【第一章】第三部分
不幸な。経済的に不幸ということではなく、魔法界の鳥にフンを落とされたり、濡れ衣で先生に怒られたり、何もないところで転んだりして、それを不幸のせいにしていた。不幸とは、自分に降りかかる事象を不幸と感じてしまう思考回路を保有していることである。加えて、ウインピアはちょっとしたことにもびびってしまう体質でもあり、それも不幸だと認識していた。
今日のウインピアは、幼稚園で教室のドアに指を挟んで痛がっていた。
こういうことも不幸のうちなんだ。と沈むウインピアだったが、あのこと話がしたい、という好奇心がなぜか湧いていた。体育の授業中に、ウインピアは魔法界の小さなハチに刺されたのである。普通はこのハチに刺されても大して痛くはない。
痛い、とっても不幸だよ!
飛び上がったウインピアは、全身で不幸を表した。
小さなハチに刺されたぐらいで大袈裟だわ。ほとんど腫れてもいないのに。
エンヴイルが溜め息をつきながらぼやいた。
ウインピアは、些細なことに対しても、いつも大仰なリアクションを起こしていたので、エンヴイルだけでなく、他の生徒たちは冷淡になっていた。
うわああ、眩しい!
ウインピアのからだが激しく光って点滅し、生徒たちは視界を失った。しかし、数秒後、エンヴイルは見たことのない光景を目にしていた。
これはいったい何なの?エンヴイルの瞳に映ったもの。それはどこかわからない、別の世界。視力のないエンヴイルにである。
これって、禁断魔法じゃない?ウインピアにはスゴい才能があるんじゃないの?
エンヴイルはその思いを口に出すことなく、飲み込んだが、禁断魔法らしいという強烈な印象を忘れることは1日もなかった。
ウインピアのことがあってから、魔法優等生のエンヴイルはこの頃から魔導書で禁断魔法について研究するようになっていた。
禁断魔法は通常の魔法とはまったく違う能力が必要となる。いや能力というよりは才能というべきもので、禁断魔法を操れる魔法少女は極めて少ない。魔法は、通常、自然界に存在する火、水、風などのエネルギーを使うことで操ることができる。しかし、禁断魔法は魔法少女が体内に蓄積した感情を発動のエネルギーとする。従って、使うにはエネルギーの蓄積が必要で、それには一定の年月がかかる。そしてエネルギーを蓄積できて、それを魔法に転換できる魔法少女は数えるほどしかいない。
さらに禁断魔法はひとりでは発動できず、もう一人の魔法少女の協力が必要なこともエンヴィルは知った。それはエンヴィルにとって自分の嫉妬の捌け口となるチャンスでもあった。
自分は大多数の魔法少女に包含され、ウインピアはレアに分類される。ウインピアは自分が不幸だと思うエネルギーを蓄積している。エンヴイルはそういう風に理解した。わたしはウインピアの才能の前に膝まづく時が必ずやってくる。
ウインピアの才能に嫉妬したエンヴイルは、ウインピアの好奇心を利用したいと思うようになっていたのである。ウインピアに禁断魔法を使わせて、エネルギーを枯渇させてやりたい、とエンヴイルは妄執していた。