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孤児の果てなき英雄譚  作者: ふたおん
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02.一方その頃

 エノンとハルファスがマガリを目指して雑木林を進むのと時を同じくして、一人のエルフの少女もマガリを目指して歩みを進めていた。しかしその足取りはエノンたち以上に重たかった。

 エルフの少女、ノエル・ウキルフはこのあたりの地理に疎いのか、もう10日間ほどはこの雑木林をさまよっている。手持ちの食糧は既に底を尽き、たまたま遭遇した獣を蹴散らしては飢えを凌ぐのも精神的に限界を迎えていた。

 心強い愛刀「旋風鬼(せんぷうき)」も、こうなってしまえば杖代わりにするにも不便なお荷物だ。


 今立ち止まればもう動けなくなる。ノエルは本能でその事実に勘付いていたが、徐々に歩幅は狭まり、体の力は抜け、平衡感覚すら失われ……やがて倒れその場から動けなくなってしまう。


「ここまでか……いや、寧ろここまでもったのが奇跡ね」


 本来ノエルは勝気で逆境に強い性格なのだが、ここまで追い込まれると流石のノエルも諦観してしまう。どうにかもがいて起き上がろうという気持ちにもならない、このまま意識を手放してしまえば楽に死ねるだろうとすら考えていた。

 そんな時だった。


「うぅ……やめて……誰か助けて……」


 どこからか少女が助けを求める声が聞こえてきた。だが本当に聞こえたのか? こんな人里離れた雑木林に? 弱り切っていたノエルは幻聴を疑った。

 ノエルはゆっくりと首だけを起こし、声のする方向に耳を向け耳を澄ませた。


「助けて……助けて…………誰か……!」


 今度ははっきりと聞こえた。その声は小さく弱弱しい。確実にノエルより幼い少女が何かしらの危機に直面している。


「お父様にも、お母さまにも、アルドにも沢山迷惑を掛けたし……最後に何か善行しろってことなの? はぁ……」


 ノエルはふらつきながらもなんとか立ち上がった。ほとんど火事場の馬鹿力だ、数分もてば良いほうだろう。正直このまま楽になりたいという気持ちも大きい。だが助けを求める人を無視して見捨てられるほど非情にもなり切れなかった。


 立ち上がってしばらく息を整えるとノエルは声のする方向へ走った。

 すると少し開けた広場に出た。ここだけは木が密集しておらず、直に日が差し込んでいる。

 広場には明らかに人工的に掘られた洞窟がある。声はこの中から聞こえた。


「こんな場所がすぐそばに……気づかなかった」


 疲労によって感覚が鈍っていたのだろう。ノエルはすぐそばにあった広場の存在にすら気づくことができなかった。となれば、この洞窟に何が潜んでいるのかも全く予想ができない。

 ノエルは慎重に洞窟の中を覗き込んだ。


 洞穴の中にいたのは数名のガラの悪い男と一人のハーフエルフの少女だった。ハーフエルフの少女、リアナ・ショウンは縄で縛られ拘束されている。必死に叫んで助けを求めているが、男たちはこんな辺境に人が来ると思っていないのか、余裕そうな表情でそのままにしている。


「いくら叫んでも無駄だぜお嬢ちゃん。道が整備されてない上に獣も多いこんな場所を通る奴はいない。何よりこのあたりには俺たちポラフォティアがいる。誰も怖がって近づきゃしねえよ……お嬢ちゃんみたいな無知なガキ以外はな!」


 ポラフォティア、この大陸を中心に活動している大規模な犯罪者集団だ。メンバーは全員血気盛んな武闘派で、幹部クラスにもなれば大陸最高峰の戦士にすら匹敵する実力を備えている恐ろしい集団だ。

 ……だが、世間知らずなノエルはそんなこと知る由もない。ノエルにとってこのやりとりは、いかにも悪そうなやつがいかにも被害者らしい少女を虐めている以上の意味を持たなかった。


 ノエルは最もリアナに近い男を標的に定め飛び出す。そして鞘から旋風鬼を引き抜き男に叩きつけた。


「な……ぐはぁ!!」


 男は成す術もなく倒れる。男の仲間は突然の出来事に茫然とするしかなかった。

 ノエルは今度はリアナに対し話しかけていた男に対し旋風鬼を振り下ろす。男はそれをギリギリのところで受け止めた。

 速度も力も万全では無い状態ではこれも仕方の無いことだ。


「ちっ……疲れてんだから大人しく切られてなさいよ」


「そんな訳にはいくか! 突然何なんだお前は!? 俺たちがポラフォティアと知っての行動だろうな!?」


「さっき聞いたわよ。小さい女の子を寄ってたかって虐めるチンピラを、このあたりじゃポラフォティアっていうんでしょ?」


「てめぇ……!」


 男はノエルに蹴りを仕掛けるが……ノエルの煽りで頭に血が上ったせいか、動きが単調だ。限界が近いノエルですら回避に手こずらなかった。


「挑発に乗るな! 何故かわからんがこいつは既に限界が近い! 距離をとって自滅するのを待つぞ!」


 別の男がなだめる。


「そうはいかないわよ。アンタら全員ぶっ潰して女の子も助けて私は得を積んでハッピーエンド! それ以外の結末はいらないわ!」


 ノエルとポラフォティアの闘争は熾烈を極めた。それもあまりの衝撃に地響きが発生するほどに。


 ……入眠を妨げられイライラ中のエノンとハルファスが到着するまで、あと数分。

この世界には北、南、東、西、中央の5つの大陸があります。

エノンたちが今いるのは南大陸です。

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