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孤児の果てなき英雄譚  作者: ふたおん
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04.彼方なるもの

 夜、元々日の差し込みずらい生い茂った雑木林だが、日が完全に落ちると一層暗くなり足元さえろくに見えなくなる。

 本来であれば人っ子一人すら寄り付かない暗黒の世界だが、今この雑木林の中は不自然なまでに大勢の人間の足音で満たされている。


「そっ……そろそろです……」


 この集団の先頭を歩く男に対し、集団の下っ端と思われる男が告げる。


「……本当に見たんだろうな『彼方なるもの』を」


「ええ! 化け物じみた魔力量に卓越した魔力操作技術、連れには赤髪の魔族の剣士、間違いなくジエン様の探し求めていたチーム『オーファン』の『彼方なるもの』に違いありません!」


 ジエンと呼ばれた男はその言葉を聞いて少し口角を上げた。


「だと良いんだがな……」


 そっけない返事を返すジエンだったが、内心では期待していた。

 目的地に近づくたびに足取りは早くなり、肩に力がこもり、目には強い闘争心が宿る。


「ジエン様、上機嫌だな」


 ジエンの少し後ろを歩いていた屈強な男が呟く。それに対しその隣を歩いていた長身の男が返事をする。


「当然だ。ずっと探していた人物がすぐ近くにいるかもしれないんだからな」


「オーファン……魔王討伐に最も近いと言われていた最強の四人の戦士、彼らの噂は俺でも知っている。だが彼らの中でもなぜジエン様はあそこまで彼方なるものに固執する?」


「知らないのか? 確かにオーファンは最強と呼ばれた四人の戦士から構成されていた。だがそのうちの一人は魔王との戦いで負傷し戦士を引退、それと時を同じくしてもう一人もオーファンを抜け、オーファンに所属しているのは彼方なるものとその連れの魔族のみ。魔族の方は情報が少なく本当に強いのかという疑念の声もある。今一番ジエン様の関心を引くのは彼方なるものということだ」


「なるほどな……ん? あれは……!?」


 ジエンたちの集団はある場所に到着すると一斉にその歩みを止めそこに広がる光景を見て驚いた。

 その場所は、昼間エノンたちが激しい戦闘を行った広場だった。しかしそこにポラフォティアの洞窟は無い。洞窟のあった場所は崩れ、地面は抉れ、辺りの木々はなぎ倒されていた。


「彼方なるものと偶然居合わせたエルフが暴れまわってこの有様です……隠れ家は破壊され、マガリから攫ったハーフエルフも逃がし、仲間は俺以外全員拘束され……本当に、何とお詫び申し上げればよいか……」


「いや……いい……。寧ろよくやってくれた」


 集団のほとんどが凄まじい戦闘跡の様子に驚き萎縮する中、ジエンだけはこの光景に目を輝かせていた。


「場所によって地面の抉れ方が違う。違う種類の魔術によって抉られたんだろう。ざっと……二十種類ってところか、器用なものだ。一つ一つの威力も高い、並みの魔術師ならこの威力は三発程度が限度だろうな……。フフフ……間違いない、これは彼方なるものの仕業だ!」


 ジエンは仲間の方へ振り向いた。


「トリム、マニル。これよりポラフォティアは彼方なるものを追う。まずはマガリの捜索からだ」


「はっ」


 先ほどまで話していた二人の男はジエンに呼ばれると、後ろの集団を率いマガリへ向かい歩き始める。

 最初はその後を追っていたジエンだったが、一度立ちどまり広場の方を振り向くと、なにかに悩むような素振りを見せた。


「なぎ倒された木々、崩れて埋まった隠れ家、明らかに彼方なるものとは別の人物の戦いの後がある。これをやったのは……偶然居合わせたとかいうエルフか? 戦いの後を見るに風属性の刀使い……技の練度も高い。だが記憶にない……風属性の刀使いでこれ程の実力のあるエルフを俺は知らない……」


 それは戦いの跡から彼方なるものの存在を確信できるだけの観察眼と戦闘知識をもつジエンだからこそ、気づくことができた違和感だった。


「……それも彼方なるものと合わせて探せばいいか。ようやく彼方なるものと相見えることができるんだ。楽しみは多い方がいい」


 そう言い残すとジエンはその場を後にした。

屈強がトリム、長身がマニル。

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