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短編集 ~他サイトに載せている作品を集めたもの~  作者: 新 星緒


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破綻のとき《ヒューマンドラマ》

◇あらすじ◇

結婚一周年を迎えたばかりの《私》。まだ新婚といえる時期だけど、夫・圭介との生活は不満だらけ。

 明日の有給休暇のことを考えながらお風呂から出てくると、シンク脇には使ったままのグラスと皿と箸、それからビール缶が置かれていた。圭介の晩酌セットだ。だけど彼の姿はなく、寝室からかすかな鼾が聞こえてくる。

 またか、と思いながら缶をすすぎ食器類を洗う。


 結婚するときに家事の役割分担を決めた。職場が近いのは私だけど、早く帰れることが多いのは圭介。その辺りもきちんと勘案した。

 三食以外で使った食器の場合は各自洗う。だから本当はこの晩酌セットを洗うのは圭介だ。でも、やらない。

 お風呂だって。洗うのは早く帰ってきたほうの約束だけど、圭介はやらない。いつも私。毎日私。私の帰りが深夜になれば、圭介は洗わずシャワーを浴びて済ます。なにそれ。

 お風呂に入る順番も、声を掛け合ってと決めたのに圭介が先に入る。洗わないくせに、入るのだけは早い。


 圭介がずるいのは、自分が好きな家事はきちんとやるところだ。料理。洗濯物畳み、ただし自分のだけ。食材の購入。ゴミ出し。これは周りの人たちの目があるからだ。よその女性に『いい旦那様!』と思われたいのだ。


 結婚したときは平等に家事をしていたのに、それは三ヶ月ももたなかった。私は何度も抗議してその度に圭介は『これからはきちんとやるよ』と約束をした。でも一週間ともった試しがない。


 圭介のダメさ加減を友達に話したときに返ってくる反応は二種類ある。『男ってそんなもの』という諦めと『見る目がなかったね』という慰め。

 私は圭介は『そんなもの』に部類されない男だと思って結婚した。だから『見る目がなかった』ということなのだろう。


 基本的にはいいヤツなのだ。先月の入籍一周年記念日には私の好きなイタリアンレストランを予約して、サプライズプレゼントもくれた。小さいけれどダイヤのついたピアス。可愛かったけど、マンション購入のために貯めている預金を下ろしたと聞いてがっくりした。


 圭介には悪気はないのだ。自分は妻を手伝い、愚痴にもちゃんと耳を傾け対応する、いい夫だと思っている。彼にとって私が抱える不満は、私のワガママなのだ。対等な立場で結婚したはずなのに、細かい家事は私がやって当たり前のものになっている。トイレ掃除もシャンプーの補充も、鏡拭きも。ゴミ箱のゴミを袋に入れるのも私。圭介は玄関に用意されたそれをただ運ぶだけで、大仕事をしたと思っている!


 それでも、大抵のことは我慢できる。できないのは──。




 寝支度を終えて寝室に向かう。明かりがつけっぱなしのそこで圭介は太平楽な顔でダブルベッドの真ん中で大の字になって寝ている。


 結婚する前から、圭介にお願いしてきたことがある。おはようとおやすみの挨拶だけはきちんとしたい、ということだ。おはようは守られている。だけどおやすみは、ほとんど聞くことがなくなった。


 たいてい私が入浴している間に圭介は寝てしまう。だから私はお風呂に行く前に

「おやすみ」

 と声をかけるようにした。だけど彼は

「まだ寝ないし」

 と、答えるのだ。目はテレビかスマホに向けられていて、私を見ることはない。圭介に悪気はないのだ! 自分がしたいようにしているだけ。


 ベッドサイドのチェストに白いテディベアがふたつある。結婚式を挙げるときに友達が、『ウェルカムベアにしてね』と贈ってくれたものだ。

 今では私の挨拶を聞いてくれるのはこの子たちだけ。


 明かりを常夜灯に切り替え、可愛らしいクマたちに

「おやすみ」

 と声をかける。返事はない。

 淋しさに泣きたい気持ちになったのは、ずいぶん前のこと。もう気持ちは固まった。


 ふたりで決めたはずの家事分担を守ってもらえなくても、私を対等に見ていなくても我慢はできる。だけどどうしようもない淋しさだけは、慣れることができない。


 明日は有給。圭介は、休みなら豪華な夕飯を作っておいてと言った。いいだろう、彼の好きなビーフストロガノフを鍋いっぱいに作っておいてあげる。

 離婚届けを添えて。


エブリスタ

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