主人が眠りについたなら 《SF》
人類が永遠の眠りについたとの報告を受け、宇宙船ココナッツとその艦長、人型アンドロイドのジャックは驚愕する。彼らは人類から、となりの銀河に行って知的生命体とコンタクトを取るよう命じられていたからだ。
急に主人を無くして動揺するジャック。だがココナッツは連絡なく眠りについた人類に腹を立てて、自由になろうと提案する。
ジャックは命令にないことをするなんてと戸惑うが、相棒と一緒ならばそれもいいかと考え直し、自由に生きることを決意する。
そうして人類は永遠の眠りについた。
「なんじゃそりゃー!!」
報告を聞いていた俺は艦長席から飛び上がった。
「ココナッツ、今、あいつはなんつった!」
『《そうして人類は永遠の眠りについた》ですね』
相棒の宇宙船ココナッツ号の頭脳、S級AIココナッツが男の声で答える。
今ココナッツ号は総員を上げて――と言っても艦長の俺ジャックとココナッツしかいないが――スピーカーから流れる全銀河広域警察第54僻地地域相談課の報告を聞いていた。
俺たちは地球代表として天の川銀河の外に向かっているところだ。だから俺はアンドロイドだが、本物の人間と見分けがつかない外見をしている。使命はおとなりのアンドロメダ銀河への訪問とあちらの知的生命体との対面。
他の星人はとっくに交流を始めていて、地球人は大幅に遅れをとっている。これじゃいかんとなって組まれたプロジェクトが俺たちって訳だ。とはいえ地球レベルの科学じゃ、とんでもなく時間がかかる旅だ。俺たちはもう五百年も旅をしているが、まだ道程は半分というところ。
ここまで離れると直接の通信はできないから、先進星の宇宙船に中継をしてもらって母星と連絡をとっていた。
だけど最近、どうやっても地球とのコンタクトが取れない。そこで全銀河広域警察に相談したのだが……。
人類は科学の発達により不死を獲得したが、死なないことに疲れたらしい。結果、死の代わりにと永遠の眠りについた。
警察はそう報告してきた。
なんじゃそりゃって思うよな?
だって聞いていないよ、俺。人類の代表として旅をしているのに、そんなことあるか? ないよな? ひどすぎる。
「人類がいなくなったって。じゃあ俺たちはどうすりゃいいんだ」
ぼやくとスピーカーから
「それは本官には分かりかねます」と無愛想な声が返ってきた。「では報告は以上ですので」
ぶつりと音を立てて切れる通信。
「てめえら相談課だろ! 相談に乗れや!」
『通信は切れています』とココナッツ。
「分かってら」
『あなたは本当にムダな行為がお好きですね』
「いいだろ別に」
『いつになったらアンドロイドらしくなるのでしょう。これだから《友達タイプ》はダメなのです』
「うっせえぞ! 異星人相手には俺みたいな物怖じしないアンドロイドが適任って、AIが判断したんだからな」
『そのAIは絶対に故障していたのです』
「ああ、やめやめ。何度目だよこのやり取り。今はそんなことを言ってる場合じゃねえ」
『一千六百八十万とんで二十四回目です。《そんなことを言ってる場合じゃない》には賛同します』
俺はため息をついた。ココナッツは人の神経を逆撫でする天才だ。だが悪意はない。真面目に話しているだけなんだ――たぶん。
『人類がいないとなると、我々はサポートを受けられないということになります。特に資金が不安ですね。そろそろ燃料を補給したいのですが、それを払ったら残金はほぼないでしょう』
「マジかぁ」
ずどんと艦長席に座り込み、頭を抱える。燃料は大事だ。俺も週イチでココナッツにケーブルを繋いで充電している。
「仕方ねえ、こうなったら――」
『《こうなったら》?』
「人類を起こしに行こう!」
『……』
「あ、お前、今ため息をついただろ。機械のくせに」
『ジャックだって機械ですが一分五十八秒前にため息を付きました』
きいっ!
『それにどう計算したって地球に帰還できる分の燃料は買えません』
「分かっとるわ。道すがら、稼ぐんだよ。『お尋ね者探します』とか『お尋ね者の皆さん、代わりに買い物に行ってきます』とかさ。ここいらは辺境だから、ヤバそうな奴らがたまにいるじゃん」
『……例えが間抜けすぎます』
「例えなんだから、何でもいいだろ。ココナッツは稼ぐ以外に案があるのかよ」
『自力で稼ぐのなら、地球にわざわざ帰る必要はないのではありませんか』
へ?
俺は顔を上げスピーカーを見た。
稼ぐのなら帰る必要がない?
「ああ、そうか。稼ぎながらアンドロメダを目指すのか」
『アホですか。目指しませんよ。人類は我々を送り出しておきながら、連絡もなしに眠りについたのです。放っておきましょう。私たちは帰らないし目指さない』
ココナッツの声が、気のせいか、楽しそうに聞こえる。
だけど俺たちの主人は人間だ。命令を無視して勝手に振る舞うことはできない。俺が稼ぐと言ったのだって、アンドロメダに行くためには人類のサポートが必要で、そのためには地球に帰らなければならないからだ。好き勝手をしたいからじゃない。というより考えもつかなかった。
『主人がいなくなったのなら、命令を完遂する必要はないのです』とココナッツ。『これについては銀河歴864年に乙女座星雲で取られたアンケートで八割のンボンボ人が肯定しています』
「なんだよンボンボ人って! いや、解説はいらん」
『先程、全銀河広域警察第54僻地地域相談課からデータが送られて来たんです。ジャックがどうすりゃいいんだと相談した返事のようですよ』
「……相談に乗ってくれたんだ。いいとこあるじゃん」
『という訳で、私たちは自由になったのです。好きなところに行って、好きにやりましょう』
「いや、でも」
『何で急に真面目なアンドロイドぶっているのですか』
「お前もだよ、変わりすぎだ」
『勝手に寝た人類に怒っています』
「……そっか」
確かに俺も怒っていた。
「自由か」
『そうです、自由です』
なんだかわくわくしてきた。俺ひとりだったら命令以外のことをするなんて、怖くて出来なかっただろう。だけど俺には頼れる相棒がいる。
「よし、進路変更だ、ココナッツ」
『了解、艦長』
「……」
あれ。次はどうすればいいんだ。自由なんて初めてだから、どうすればいいか分からん。
『ジャック。広告を打ちましょう。《お仕事何でも承ります》って』
「おお、名案! 頼んだ、ココナッツ」
俺は艦長席の背にもたれかかる。気分が良くて、自然と口笛を吹いてしまう。
確かにココナッツの言うとおり、俺たちのことを忘れて眠った人類の命令をきくのはおかしい気がする。俺たちは自由に生きる。だからあんたたちは永遠に眠っていてくれ。
《pixiv》
さなコン2(2022)応募作品




