敵情視察 《SF》
《あらすじ》
地球を乗っ取ろうとしているヤツらは、ちょっとばかりおバカだった……
◇◇
ニニポウア星人は地球を手に入れようと計画をしている。だが、それには人類が邪魔だ。奴らの弱点を調べ、攻撃の端緒にする予定――なのだが。
どういう訳か、偵察部隊がことごとく行方不明になる。
人類の好むものに擬態をしているから、外敵だと気づかれるはずはないのに。
そこでニニポウア星人は330名もの諜報員を送り込む、過去最大規模の作戦を敢行することにした。擬態に選ばれたのは人類が大好きな、ぬいぐるみ。
コードネームKV.330号も、人気のぬいぐるみに変身して地球に送られた。そこでのぬいぐるみ生活は予想外のもので――。
『発射60秒前』
カウントダウンが始まる。
俺は転移装置の中で軽く深呼吸した。課された任務は重大だ。敵情視察。すでに多くの仲間がこの任務の最中に消息不明になっている。いったいあの地でなにが起こっているのか。
俺たちニニポウア星人は1450年前に母星が爆発霧散して以来、移住先を探してきた。そうして最近ようやっと母星に近い環境の惑星を発見した。地球だ。
だがこの星は、中途半端に発達した文化を持つ人類に支配されている。移住の前に人類を駆逐せねばならない。
だがニニポウア星人は大規模殺戮攻撃機は持たないから(1450年の間に失われてしまったのだ、慙愧に耐えない)、人類の弱点を探り適した殲滅方法を考える必要がある。
そのために10年ほど前から偵察部隊を地球に送っているのだが、全員連絡が途絶えて行方がわからなくなっている。原因は不明だ。
俺たちは人類が好むものに完璧に擬態している。ゆえに彼らがニニポウア星人の存在に気づくとは思えないのだが、結果から推測するに、偵察部隊はなにかしらの攻撃を受けているとしか考えられない。俺も心して掛からねば、先達と同じ運命となってしまうだろう。
『今まで様々なものに擬態してきた』カウントダウンに長官の声が重なる。『人類そのもの、犬、猫、地雷、いやらしいコンテンツ、スマートフォン、プリン、イルカ。だが今度こそうまくいくはずだ』
『はいっ!』俺は力強く返事をした。
今回の作戦に投入されるのは330名の偵察員。過去最大規模だ。みな同じ種別に擬態しており、うち329名はすでに地球に転移済み。俺は最後のひとりだ。
『期待しているぞ』と長官。『ぬいぐるみKV.330號!』
『必ずや任務を成功させます!』
俺の声とカウント・ゼロの声が重なった。
◇◇
いったい俺はいつ買われるのだろう。
地球の売店に転移し118日目。同じ店に来た仲間9名はその日のうちに買われていった。だというのに俺は……。やはりこの側がいけないのだろうか。
ここにいても人類の観察はできる。だがあくまで観察。弱点を探れるような状況じゃない。このまま買われるのを待つか、命令を無視して探索活動に出るか。なにが最善なのか。ため息が出てしまう。とはいえぬいぐるみだから、人類にバレないように、そっと済ます。
「うわぁ!」
甲高い声がして体が浮いた。幼女が俺を両手で掲げ持っている。
「りお、これにする!」
「えええ? 本当にそのぬいぐるみがいいの?」
「うん!」
「なにかしら、これ。……アイアイ? ちょっと独特な見た目ね……。ね、りおちゃん。ウサギとかパンダとか……」
「りおはこれがいい! だって黄色いお目々がカッコいいもん」
トゥクン!と胸が鳴った。
幼女は最高の笑顔だ。
俺をカッコいいと言った!
守りたい、この笑顔!
いや、違う違ぁぁうっ!!
危ない、俺たちニニポウア星人は人類を殲滅するのだっ!!
118日ぶりに話しかけられたからって有頂天になるな!
幼女の顔がなんだ! ちょっと可愛いくらいで胸をときめかせるな!
冷静になるのだ、俺。気を抜いていたら先達のように行方知れずになるだろう。人類を甘く見てはいけないのだ。
だが、にっこにこの笑顔の『りおちゃん』に抱きしめられた俺をは、ひさしぶりに生命体に触れてもらえて、胸がトゥクントゥクンしてしまうのだった。
◇◇
見事、人類の生活拠点に侵入した俺だったが、予想外の事態に困惑をしている。『りおちゃん』はカッコいい俺が大好きで、手放さないのだ。一緒にご飯を食べ遊び寝る。自由時間は『りおちゃん』が幼稚園に行っているときだけ。だが留守番の俺は必ず玄関で待機させられるのだ。
出入り時に目につく定位置。これが曲者で、一度自由に歩き回っていたら、買い物に行っていた『ママさん』が帰ってきて『アイアイが出かける前と違う場所にある! 怖い!』と恐ろしがって、処分されそうになった。
以来処分が怖くて、玄関から動けなくなってしまった。
また夜中、『りおちゃん』が寝ている隙にベッドから這い出たら、すぐに彼女が起きて『アイアイがいないぃぃぃ!!』と泣き叫んだ。床に転がっている俺を『パパさん』がみつけて、『りおちゃん』の寝相が悪いということで話は済んだ。
幼女が泣き叫ぶ姿は、さすがの偵察員も心が痛むので、以来きちんと添い寝するようにしている。
――決して『りおちゃん』のぬくもりが好きだとか、そばにいてあげたいとか思っているわけではない。
いつもいつも振り回されているから迷惑をしているのだ。
褒め言葉も『カッコいい!』と『お利口さんね!』の2種類しかないし、遊びはワンパターンだし、低能にもほどがある。
いくら笑顔が素晴らしかろうが、『大好き』と愛を囁かれようが、ちゅっとキスをされようが、そんなものでは偵察員はほだされないのだ!
母船への連絡をしていないのも、『りおちゃん』からの監視がきつく、『ママさん』からの処分が怖いだけで、深い意味はないのだ。うむ……。
『りおちゃん』が俺のもふもふしっぽにリボンを結ぼうとしている。だが幼女の『りおちゃん』はまだうまくできなくて、泣きそうになっている。
がんばれ!
りおならできる!
君は素晴らしい集中力と器用さを持っているぞ!
――じゃなかったあぁぁぁ!!
人類を応援してどうする。アホで低能のほうがラクに殲滅できるんだぞ!
「あれ?」
『りおちゃん』が手を止めて、しっぽをじっと見ている。それからトタトタトタと『ママさん』の元に行った。その傍らにあるタブレットをいじる。俺のしっぽを何度も見ながら、なにかを打ち込む。
しばらくすると軽快なピアノ音楽が流れ始めた。
「アイアイの曲!」と『りおちゃん』
「なんで?」と『ママさん』が尋ねる。
「んとね、ここに書いてある」
『りおちゃん』が俺のしっぽの毛をかき分けている感覚。
「本当だ。KV.330」
そ、それは俺のコードネーム!
「製造番号かな?」と『ママさん』。
「アイアイの曲!」
「りお、よく覚えていたねえ」
「この曲好き! りおも弾く!」
『りおちゃん』はピアノを習っている。『ママさん』も得意らしくて、ふたりで教室に通っているのだ。もちろん俺もお供をさせられている。だが俺の所感だと、この曲はりおには難しいだろう。
というか、これもKV.330なのか。親近感が湧くな。心地よい素晴らしい曲だし。KV.330のコードがつくものは、どの世界でも優秀らしい。
「ううん。りおにはまだ早いかな。手が小さいからねえ」
「がんばる! ……でも、どのくらい大きくなったら弾ける手になる?」
「小学校6年生くらいかなぁ」
「それ、どれくらい?」
「長野さんちのまゆちゃんが6年生」
「ふわぁ! おっきい!」
ふむ。『りおちゃん』はまだ年中さんだから7年も先だ。
「じゃあ6年生になったら、絶対に弾く! アイアイの曲だもん! 発表会でドレス着て、アイアイと連弾する!」
いや、俺が動いたら『ママさん』が卒倒するぞ。てか、連弾の意味を分かってないのか? ピアノの前で並ぶだけと思っているのかもしれない。
低能幼女はアホだなぁ。
「そう。じゃあ次のレッスンで先生にお話しておこうか」
「うん!」
りおが俺を高く掲げて、くるくると回る。
「待っててね、アイアイ。りおがんばってアイアイの曲を弾くから! えへ。楽しみ!」
……。
……まあ、アレだな。人類について偵察するというのは、様々なケースを観察するということでもある。うん。
そしてそのためには、りおが弾く俺のテーマ曲を聴く必要があるのだ。
人類殲滅はもうちょっと先延ばしになるが、仕方ない。しっかり偵察しないと失敗するかもしれないからな。
それと……。りおが俺のKV.330とやらを弾けるようになるまでは、ちょぉっと母船との通信を断っておくか。引き上げ命令が来たら困るから。
い、一応断っておくが、これはりおに絆されたんじゃないぞっ!
あくまで偵察の一環だからなっ!
りおの成長を見守る……あー、あー、観察するだけの話だ。
だからりお。ちょっと、例のアレ。ちゅっというやつを俺にやってくれないか?
カクヨム企画 KAC20232 参加作品
お題・ぬいぐるみ




