05.マガリと海竜
「……俺、夢を見てるのかな」
ポラフォティアとの戦闘を終えたエノンたちは、マガリ出身のリアナの案内があったこともあって夜までにマガリへ到着することができた。
拘束したポラフォティアのメンバーを衛兵に突き出した後、ノエルが助けてもらった礼としてマガリの飲食店に三人を招待したのだが……。
「なんなんだこの豪勢な食事は!?」
エノンたちの前に運ばれてきた料理はどれも値段が一桁多く、種類も豊富だ。香りがよく見栄えもいいので、エノンたちの座る席だけまるで貴族の会食のような雰囲気に包まれている。その異世界へ迷い込んだような雰囲気に周りからも注目を集める。
「エノン! このお肉柔らかくてとても美味しいですよ!」
「あ!? ずるい! 俺も!」
気づけばハルファスは既に食事を楽しんでいる。その様子を見て慌ててエノンも料理に齧り付く。
「私は助けてもらった側だと思うんですけど……本当にご馳走になっていいんですか? こんな豪華な料理……」
「なーに言ってんのよ。マガリ出身の貴方がいなかったら今頃マガリに着いていなかったわ。ポラフォティアのメンバーは案内する気なさそうだったし、そこの二人も道に迷ってたみたいだし」
「……まあ、そうだね」
実際幸運だった。マガリはエルフ主権国家『ルフトッカ』に隣接していることもありハーフエルフが多いのだが、世界的に見ればハーフエルフは希少な種族だ。奴隷として高値で取引されるため裏の世界ではハーフエルフの奴隷が取引されている所を時々見かけることがある。リアナは売買目的でポラフォティアのメンバーに捕らえられていたのだ。
ノエルが別の森で迷っていたら四人の運命は全く別のものになっていたのかもしれない。
「さて、落ち着いてきたところで、改めて自己紹介と行きましょう! 私はノエル・ウキルフ。ルフトッカのちょっとした貴族の生まれでつい最近まで箱入りだったんだけど、退屈で家を飛び出してきたの。今は最強の戦士を目指して武者修行をしてるの」
ノエルはどうやら貴族の生まれらしい。ならこれだけの料理が用意できる持ち合わせがあるのも納得だ。
「俺はエノン・ストマカルだ」
「私はハルファスです。訳あってエノンと一緒に世界中を旅して回ってます。今回はマガリに用事があってきたんです」
「えっと、リアナ・ショウンです。マガリで商人をしてる父と暮らしています」
「よろしく。なるほどね……ということは三人はしばらくマガリなのね」
「ノエルはどうするつもりなんだ?」
「なるべく早めに別大陸へ移るつもり。ここに来るまでに何人もお父様からの追っ手に出くわしかけてたし、マガリもいつまで安全かわからないしね」
ノエルの返答を聞いて、三人は顔を見合わせた。その表情からは困惑の感情を読み取れる。三人の様子を見てノエルは首を傾げた。
「あれ? 私、何かおかしなこと言った?」
「あの……ノエルさん? この時期はマガリは別大陸への船は出しませんよ?」
ハルファスの一言は、ノエルの海外逃亡プランを一瞬で崩壊した。あまりの予想外の一言にノエルの顔色が悪くなる。
「え……船が出ない……いったいどういうことよ……?」
「……箱入りとは言ってたけど、まさかそこまで世間知らずとは思わなかったよ。この時期になると出るんだよ。海竜『リヴァイアサン』が」
「かい……なんて?」
「海竜リヴァイアサン。南大陸近辺の海域に生息する超大型魔獣のことですよ。リヴァイアサンは南大陸を一年かけて一周する習性を持っていて、この時期になると海流の緩やかなマガリ周辺の海域で休息するんです。その間、その近辺には危険なので船を出せないんですが……」
「その海域は別大陸へ向かう際の航路としても使われているんですよね? 今だと、次に別大陸への船が出るのは早くてかい一か月後になると思います」
「で……でも、たかが魔獣でしょ? どうにかして倒せば……」
「リヴァイアサンは出現が確認されてから5000年間、一度として撃退された報告は上がってない」
「なっ……!?」
エノンがノエルに突きつけたのは、非常な現実だった。
作中の季節は夏くらいなんじゃないかな。