【第一章】第二部分
ふたりの幼い魔法少女の話である。友達がいないエンヴィル。他人に対して異常なまでに慎重で、心を開くことがないからである。それは親からのイジメが原因である。エンヴィルはいつも親の顔色をうかがう子供だった。捨て子の宿命である。エンヴィルは、周囲から『ステゴザウルス』と呼ばれていた。
そんなエンヴィルは常に回りから敬遠されていたが、ウィンピアは面白がってやってきた。ウィンピアは基本びびりだが好奇心が強く抑えきれなかったのである。怖いもの見たさっていうものである。
幼稚園の狭い教室の隅に座って、黒いオーラを出しているエンヴィルにモジモジしながらにじり寄るウィンピア。
「あ、あの、」
「ギロリ。」
きゃー!
エンヴィルのひと睨みで、ウィンピアは幼稚園の教室の対角線までダッシユ逃げした。ふたりとも視力はないのだが、好奇心、威嚇という精神が視覚的に働いていた。
ウィンピアは、声かけダッシユ逃げについて、1日3回をワンセットとして、1週間繰り返した。慣れはウィンピアに少しずつ勇気を与えていき、ついにしっかりとした発声にこぎ着けた。
「い、いつもひとりで何してるの?」
「別に何もしてないわ。あんたもしつこいわね。」
この日のターンはここで終了した。
次の日、エンヴイルは明らかに苛立っていた。ウィンピアが無言でエンヴイルのそばにずっと立っていたからである。
他の幼児たちはふたりには全く無関心であった。それから1時間近く経過した時、エンヴイルのガマンが堰を切った。
「あなた、いったい何を考えているの。わたしに近づかないでよ。」
「あたしって、そんなにジャマかな。」
「当たり前でしょ。じっと見られてるような気配がするから、勉強とか、手につかないじゃない。」
「でもそばにいかないとお話しができないよ。友達になりたいんだから。」
「よくわからないわ、わたしに友達とかあり得ないわ。ステゴザウルスなのよ。」
「じゃあ、その恐竜、あたしが倒してあげるよ。あなたはステゴザウルスなんかじゃない、魔法少女エンヴイルだよ!」
ウィンピアの強い調子に、エンヴイルはしばらく沈黙していた。やがて、それまでとは違う目付きで、ウィンピアを見た。エンヴイルって、わたし、初めて名前で呼ばれた。
エンヴイルは目頭が熱くなったことをはっきりと自覚した。
それを機会に友達になった。