動かない状態で、風呂場とか死ぬほどごめんだからな、たらいの水で清めるくらいでいいけどよ、お前はそうじゃねえだろ」


「もつべきものは理解ある相棒だなぁ、シャリオス」


相棒は途端に上機嫌になり、ぱっぱっと身支度を整えて、着替える勇者を残して、宿を後にする。

そうして綺麗に身を清めた相棒が戻ってきた時、酒場の店主は変な顔こそしなかったが、問いかけてきた。


「違う宿に泊まるんじゃなかったのか」


「諸事情で同じ部屋にする事にしたぜ! あ、これ追加料金な」


バドゥはそう言い、店主に追加代金を支払い、身軽な動きで階段を上がって行った。

部屋ではすでに寝台の上で、シャリオスが寝転がっている。

当たり前の調子で、端によっているし、右腕を伸ばした状態で、ぎこちない左腕で上掛けをめくっている。


「遅いぞ、何でお前はそう、風呂が長いんだ」


「お前が短すぎるだけだ、烏の行水よりひでえだろ」


そう言って相棒が、当たり前の調子で靴を脱ぎ捨て、上着を脱ぎ落し、ばっさばっさと振ってその辺にひっかけて、床に敷布一枚で転がろうとする。


「なあ、バドゥ。何回も言っているけどよ、宿屋ってのは「あーあー知ってらあ。同じ寝台を二人で共有するのが常識だって言いたいんだろ? でもなあ……」


びしっと勇者の相棒は勇者を指さし言い放った。


「毎度毎度、がっちり抱え込まれてるこっちの身の上にもなれってんだ! あばら骨を何度折れると思った事か!」


「俺は絶対に、バドゥのあばら骨を折らないぞ」


「寝ぼけたお前は信用できねえんだよ!」


そう言って睨み付ける相棒を、ため息交じりに勇者はみやり、酔っぱらった常識のなさで、その手を掴み……

*******************************

だんだんだんだんだんだんだんだん!!!!!!!


……? なんだ? うるせえな……?

おれがそんな事を思いながら、隣の賃貸の借主は女の子で、男を連れ込む事は今まで一回もなかったから、そっちじゃねえよな、と思って、どっかの酔っ払いが家を間違えた程度だろう、と無視しようとし……


盛大な音を立てて、おれの家の玄関の扉が吹っ飛んだから、おれは条件反射で戦闘用ナイフを掴み、相手に飛びかかり、おそらく相手の急所であろう首の位置に、ぴたりとナイフを押し当てた。


「よぉ、ふしん「ヴァミー!!! ひでえよ! 何度扉を叩いても返事すらしてくれないなんて!!」


おれはそれを聞き、その懐かしい響きと口調と声に目を見張った。

扉をぶっ壊した衝撃でもくもくと上がっていた土煙やほこりが晴れると、おれが首筋にナイフを当てていた相手の姿が、月明かりにも露になる。

月光の中露になったその男は、最後に見た時から少しだけやつれて、隈の浮いた顔で、でも多少は大人びていた。

それ位で、おれはそいつを見間違える事なんて絶対になかったから、仰天して言った。


「おい、シャンドラ! お前なんでこんな所に来たんだよ! お前は東の地域の豊かな所を、褒美にもらって、悠々自適なお貴族生活満喫してるって、手紙で書いてたじゃねえか!」


「そう、しばらくは悠々自適なお貴族様生活満喫してたさ! でもな、でもな……」


おれが慌ててナイフを引っ込める前に、シャンドラはがっちりとおれの両肩を掴み、首が少し切れるのも無視して、叫んだ。


「お前のせいで結婚できねえんだよ!!! どうしてくれるんだ!!!!」


「は!? おれが何したって言うんだよ!!」


「知らないのかよ! お前が、お前が、お前が……」


ぶるぶると怒りか何かで震えるシャンドラ。俺がゆっくりと慎重に、ナイフを引っ込めた時、シャンドラはおれにかなりの至近距離まで顔を寄せて、怒鳴ったのである。


「お前が!! 実録「勇者の冒険」を新聞に掲載するようになってから、縁談という縁談が潰れるようになっちまったんだよ!!!」


「実録じゃねえよ!! ちゃんと『多少脚色が含まれてます』って冒頭に注意書きしてあるし、タイトルも「創作」にしてある!!」


「あれのどこが創作なんだ!? 名前こそ表記違いだが、丸のまま俺とお前の冒険の実録じゃねえか!」


「名前が違ったら別人だろうが! それにあちこち脚色入ってるぜ!」


おれが胸を張ると、そうじゃねえ、とシャンドラが怒鳴った。


「……お前の実録、めちゃくちゃいろんな人間に読まれているそうじゃねえか。今度は掲載していた話が、書籍化するって話を聞いたぞ」


声が何だか低いが、おれは言われた事に気を取られて胸を張って自慢した。


「おう、聞いてくれ! 貴族令嬢からの評判ってのがめちゃくちゃいいらしくってな、表紙はカラーで挿絵付きで書籍化が決定してるぜ! おれの文才もなかなかだな!!」


「俺は! その貴族令嬢たちから!! わけのわからない事を言われて!! 縁談潰れてんだ!!」


「そんなの関係ないだろ」


「ある!! 縁談を断る令嬢がたが何て言ってると思うんだ? 皆揃いも揃って「勇者様には思いあう運命の相手がいらっしゃるのに、私ごときが間に入るなんておこがましい」という系統の事を言って断るんだからな? それもお前の連載が始まってからだ! 因果関係がないとは言わせねえ!!」


「しらねーって言ってんだろうが!! 馬鹿野郎!!」


おれはいい加減ぬれぎぬがうっとうしくなり、シャンドラの胸ぐらをつかみ、一発、そのお綺麗な顔に叩き込もうとし


「あんたら!! 夜中に騒いでいるんじゃないよ!! やるならここじゃない所でやりな!!」


と、騒ぎを聞きつけた大家の婆ちゃんに箒でひっぱたかれ、


「スミマセン……」


と同時に頭を下げたのであった。


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