表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/57

出撃:寅(とら)の場合


「はん、このオレを見習うといいぞ!」


 自信満々な寅を卯はただ見上げた。 この溢れんばかりの自身は何処から来るのだろう。 卯はその輝きの在りかがとても気になった。


「何だ? このオレに見惚れているのか?」


ふふん、と胸を張りポーズを決めると


「このオレの勇姿を刮目しろよ?」


寅は黄金に輝く鍵を魅せるように出し、外に出るためのゲートを開いた。



×



 そこは、朝焼けの世界だった。


 薄明るい空にはまだ星の瞬きが残っていて、住人達はまだ活発に活動を始めていないようだ。


「む、早く来過ぎてしまったな」


腕を組み少し寅は唸った。 が、


「『直前に来る』、『遅刻する』よりは十分に格好良いから良し!」


そう自信たっぷりに笑った。


「下調べや仕込みなど、入念に準備が出来て更に格好良く出撃出来るな」


 言うなり下位戦闘員(雑魚キャラ)を召喚し、見事に整列させると


「それじゃあ格好良く、静かに正確にしっかりと調査をしようじゃねえか」


再びポーズを決めて下準備を始めた。


「……」


 ハキハキとした喋り方やキレのある動きなど、エネルギーの有り余っている人物なのだと卯は思った。 ポーズを一々決めるのは、気合い入れみたいなものだろうか?



×



 寅は琥珀と白、黒の混ざった不思議な毛色をしている。 時折、色が全体的に白っぽくなる時もあるが、大抵はこの色だ。


 目元のみを隠す仮面のデザイン(ベネチアンマスク)は派手ではあるものの、寅自身の髪の色と金の瞳とよく似合っている。


 彼は、混ざっている()()は虎だけではなく豹も混ざっているらしく、時折姿が変化する。 そうすると、雰囲気の派手さが少し静まり、本人自身も大人しくなる。


 子が言うには、


虎モード(こっち)は派手で喧しくて豹モード(あっち)は細かくてうるさいから、どっちにしろ煩瑣いんだよねん」


と言う事らしい。 (あっち)の姿も見てみたいけど、うるさいのは嫌だな、と卯は『ねこ』を撫でると『ねこ』は暇そうに欠伸をした。



×



 朝焼けの世界は、時間が経つにつれて明るくなっていくものの、一向に太陽が昇る気配は無かった。


「此処の世界はまだ『穢れ』の量が多くて、十分に光が行き渡らねぇんだ」


 寅は日が今にも昇りそうな、空の中で最も明るい方向を見て


「ま、太陽が出ない間はオレが輝くがな!」


と不敵に笑う。


「太陽があってもオレは輝く!」


「……ふぅん」


 卯はてきとうに相槌を打った。 太陽があってもなくても、間違いなく寅は輝いている。


 調査などの下準備を終えたらしい下位戦闘員(取り巻き)達が帰って来た。 その成果を見て


「よし! よくやった! オマエのおかげでオレは更に格好良くなれるぞ!」


「ふん、良い事を知れた。 オマエ、お手柄だぞ!」


などと、寅は個々を褒めた。 褒められた下位戦闘員達は誇らしげであったり、嬉しそうであったり。


「(……(このひと)が下位戦闘員の中で人気な理由が分かった気がする)」


 言ったらうるさそうだったので、心の中で留めておいた。



×



「よし。 今回の依り代(標的)はオマエだ!」


 そう叫ぶと()()()()()ポーズを決め、寅は黒い物体を投げつける。


「格好良く、派手に暴れるが良い!」


 今回の依り代は、公園のベンチで缶コーヒーを持って項垂れているスーツ姿の男性だった。 「どうしよう、もうお終いだ」とか「これからどうしよう」だとかうじうじしていたので、恐らく仕事でとんでもないミスをやらかしたか、クビにでもなったのだろう(ご愁傷様です)。


「出たわね! 虎のバケモノ!」


 騒ぎを聞きつけた魔法少女(変身前)が寅の前に現れると、気の強そうな赤毛の女子が寅を指差し叫んだ。 因みに卯は透明化(ステルスモード)で姿を隠しているので、魔法少女達には見えていない。


「オレをそんなダサい呼び方で呼ぶな!」


 よく分からない箇所で憤慨する寅をよそに、


「変身、いくよ!」


「「「うん!」」」


魔法少女達(変身前)は、変身アイテムを構えた。



×



 寅の戦い方は、メインは怪物対魔法少女達(多数)で、その周囲で下位戦闘員達に援護をしてもらうやり方だった。 寅は召喚した怪物の様子を見守っている。


「今回は戦わないの?」


卯が問うと、


「まだ序盤だからな」


寅はそう返した。


「叙々に難易度を上げて、オレと直接対決(タイマン)できるまで強くする」


「ふぅん」


大体それって、想定以上に強くなって撤退する羽目になるやつだよなぁ、と頭の隅で思ったが、言わないことにした。


(キラキラ)も集まって、オレも楽しめて良いだろ」


 ある程度強くなるまで、直接手を下す気は無いらしい。



×



 怪物を浄化し終えて魔法少女達がいなくなると、寅は(キラキラ)を回収し始めた。


 浄化された依り代は、その後、かかって来た電話を受けて「本当ですか?!」「ありがとうございます!」と言っていたので、もしかすると、問題が解決したのかも知れない(よかったね)。


 魔法少女の粉(キラキラ)の量は瓶の半分程で、少し金色味を帯びていた。


魔法少女共(アイツら)依り代(標的)を上手く説得して運命を変えたお陰で、こんなに純度の高い粉が集まるとはな」


寅は満足そうに瓶を仕舞う。



×



「あー、寅っちはいつもそんな感じで純度の高いキラキラを集めてくるんだよねん」


子はそう言った。


「うじうじした対象(やつ)を見ると『美しくない』って言って依り代にするんだ。 その結果、依り代は浄化されて運命は良い方向に転がっていくんだよん」


「……そうなの」


 取り敢えず、寅は喋らなければかなり素晴らしい部類に入ることだけは理解できた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ