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無題Ⅹ

作者: ベナ

 バッターボックスに立ってAは構える。目の前のピッチャーは真剣な顔をしてこちらを睨んでいる。


 休日の午後、城の横に設けられた公園の一角である。中天を少し超えた太陽がギラギラと輝いてマウンドに集まった少年少女の影を色濃く地面に刻んでいる。真剣な目に見据えられ、Aは否応なく闘争心を掻き立てられてバットを握りしめた。


「飛ぶよ!守って!」


 守備のリーダー格の女の子が声を張った。Aの構えを見てどうやら筋がいいと見込んだらしい。彼女の一喝に応えて周囲の守備陣が腰を低くした。これにAは一段と気合を込めて、大地とフォームをなじませるように二、三度足踏みをした。


 とその時、空に大きな雲が過った。ひと時太陽が隠れて辺リが翳った。この僅かの間、Aの口に人知れず吐息が上った。それは彼女の胸の底で爪を噛む及び腰な気持ちが吐かせた吐息だった。


 Aのバッティングフォームは綺麗だった。野球中継で画面に映るバッターの姿勢やかくやという感じのものである。このフォームに守備陣がAを野球の経験者もしくは運動神経の良いことを察するのは自然な発想といえた。が、実際はそうでもない。


 確かにフォームは綺麗だったが、彼女の打つ玉はいつも同じところに飛ぶのである。つまり、形だけはもっともらししいが応用もコントロールもできない見掛け倒しなのである。張りぼてである。


 Aの中で及び腰がひやひやとして言う。


 そんなに買いかぶらないでよ!どうせ三回も番が回ってきたら見掛け倒しってのが分かるんだから。“なーんだ”ってなるのが一番嫌いなのよ!


 太陽が雲を出た。ピッチャーが振りかぶって投げた。Aは思い切りバットを振った。キンッと鋭い音がしてボールは三塁側へ低くすっ飛んでいった。Aはバットを放って思い切り駆けた。なんとかかんとか一塁に出た。ベンチから長閑な喚声が上がった。Aはほっと一息ついて額の汗をぬぐった。


 休日、同年の友人やその姉弟が集まって気まぐれに始まった遊びだった。そもそもが気楽な試合であるはずなのに、いちいち多大なプレッシャーを覚えて冷や汗をかいているのはAの性格の悪い一面であるといえる。



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