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夕昼夜の世界探索  作者: 桐下千央
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今日は良い天気だ。


日当たりの良い部屋に朝日が射し込んでいる。

肌に感じる空気は少しずつ暖かくなっていく。そんな季節の、何かが変わるかもしれない、そう感じる朝。

窓から外を覗くと昨日の雨の残りに青空が映っているのが見えた。

赤い髪に金色の目をした少年、フォルカは心に決めたことを告げるためイバン牧師を探す。

今の時間は執務室に居るだろうと検討をつけ、部屋を出る。



フォルカは2年前からコヨルネ村にイバン牧師とドゥエラとフォルカの三人で暮らしている。2年前以前の記憶は無い。気づいたら3人で生活していて、それが当たり前だった。

イバンは教会の牧師をやっている。それに加えて読み書きや簡単な算術等を教える事もあり、村の人からの評価は大分高い。


フォルカの決断、それは冒険者になること。

「駄目だよ。」

イバンは笑顔でバッサリと切り捨てた。取りつく島もないとはこのことだろう。

イバンの執務室。少し緊張して背が伸びるフォルカ。

白い髪、丸眼鏡の奥の今は鋭い青い瞳。仕事着でもあるいつものシンプルな黒いスーツ姿。いつもと同じ優しい微笑みを浮かべている筈だが今はプレッシャーを感じる。

「君にはこの教会を継いで貰いたいんだ。冒険者になって命を危険に晒すよりも此処で平和に暮らした方が良いだろう?魔獣達と戦いたいのなら騎士団でも良い。ああ、最近は魔術師団というのも発足されたそうだ。魔法を使えるお前にはそちらの方が良いか。」

「そうではなく、」

「とにかく、冒険者は許可しない。お前は頭が良いのだから、他の道を選びなさい。

それと……父さんとは呼ばないのか?」

「……?イバン先生は俺の父親では無いでしょう。失礼しました。」

フォルカが退室し、扉が閉まる。肩を落としてため息を吐く。

気分を変えようと外へ出る。


広場でベンチに座って空を見上げる。笑顔の少年の顔がフォルカの視界を遮る。

「変な顔!」

空色の髪を揺らしイバンと同じ青い瞳を細めてきゃらきゃらと笑うのはドゥエラ。

「何ふてくされてるのさ、フォルカ。父さんに冒険者になること反対されたの2回目じゃん。」

「今回はいけると思ったんだ。

……他に選択肢が有るだろ、て言われて。そうだよな。平和に暮らせるより良いことないよな。自ら死地に行くなんてっていう先生の言い分は理解してるんだ。」

「何で冒険者なの?どこか行きたい場所とか見たい所があるなら父さんに言えば連れてって貰えると思うけど。」

「行きたい場所が何処に有るのか分からない。ぼんやり、何となく。」

その言葉を聞いてドゥエラは合点がいったように話す。

「ああ、記憶を取り戻す旅か。いいな。オレも付いて行こう。」

「お前は騎士になるって言ってただろ。」

忘れていたのだろう。しまった、という顔をしている。ドゥエラは誤魔化すように慌てて話題を変える。

「そう!家のさ、入るなって言われてる部屋!昨日の夜、物音が聞こえてきてさ。」

「その話10回以上してるだろ。先生に聞いても何も無いって言うし、そもそも入ってみて何も無いって結論出ただろ。」

フォルカの呆れ混じりの返答にドゥエラは不満な様子を見せる。ドゥエラから報告があった回数が5、6回を超えた辺りで二人で確かめに行った事がある。

村の中でも大きめの家。その中の鍵付きの部屋。イバンの外出中に二人で部屋へ入った事がある。ドゥエラの好奇心と探求心に刺激され、フォルカも胸を高鳴らせながら件の部屋へ入った。

結論は研究室。鋭利なドラゴンの鱗や危ない薬品が有る為に触らない様にという理由だった。

「夜だけ活動する何かが居るのかもしれないよ。」

昼間にしか行かなかった事でまだ何かあると確信しているドゥエラはもう一度行こうと言う。

しかしフォルカは反論する。

「夜は先生が居るから無理だろ。昼間行ったのも先生が居ない時間だったからで、」

「楽しそうな話をしているな。」

二人が前を見ると長い金髪と白い翼を揺らしながら女性の天使が歩いて来る所だった。

彼女はヘルミロエル。この村の守護天使だ。守護天使とはその土地の治安維持を担う天使の事。魔獣や盗賊などを追い払うのが主な仕事だが最近は冒険者や騎士団の活躍により出番はあまり無かったりする。

伏せられがちな青い目は今は呆れを含ませている。

「悪巧みの相談なら隠れてやりなさい。」

「分かった!」

悪巧み自体を止めるべきだろう。ドゥエラも素直に肯定的な返事をするな。

「ヘルミロエル、悪巧み自体は止めないのか?」

「止めないさ。お前達に出来る悪巧みは高が知れてるし、行き過ぎた悪戯ならイバンに仕置きされる。」

金色の目が細められて天使に向けられる。

ヘルミロエルは声色に喜色を滲ませながら続けてこう言った。

「そう、イバンから伝言を頼まれていたんだ。イバンがこれから出掛ける。日が落ちる迄には帰るそうだ。

私も付いて行くから、冒険者が数人近くの街から派遣されてきた所だ。フォルカ、話を聞いてきたらどうだ?」

フォルカの中で反抗心と好奇心が対立している。ここで素直に話を聞きに行くなんて手のひらで転がされている様で気に食わないが現役冒険者の話は聞きたい。

「行こうよフォルカ!オレも冒険譚聞きたい!」

目を光輝かせながら好奇心の塊が発言するが、フォルカは黙ったまま。

「……ふむ。取り敢えず伝言は伝えた。私達は出立する。行ってくる。」

「行ってらっしゃい!」「行ってらっしゃい……」

暫く立ち尽くした後、ドゥエラが口を開く。

「なら、もう一度だけ。あの部屋入らない?」

どうしても気になるらしい。イバンは居ないという事もあり、フォルカは肯定的な返事をする。危ない物には触らないことをドゥエラへ言い聞かせ、再び部屋に足を踏み入れた。

何故そんなに気になるのか。物音がすると言っていたが生き物は居そうに無い。

「フォルカ、手伝って。」

「どうし、た……」

やけに真剣なドゥエラの声にフォルカが振り向くと棚の中に隠し部屋の入り口があった。

「どうやって見つけたんだ?」

「分からない。何となく?」

「取り敢えず入ってみよう。」

「オレが先行くよ。」

この件に妙な積極性を見せているドゥエラはさっさと入ってしまう。フォルカも後に続くと隠し部屋には俺達と年の変わらない位の少年がいた。

夜を思わせる背中程まである黒髪。月の様な金色の目は驚きに見開かれていた。

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