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孤児の果てなき英雄譚  作者: ふたおん
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01.何気ない?日常から

 沢山の木々が無秩序に立ち並ぶ雑木林の中心。枝や葉に阻まれ陽光すらまともに拝むことも叶わないほど木々が密集するこの場所は、本来なら人間が殆ど立ち入らない秘境だ。

 しかしそんな場所を珍しく二人の冒険者が訪れている……いや、通り抜けようとしていた。


「いつまでこの景色が続くのでしょうね……」


 冒険者の一人、赤髪の魔族の女性、ハルファスが若干の疲労感を感じさせる様子で呟いた。


「わからない……」


 ハルファスの発言に返事をしたのは、もう一人の冒険者、人間の少年のエノン・ストマカルだ。こちらはハルファス以上に強い疲労感を露わにしている。


「エノンが買ってきた地図は全くあてになりませんでしたね。これなら街道に沿って進むべきでした」


「ごめんね……」


 申し訳なさそうな表情でエノンが返事をする。エノンは普段からあまり口数が多いほうではないが、疲労のためか今日は普段以上に口数が少ない。そんなエノンの様子を察してか、ハルファスもこれ以上、エノンを責めるようなことは言わなかった。


 この二人の冒険、実は毎回このような様子なのだ。この二人はとある目的のために世界中を旅して回っている。訪れる場所の殆どはかつて訪れたことのない未知の世界だ。そのため二人はいつも、現地で安い地図を調達しては無理に近道を探して、こうして遭難しかけている。どうやら今回はエノンがやらかしたようだ。


「この様子では焦っても仕方がなさそうですね。少し休憩しますか?」


「ん……賛成……朝食の残りのハムサンドを食べたいよ……」


 エノンの疲れ果てた様子を見かねたハルファスがエノンに一時の休憩を提案する。その提案を聞いたエノンは糸が切れたようにガクッとその場に座り込む。

 エノンは魔術師だ。魔物と遭遇した際の戦闘では後方支援を担当しており、剣士のハルファスと比べると、その体力はとても低い。

 エノンの過剰な消耗っぷりを見ていて面白くなったのか、ハルファスは少し機嫌が直り、クスクスと笑いながらエノンに歩み寄る。


「大分疲れていますね。何なら私がおんぶして運んであげてもいいですよ? ここなら人に見られる心配もありませんし」


「そうかもだけど……俺が恥ずかしい。マガリで合流するアイツらに顔が赤いのを誤魔化せる自信が無いよ」


 エノンはハルファスの冗談を一々真に受けて想像して反応を示している。

 エノンは表情の変化に乏しいが、代わりに態度で感情が読み取りやすいタイプだ。それを面白がられてか、よくハルファスにおもちゃにされている。


 エノンとハルファスはしばらくその場で、昼食を楽しんだ。通り道としては最悪な雑木林だが、こうして腰を落ち着いてみると自然が豊かで良い雰囲気だ。エノンたちは次の目的地である港町のマガリに知人を待たせているのだが……あまりの心地よさにそれすら忘れそうになっていた。


「あ……まずい……寝そう……」


「私も……」


 昼食をとって腹が膨れたのも相まって、凄まじい睡魔が二人を襲う。「どうせ今日中には到着しないさ。ずっと歩き詰めだったし少しくらい仮眠を取ったって怒られないさ」二人の心の中に潜む悪魔がそう囁いていた。

 睡魔へ抗うのを諦めた二人は、いざ夢の世界へと旅立った。その時だった。


 突然発生した大きな地響きが二人の意識を現実へと引き戻す。天から賜った翼を前触れなく没収されたような気分だ。


「向こうからか……」


「そうですね」


 あまりに理不尽な出来事に二人は苛立ちを隠しきれない様子だった。

 近くで鉱石の採掘でも行っているのだろうか。なんにせよこの地響きの正体を突き止めないことには安心して再び眠りにつくことはできない。

 エノンとハルファスは体を起こし地響きの震源と思われる場所へと向かうことにした。疲労感と睡魔は……怒りで忘れた。

この世界にはハムサンドがあります。

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