07.報復と好奇心
エノンたちが食事を終え店を出たのはあれからしばらく経った後だった。流石にこの時間になると都会のマガリでも外を出歩く人は減ってくる。明かりを消し暗くなった家も増え、違う町を訪れたような雰囲気になる。
「そろそろ帰らないと父を心配させてしまうかもしれません……」
リアナは不安そうにつぶやく。
「確かに、連絡は入れてますけど、これ以上遅くなると心配をかけてしまいますね。私、送り届けてきますね」
そう言いハルファスがリアナの手を取った時だった。
「待ってハルファス」
エノンがハルファスを制止した。その訳はすぐに分かった。気が付けばエノンたちは、怪しい男たちに取り囲まれていた。
生物は無意識の間に微弱な魔力を体から放出させている。自然回復する魔力の方が僅かに多いため戦闘を行う上では問題は無いが、隠密行動を行う上では厄介な性質だ。エノンのような魔力の扱いに長ける魔術師なら体から放出される魔力を頼りに簡単に位置を察知されてしまう。
だが、魔力操作に長ける者が特別な訓練を行えば、この魔力放出を抑え魔術師に対しても隠密行動を行うことが可能になる。実際にエノンも店を出るまでこの男たちの存在に気づくことができなかった。
しかしそれが可能なのは才能ある限られた人物だけだ。だがエノンたちの前に現れた男たちは、全員がそれをやっていた。
「なっ……何なのよアンタたち!? まさかポラフォティアじゃないでしょうね」
ノエルが咄嗟に旋風鬼を手に取る。
「ノエル。こいつらは昼間の奴らとはレベルが違う。油断するとやられる」
「この僅かな瞬間でそれを見抜くとは、流石だな」
その声が響き渡ると、男たちは突然道を開けた。そこから現れたのは一人の男、ポラフォティアの首領、ジエン・ヒケンジンだった。
ジエンは不敵な笑みを浮かべながらエノンを指差すとこういった。
「お前は彼方なるもの……で間違いないな?」
その言葉を聞いてノエルとリアナは驚きの表情を浮かべる。
「彼方なるものですって!?」
「あの伝説の……?」
明らかにノエルとリアナのエノンを見る目が変わった。その眼差しを嫌がるかのようにエノン言う。
「……その呼び名、好きじゃないんだ。俺はエノン・ストマカルだ」
「そうか。ではエノン、俺の名はジエン・ヒケンジン。ポラフォティアの首領をやっている。昼間は俺の弟子たちが、大分世話になったそうじゃないか。今回はそのお礼に来たってわけだ」
「報復……ってところか? でもそれは仇敵を前にしてやっていい表情じゃないな」
エノンが言った通りだった。ジエンは仇敵を前にした時とは思えないほどの満面の笑みを浮かべていた。その表情からは喜びの感情以外を読み取ることは出来ない。
「俺と会った時、俺がポラフォティアを襲撃したかではなく、俺が彼方なるものかと聞いてきた。仇敵か見定めるなら普通、前者の質問をするはずだ。それに同じくポラフォティアを襲撃したノエルやハルファスには目もくれず、隠密を見破った俺に話しかけた。魔術師が目当てだってバレバレだ。報復なんて弟子の前で面子を保つための建前なんだろ? お前からは、弟子傷つけられた怒りより、自身の好奇心を満たしたいという欲求しか伝わってこないんだよ」
エノンの予想はだいたい的中していた。心中を見破られたジエンは吹っ切れたように笑いだす。最早取り繕う気もないようだ。
「何もかもお見通しか……いや流石だ。だがエノン、お前は一つだけ間違いをしている」
そういうとジエンはすさまじい勢いとスピードでエノンに切りかかってきた。
エノンはすんでのところで魔力による障壁を展開し、その斬撃を防いだ。だがあまりの衝撃に大きな金属音が鳴り響き、障壁の魔力も揺れ動いていた。
ジエンは一瞬も力を抜かないまま、まるでエノンがこの斬撃を受け止めることを確信していたかのように続けて話す。
「この隊のメンバーは最初から俺がお前を目的にしていたことを知っていたよ……この隊は俺がお前を倒すために編成したんだからな……!」
ジエンがエノンに切りかかっている間にいつの間にかポラフォティアのメンバーの一部は家屋の屋根に上りエノンに対し矢を構えていた。地上にいた剣士は道は全て塞いでおり、全員隙の無い構えでエノンたちに刃を向けている。
逃げ場は……無い!
Q.トリムとマニルはどこ?
A.別のとこ捜索してるよ。