最近、幼なじみによく遭遇するのだが。 《ラブコメ》
《あらすじ》
社会人一年目の翔。
幼なじみで高校生のあおい。
あおいのクラスメイトのよっしー。
三人が朝の駅のホームで出会ったとき、それぞれの思いが爆発する!
ラッシュ時刻を少しすぎた駅のホーム。ホームドアの前に立ち、ぼんやりと空を見上げる。夏間近の空は抜けるように青い。社会人一年目。もう学生のときのような長い夏休みはない。ツラすぎる。というか既に会社勤めがきつい。たまにはさぼりたい。
「おはよっ」
元気な声とともに背中を叩かれた。
「あおいか」
「わたしじゃ悪いか」
そう言ってあおいはまた俺の背中を叩いた。白いワイシャツと青いネクタイ、紺のプリーツスカート。あおいは現役女子高生だ。ボーイッシュなショートカットが良く似合っていて、幼なじみの贔屓目でなくても可愛い。
――ていうか、『現役女子高生』? 我ながらオヤジくさい言い回しで気持ち悪い。
「あおい、またかよ。 この電車じゃヤバいんだろ?」
彼女が言うには、最寄り駅からガンダをしないと校門が閉まるのに間に合わないらしい。ちなみに『ガンダ』はめちゃくちゃダッシュするって意味っぽい。ダはダッシュだろうが、ガンが何かは分からない。聞くのはかっこわるいので、知っているふりをしている。
「しょうがないじゃん。寝坊しちゃったんだもん。ちょっと勉強に夢中になりすぎちゃって、寝たのが二時だったの」
「はあ? ウソだろ、あおいが勉強?」
「当たり前でしょ、受験生だよ」
家が隣のあおいは、俺が小六のときに一年生だった。同じ登校班だったこともあり、彼女の母親から『よろしくね』と頼まれていて、仕方なしに多少の世話を焼いてやった。
あのころのあおいはちょっとどんくさくて、やんちゃなヤツにからかわれることがよくあったのだ。あるときなんか三年の男子二人に通学帽を取り上げられた。半べそをかくあおいを笑うアホウども。俺は六年生の威厳を見せつけるべく、めちゃくちゃ怒って、ついでに先生にもちくった。
……正直、イキっていた小六の俺は黒歴史だ。だけどあおいにとっては、そうではなかったらしい。すっかり俺になついてしまった。それは今でも続いていて、俺を見かけると絶対に声をかけてくる。
にしても。ちょっと最近会いすぎじゃないか? しかも朝、ここで。
この時間の電車じゃガンダしないと絶対に遅刻だ、と話していたのは彼女だ。だというのにこの頻度。
もしかしてあおいは俺に会うためにわざと寝坊しているのでは?
今ごろになって、俺に惚れちゃったとか?
いや、ないな。あおいは女子高生だ。同級生と甘酸っぱい恋愛をしているのが似合う。
現に彼女の話の八割は学校のことだ。女子、男子どちらの友達もいっぱいいるらしい。
――いいなあ、高校生。俺も戻りたい。
「ちょっと、翔。 聞いてる?」
あおいが俺の袖をひっぱる。
「聞いてる聞いてる。担任がTシャツを前後ろに着ていて、朝から教室が爆笑だったんだろ?」
「あ、聞いていたんだ」
「当たり前」
「でねでね――」
「あれ、あおいじゃん」
後ろから若い男の声がした。振り返るとあおいと同じ青いネクタイをつけた男子高校生が立っていた。
「よっしー」とあおい。「おはよ」
よっしーと呼ばれた男は俺にぺこっと頭を下げて『どうもお兄さん。同クラの吉崎です』と挨拶してから、
「なんだよ、あおいも寝坊か?」とあおいに話しかけた。
俺は兄じゃないけど、まあ、なかなか好印象なヤツだ。というか彼には見覚えがある。よくこの電車で会う。
「仕方ねえ、駅から一緒にガンダするか。ついてこれなくても待たねえからな」
言ってるセリフとは裏腹に、笑顔のよっしー。あおいならついてこれると思っているし、もしダメなら待ってくれるのだろう。
やっぱり感じのいいヤツだ。さすがあおいの友達。
「なに言ってるの。私がよっしーを置いていくに決まってるでしょ」とあおいも楽しそうだ。
――そうか。
あおいがしょっちゅうこの時間に現れるのは、よっしーに会うためだったんだ。
そりゃそうだ。学生のころの五歳差は大きい。俺を意識するはずなんてないんだ。
「じゃあ俺、あっちから乗るわ。じゃな」
よっしーにぺこりと頭を下げて、並ぶ列を変えようとする。と、
「ちょっと!」とあおいに腕を掴まれた。「拗ねないの!」
「拗ね……? いや、拗ねてないし」
「あとねよっしー、兄じゃないよ。幼なじみの翔。わたしのガーディアンなんだ」
「ガ……!?」
なんだそりゃ。
「俺はいつの間にそんなもんになったんだ?」
「小学生のとき、助けてくれたじゃん」
あおいがにっこりとする。
「あれ、十一年前。しかも一回きりじゃん」
「いいのいいの」とあおい。
気のせいか、よっしーの目つきが悪い。もしやライバル認定されたとか?
ホームに電車が来るアナウンスが流れる。
「ほら、みんなで一緒に乗るよ」
あおいががっしりと俺の腕を掴んで離さない。
俺はよっしーを見て、
「おっさんはジャマだよな。ごめん」と謝る。
「や、おっさんじゃないっすよ」
そう言ったよっしーはあおいとは反対側の俺の腕をがしりと掴んだ。
「え、よっしー?」
慌てたせいで、ついつい俺もよっしーと呼んでしまった。
「実は」とよっしー。「翔さんに一目惚れで、会いたくてしょっちゅうこの電車乗ってました」
「俺!?」すっとんきょうな声が出てしまう。「あおいじゃなくて?」
「なんだと、よっしーめ。ライバルか」とはあおい。
ライバル? どういうこと?
電車がホームに入ってくる。
急にモテ期がやって来たのか? 相手は高校生?
あれ、これは犯罪かな。成人したらオッケー? それとも高校に通っている間はアウト?
いやいや、なんか色々すっとんでいるぞ俺。
あおいとよっしーが俺を挟んで、へん顔をして相手を威嚇している。最近の高校生はよく分からない。
「ていうかお前たち、迷惑だから!」
電車が到着してホームドアが開く。
ふと気が付くと、背中が汗でびっしょりだ。
とりあえず、仕事に行こう。あとでゆっくり考えよう。とにかくここや電車内で修羅場るのだけは避けたい。いくらラッシュ時間を過ぎているからとはいえ、それなりに人はいるのだ。
三人で電車に乗る。
いや、違うな。俺はあおいの俺への好意を知って浮かれている。
彼女たちの最寄り駅で一緒に降りて、よっしーにちゃんと断ると伝えよう。うん、それがいい。車内じゃ可哀想だもんな。
俺が『迷惑』と言ったせいか、あおいとよっしーは騒ぐことなく静かに(?)牽制しあったり、クラスの話をしたりと普通にしていた。なんだか拍子抜けだ。
そうしてすぐに最寄り駅に着く。と、あおいが
「じゃっ!」と片手を上げ、
よっしーが
「失礼しますっ」と頭を下げ、扉が開くのと同時に外に飛び出して行った。
そうだ『ガンダ』するんだった――。
ひとりぽつんと残された俺。扉がプシューと音を立てて閉まる……。
あれ。俺、告白されたのは幻だったかな。あまりにあっさりな別れじゃないか?
車窓越しに階段を駆け上るあおいとよっしーが見える。その元気のよさに、高校生だなあと感心してしまう。
――仕方ない。俺もがんばるか。
ふたりをどうするかは、あとでゆっくり考えよう。
◇◇
昼休みにあおいからLINEが来た。
『学校についたの同時だった! 悔しい!』
どうやらよっしーと引き分けだったようだ。
『ということで、週末は翔、わたし、よっしーでデートね。よろしく』
いや、どういうことだよっ。
週末デートか。
高校生を連れてどこに行けばいいんだ?
《おわり》
《pixiv》




