†とある町の噂†
「ローレリア様の日記が見つかったぜ!」
「はぁ~、あの自殺したお嬢様だっけ」
「その方の日記がどうしたんだ?」
「日記にな、自分が冤罪になる事が分かっていたというのが書いてあってさ、更に冤罪になるまでの間が泣けるんだよ」
「どんな内容だ?」
「なんでも例の男爵令嬢を虐めていた令嬢達を止められなかった責任ってのが書いてあってよ」
「はぁ? なんだいそりゃ」
「立場上、上の者は下の者を助けるのが普通って思ったんだろうよ」
「そりゃまた難儀な性格だね」
「それから両親から愛されていなかったという事がつづられていてさ、愛されるように認められるように努力したが結局の無駄、自分は出来損ないの子供だの、上手くやれなかっただの書いてあってさ」
「ちょっと暗いな、その話」
「だからローレリア様はせめてもう誰にも迷惑をかけないように行動をしたんだってよ」
「ほう」
「婚約者も自分を愛さなくなって仲の良かった弟にも見放されて、頼れるのは従者のみ」
「それはまた……」
「その中で最悪のタイミングがきた、例の浮気男爵令嬢がいじめられている場面に遭遇してしまったらしい。その時、虐めていた令嬢達がローレリア様を突然仲間扱いしてきたんだってよ」
「成程、それが拗れて冤罪になったのか」
「そうそう、虐めていた令嬢達がそれに味を占めたんだ、それからローレリア様が男爵令嬢を虐めたと情報を操作し虐めっこ令嬢達の行動はどんどん酷くなる。最初は可愛い悪戯程度の物さ、例えば男爵令嬢の荷物を滅茶苦茶にしてそれを誰もいない教室へと置いておく、そしてその場所にローレリア様を呼び出して、少し遅れた時間帯に別の第三者も呼び出す。別の第三者はぐちゃぐちゃになった男爵令嬢の荷物とその場に居るローレリア様を見てなんと思うだろうかな、一応従者はその場に居たらしいがローレリア様の従者だから従者がどれだけ庇った所で誰も話は聞かないだろうよ」
「ひぇ」
「これが可愛い程度ってのか?」
「ああ、これで可愛い程度さ、次くらいにドレスビリビリ事件。ご令嬢とご令息様達が参加する社交界パーティー当日に殿下が俺達の税金で買ったドレスを男爵令嬢に送ったらしい。真珠が沢山ついている豪勢な奴だってよ、それを婚約者じゃなく男爵令嬢に、男爵令嬢に、浮気相手に! 送ったらしい、だがそのドレスが破られていたんだって」
「そしてそのドレスがまたローレリア様の所にあったんだろ?」
「その通り、だけどその時ローレリア様がご自分のドレスを男爵令嬢に渡したんだと、ローレリア様が立ち上げていた企業から出た利益を使って」
「ローレリア様、愛してる。税金大切」
「ローレリア様は殿下から頂いただろうドレスを修理にだして男爵令嬢に渡したんだ、ドレスは元に戻ったけれど結局は“自作自演”とされたらしい」
「っっっっ」
「次に酷い奴。男爵令嬢暗殺未遂ってのがあってさ、男爵令嬢を殺そうとした暗殺者が任務失敗時にこう言ったんだって“これはローレリア様の願いだ”とかな。そして逃げられたらしい」
「捕まえろよ、というか暗殺者って依頼主の名前を簡単に口にするんだ」
「どんなにしてもどんな行動をしてもローレリア様は自分の罪が潔白される事はないと悟り、せめて男爵令嬢を虐めている令嬢達を止める事だけに専念したらしい。だけど結局いじめは止まらないし自分の評価はどんどん下がるだけだった」
「ローレリア様ってバカなの? 他人の為にそこまでやるもんかね、しかも自分も婚約者と仲良くしている女の為に」
「ローレリア様は全てを許せる女なのさ」
「すげぇな、そんな女今まで見たことねぇよ」
「そう思うよな。そしてローレリア様は死んでしまった。だけど死ぬ前日の日記には罪を擦り付けた令嬢達を許して欲しいって書いてあったらしいぜ、ええっと手紙の内容が確か“彼女達は心に大きな傷を受けた可哀そうな花”とかそんな事、好きな相手の為を思って嫉妬してしまい間違った行動したが、それは傷ついた心がしてしまった。うんたらかんたら」
「かああああああ、ローレリア様、ちょっと異常なくらい良い人じゃねぇか?」
「全ての罪を被って死ぬとか俺には出来ん」
「更によ、自分を冤罪だと知らないとしても断罪した殿下達の事も許して欲しい的な事も書いてあったらしいぜ、人は盲目になると何も見えなくなる、それを正せなかったのは支えられなかった己の罪ってさ」
「ローレリア様には悪いが、なんでも自分のせいにしちまうのもダメだな」
「自分を犠牲にしてまで平和を望んだんだよ」
「俺には出来ねぇな、するつもりもねえが」
「殿下達はどうなってんだ?」
「さぁ? 俺が分かっているのはローレリア様がどんな生活を送っていたか だけだからな」
「そっか……。ローレリア様は従者と共に天の上」
「今頃、どんな気持ちでいらっしゃるんだろうか」
「きっと平和を願っていらっしゃるに違いない」