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ごめんね、性格が悪くて。

◆キャラクター設定


連石(れんじゃく) 純恋(すみれ) 16歳 155cm 6/2生

 童顔 亜麻色のシフォンショート

 絵を描いて二次創作をするタイプのオタク、少女漫画が好きなロマンティスト。自分ではそれを恥ずかしいと思っており美術部などには入らず帰宅部、オタクである事も隠している。

 昔はガチガチのコミュ障だったが悠亜に引っ張られ周りと関わるうちに今はある程度の社交性がついており、同級生との付き合いはできるが放課後に遊ぶような仲の人はいない。

 小学3年生の時に言われた悠亜の「純恋のふにゃって笑った顔、好き。かわいい」を自信にして笑顔を作るのはうまい。だが気遣い屋気質のせいで人付き合いは疲れる。

 自分がオタバレなどして虐められるような事があれば悠亜の迷惑になるのでは、と考えている。


香登(かがと) 悠亜(ゆあ) 16歳 168cm 11/21生

 眠そうな顔 黒のエアリーウルフボブ

 純恋の幼稚園からの幼なじみ。

 勉強ができる上に見目麗しく、ローカルアイドルも務めている。だが天然が過ぎる性格でちょこちょこ抜けており気にかけてくれる純恋にとても懐いている。

「おはよ」

「ん、おはよ」

「純恋、寝癖」

「うっそ、直したよ!」

「うん。嘘」

「悠亜さぁ……」


 何も見ていないフリをして笑うのが辛い。頬の筋肉を無理やり引き攣らせて上にあげているような感覚。

 私たちは電車通学だから駅で会う事が多いし、そもそも同じマンションに住んでいるから部屋の前にお互いが迎えに行く事も昔から多い。小学校の頃なんて、朝、親がそれぞれの子どもをお互いの家の部屋の前に連れて行って「純恋をよろしくね~」だとか「悠亜は純恋ちゃんがいないと学校に行かないって言うのよ」なんて言って送り出していたくらいだ。家族ぐるみでの付き合いも幼稚園から数えると本当に長い。

 そんな関係を私一人の恋心、嫉妬でぐちゃぐちゃに壊すわけにはいかない。

 駅のホーム、電車を待ってまだ冷たい春風に晒される私たちの間を流れる沈黙が不自然でない事だけが救いだ。沈黙が気まずい関係じゃない。


「……純恋、眠い?」

「イライラしてる。シャウッターで……ムカつくDMきた。下手な絵あげんなって」


 いや、救いになどならない。悠亜は聡い。私以上に私の事に敏感。隠しきれないならごまかすしかない。


「マー……」

「まー、って何?」

「マジ?の『マ』」

「んっ……やめて、変な顔すんの」

「ふふふ、ちょっと笑った。安心」

「えー……過保護すぎん?」

「純恋が過保護だから。私も、過保護」


 トン、と肩に悠亜の二の腕がぶつかる。悠亜のが私よりも10cm以上背が高いからどうしてもそうなってしまって、きっとこの少女漫画みたいな行動だって、私が背の高い男性だったなら悠亜の華奢な肩が私の二の腕に当たっていた筈なのに。かわいらしいなって思えた筈なのに。

 高校2年生になってもまだ「もしも私が男だったら?」という後悔から逃げられない。ただそれと同時に安堵もする。私が同性だから悠亜は極々近い隣にいてくれるんだと。

 通勤と通学が被った満員電車を見て更に落ち込みそうになるが頬をパンと両手で叩いて無理やり気合いを入れ、悠亜の手を握り、乗り込む。彼女がいるからって何だ、今まで通りで私は通してやる――悠亜が「彼女できたから、もう女の子とも手を握らないの」と言ってくるまで。「一緒にいるの、もうやめよ」と、この綺麗な顔が困ったように歪むまで。私からは離れてやれない。ごめんね、性格が悪くて。





 ***





 私たちの高校につくまでの間に通りかかる都心部でほとんどの人は電車から降りるから、そこからならようやく座れる。固い椅子でも立っているよりはマシ。


「昨日の入学式ほぼ寝てた」

「よく寝れるわ」

「純恋は先生に怒られるの嫌だもんね」

「みんな嫌でしょ」

「怒られても……別になぁ」

「つっよ」


 クスクスと肩を寄せ合って小声で会話をする私たちを見る目は常にあって、不快感に慣れる事はない。だいたいねばついた視線で悠亜を見ていて隣の私も巻き込まれている。悠亜が悪いわけじゃない、見るほうが悪い。ここで悠亜が悪いと言うのはそんなの痴漢される側が悪いと叫ぶのと同じようなものだ。離れる理由にはならない。


「……純恋」

「いいよ」

「純恋」

「いいって」

「私がよくない」


 悠亜は身長が高くて、だいたい眠そうな顔をしているので私から見れば愛嬌たっぷりに見えるけれど他人からしたらそうは見えないというのはわかっている。キリッとした長身の美人はそれだけで迫力があって近寄りにくい。ならば、先ほどのようなねばついた視線で私たちを見ていた他人の中にも一部いるアクティブな人間はどうするのか?

 私の隣に座る。それだけならいい。たまに明らかに電車の揺れのせいにして顔を私に近づけたり、膝を触ってきたり――有り体に言えばセクハラを受ける、こんなガラガラの電車ですら私たちは被害者になってしまう。女二人、学生服、小柄な女。恰好の餌食だろう。

 そんな時、悠亜はいつも私を守ろうとしてくれる。


「じゃ、おいで」

「目立つもん……」

「いいよ」


 静かな落ち着いた声に反して私の腰を抱き寄せる腕は強い。悠亜は強情だからこうなると逆らったら面倒だ、というか周りの迷惑になってしまう。お互いヒートアップしにくい性格はしているけれど怒った悠亜をなだめるのは私には難しい。

 大人しく腰を抱き寄せる理由、膝の上に乗ってしまえという提案に乗ってしまう。固い電車の椅子から女の子の太ももに座るとギャップがすごい……し、あと、いくら同性でも照れる。そもそも私は悠亜が好きなのに。恋愛的な意味で。だから罪悪感と嬉しい気持ちで心臓のバクバクがすごい。


「目立つよ。めっちゃ見られてる」

「いつもじゃん。いつも見られてる。私も純恋も」

「悠亜がね。どーすんの、撮られたら」

「いいね。バズって仕事増えたらいーなー」

「ばーか」


 街で通りすがった人が振り向きながら悠亜に注ぐ羨望の視線、その隣にオマケでいる私、そんな事は気になった事がない。強がりでなく一度もないのだ。


「悠亜は完璧だよね。ホント」


 私の膝の上に置かれている、私よりだいぶ大きな手で「せっせっせー、のよいよいよい」の動きをして遊ぶと首の後ろに「ふふ」と笑った鼻息がかかる。

 こんな最高で、最強な人と自分を比べる気になんてならない。強いて言えば隣にいても引け目を感じて逃げずにすむ程度の造形に産んでくれた親に感謝はしている。


「完璧なら、お母さん、私の事、純恋に預けないよ」

「確かに」

「ね」


 今は、一人分間が空いた……空けられた、その席から見てくるおじさんの視線が優越感で気持ちいいくらいだ。

 だけど、こんなに私に優しいこの人は私だけに優しいわけじゃない。きっとこれからこの優しさは、あの綺麗な先輩にだけ注がれる事になるだ。

 悠亜の彼女だけのものになっていく……それが許せる私だったらよかったのにと思っているのは、昨日の事を知らないフリして作っているこの笑顔のよう嘘じゃなく、本音だ。

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