出撃:寅(とら)の場合
「はん、このオレを見習うといいぞ!」
自信満々な寅を卯はただ見上げた。 この溢れんばかりの自身は何処から来るのだろう。 卯はその輝きの在りかがとても気になった。
「何だ? このオレに見惚れているのか?」
ふふん、と胸を張りポーズを決めると
「このオレの勇姿を刮目しろよ?」
寅は黄金に輝く鍵を魅せるように出し、外に出るためのゲートを開いた。
×
そこは、朝焼けの世界だった。
薄明るい空にはまだ星の瞬きが残っていて、住人達はまだ活発に活動を始めていないようだ。
「む、早く来過ぎてしまったな」
腕を組み少し寅は唸った。 が、
「『直前に来る』、『遅刻する』よりは十分に格好良いから良し!」
そう自信たっぷりに笑った。
「下調べや仕込みなど、入念に準備が出来て更に格好良く出撃出来るな」
言うなり下位戦闘員を召喚し、見事に整列させると
「それじゃあ格好良く、静かに正確にしっかりと調査をしようじゃねえか」
再びポーズを決めて下準備を始めた。
「……」
ハキハキとした喋り方やキレのある動きなど、エネルギーの有り余っている人物なのだと卯は思った。 ポーズを一々決めるのは、気合い入れみたいなものだろうか?
×
寅は琥珀と白、黒の混ざった不思議な毛色をしている。 時折、色が全体的に白っぽくなる時もあるが、大抵はこの色だ。
目元のみを隠す仮面のデザインは派手ではあるものの、寅自身の髪の色と金の瞳とよく似合っている。
彼は、混ざっているものは虎だけではなく豹も混ざっているらしく、時折姿が変化する。 そうすると、雰囲気の派手さが少し静まり、本人自身も大人しくなる。
子が言うには、
「虎モードは派手で喧しくて豹モードは細かくてうるさいから、どっちにしろ煩瑣いんだよねん」
と言う事らしい。 豹の姿も見てみたいけど、うるさいのは嫌だな、と卯は『ねこ』を撫でると『ねこ』は暇そうに欠伸をした。
×
朝焼けの世界は、時間が経つにつれて明るくなっていくものの、一向に太陽が昇る気配は無かった。
「此処の世界はまだ『穢れ』の量が多くて、十分に光が行き渡らねぇんだ」
寅は日が今にも昇りそうな、空の中で最も明るい方向を見て
「ま、太陽が出ない間はオレが輝くがな!」
と不敵に笑う。
「太陽があってもオレは輝く!」
「……ふぅん」
卯はてきとうに相槌を打った。 太陽があってもなくても、間違いなく寅は輝いている。
調査などの下準備を終えたらしい下位戦闘員達が帰って来た。 その成果を見て
「よし! よくやった! オマエのおかげでオレは更に格好良くなれるぞ!」
「ふん、良い事を知れた。 オマエ、お手柄だぞ!」
などと、寅は個々を褒めた。 褒められた下位戦闘員達は誇らしげであったり、嬉しそうであったり。
「(……寅が下位戦闘員の中で人気な理由が分かった気がする)」
言ったらうるさそうだったので、心の中で留めておいた。
×
「よし。 今回の依り代はオマエだ!」
そう叫ぶとそれっぽくポーズを決め、寅は黒い物体を投げつける。
「格好良く、派手に暴れるが良い!」
今回の依り代は、公園のベンチで缶コーヒーを持って項垂れているスーツ姿の男性だった。 「どうしよう、もうお終いだ」とか「これからどうしよう」だとかうじうじしていたので、恐らく仕事でとんでもないミスをやらかしたか、クビにでもなったのだろう(ご愁傷様です)。
「出たわね! 虎のバケモノ!」
騒ぎを聞きつけた魔法少女(変身前)が寅の前に現れると、気の強そうな赤毛の女子が寅を指差し叫んだ。 因みに卯は透明化で姿を隠しているので、魔法少女達には見えていない。
「オレをそんなダサい呼び方で呼ぶな!」
よく分からない箇所で憤慨する寅をよそに、
「変身、いくよ!」
「「「うん!」」」
魔法少女達(変身前)は、変身アイテムを構えた。
×
寅の戦い方は、メインは怪物対魔法少女達で、その周囲で下位戦闘員達に援護をしてもらうやり方だった。 寅は召喚した怪物の様子を見守っている。
「今回は戦わないの?」
卯が問うと、
「まだ序盤だからな」
寅はそう返した。
「叙々に難易度を上げて、オレと直接対決できるまで強くする」
「ふぅん」
大体それって、想定以上に強くなって撤退する羽目になるやつだよなぁ、と頭の隅で思ったが、言わないことにした。
「粉も集まって、オレも楽しめて良いだろ」
ある程度強くなるまで、直接手を下す気は無いらしい。
×
怪物を浄化し終えて魔法少女達がいなくなると、寅は粉を回収し始めた。
浄化された依り代は、その後、かかって来た電話を受けて「本当ですか?!」「ありがとうございます!」と言っていたので、もしかすると、問題が解決したのかも知れない(よかったね)。
魔法少女の粉の量は瓶の半分程で、少し金色味を帯びていた。
「魔法少女共が依り代を上手く説得して運命を変えたお陰で、こんなに純度の高い粉が集まるとはな」
寅は満足そうに瓶を仕舞う。
×
「あー、寅っちはいつもそんな感じで純度の高いキラキラを集めてくるんだよねん」
子はそう言った。
「うじうじした対象を見ると『美しくない』って言って依り代にするんだ。 その結果、依り代は浄化されて運命は良い方向に転がっていくんだよん」
「……そうなの」
取り敢えず、寅は喋らなければかなり素晴らしい部類に入ることだけは理解できた。