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隠し部屋の中にはドゥエラ、フォルカと変わらない10才程の少年が居た。
隠し部屋は2人の部屋の半分程の大きさで、この家の図書室で見たことがある本が幾つか床に積み上がっていた。
少年は2人をいきなり部屋に入ってきた不審者と位置付けたのかキョトンと月の様に丸くしていた目を細めて睨む。
一方ドゥエラとフォルカは今まで住んでいた家に有る隠し部屋と隠されていた同居人に驚き声を失っている。
沈黙を破ったのは黒髪の少年だった。
「きみたちは誰?神父様は?」
思いの外凛とした声で問われ、ドゥエラが慌てながら答える。
「ええと、オレはドゥエラ。こっちはフォルカ。シンプサマは聞いたこと無いけど、フォルカは知ってる?」
「いや、俺も聞いたこと無いな。イバン先生は牧師だし。君こそ誰?どうしてこんな所に?」
彼は探る様な眼差しで2人を見た後語り始める。
「……僕はトロワノ。生まれた時から孤児だったらしくて、ルーピアレスの孤児院に居た。何年か前、孤児院から神父様に引き取られてここに来たんだ。神父様は何かやることが有るらしくて忙しそうにしてた。邪魔しないように部屋から出るなって言われてる。」
トロワノの話が一段落して話をまとめようとフォルカが考え込む。そんなフォルカとトロワノの様子も構わずにドゥエラがそわそわと落ち着かない様子で声を発する。
「ええと、取り敢えずここから出ない?そろそろお昼でお腹も空いてきたし、何か食べながら話そう?」
ドゥエラははにかみながらそそくさと狭い部屋から出て行ってしまう。
トロワノとフォルカは取り敢えずドゥエラに着いていくことにした。
パンとスープを腹に入れた後、今後の話をしようとフォルカが口を開く。
「……取り敢えず、話を整理しよう。
まず俺とドゥエラはこの家に住んでる。俺は2年でドゥエラは5年。トロワノが居たあの部屋はドゥエラがこの家に来た時から立ち入り禁止だったよな?」
「うん。でも入りたいって思い始めたのは割りと最近で、前は入れない部屋が有ることに疑問を持たなかったかな。父さんの言うことだからって思ってた。」
「父さん?」
「イバン先生の事だ。先生は牧師をやってる傍ら教師みたいな事もやってるから村の人から先生って呼ばれてる。
ちなみに神父と牧師は宗派が違って、神父がヴェリタ(真理)派と呼ばれて天使を祀る方で、牧師の方がドットリーナ(教義)派で神を崇めてる。」
ドゥエラはややこしいと眉をひそめる。
フォルカは難しい顔をしてトロワノに話を振る。
「それで……トロワノはどうする、というか、どうしたい?」
「え、えと。」
「単刀直入に、この家はイバン先生の物だ。神父様とやらもイバン先生の知り合いなんだろう。此処にいたらずっとあの部屋の中に居ることになる。」
トロワノは黙り込んでしまう。其処にドゥエラが横から口を出す。
「トロワノも旅に着いて来ない?というか、この際皆で家出しちゃおう。何とかなるよ。」
「イバン先生は?保護者なんでしょ?言わなくていいの?」
四の五のとトロワノが言い始める。
しびれを切らしフォルカが立ち上がる。
「良いんだ。旅に出ることは何回か反対されてるし、家出するぞ。こういうのは勢いだ。決断力と実行力を見せてやろう。」
「え……」
「ドゥエラ、マントを忘れるなよ。お前も羽織れよ。まだ寒いし。」
「トロワノにはオレのだけど新しく仕立てて貰ったマントあげるよ。」
トロワノが呆気にとられている間に2人は早々と準備を進めていく。
あっという間に支度が終わった。
そしてトロワノから疑問を問い掛けられて気付く。
「ところで冒険者ってどうやって成るの?」
「……冒険者に聞きに行こう。」