強襲された、仮面の幹部。
本編、『強襲する量産品。』の別視点。若干の蛇足感は否めない。
酉は、卯と申を作り出した穴の中に放り込んで、2人を亥が居るであろう医療区画の一階まで送った。理由は二つ。
一つ目は、卯、申共に大分消耗していた事。亥が2名を確実に回復させてくれるからだ。
本来ならば、申はあの程度の包囲など平気だった筈だ。それなのに、申が消耗していたのには理由がある。それは、手下を至る箇所にばら撒いていた事、魔導機を複数使用した事等が理由である。(あともう一つ、前日に「どうやって酉を出し抜くか」等と(無駄な事を)考えて夜中中魔力を練って遊んでいた所為でもある。お陰で若干の睡眠不足と遅刻しかけて、魔力の補給をうっかり忘れていたのだった。「どうせ調査だし、まあいいか」とか考えていたので完全な自業自得である。)
二つ目は、卯が恐怖に呑まれ掛けていた事。戌が恐怖を吸い取るだろうと踏んで、送り出した。
彼女はつい最近、宿星から最上位幹部に上げられたもので、彼女は未だ、新人教育もまともに施されていない。……本来ならば、前職がある程度目星を付けた相手を前持って育成しておくのが引き継ぎのルールだと思うのだが……前卯は情報処理能力を上げる手伝いしかしなかったらしい。
「あともう少しだったのに!」
坑を鍵で閉じると、妖精達はやいやいと喚いた。
「さて、これはこれは。…………色々と面倒そうだなぁ」
酉は腕を組み、周囲に視線を巡らせる。やつれた妖精が十数匹、それの契約魔装者達が数十名。
「君達、『仮の面』に言いたい事があるんだろ? 聞いてあげるよ、折角だし」
子からの許可が降りるまでの時間潰しに、酉は妖精に言う。返答の大体の内容は予想が付いているが。
「きみは『仮の面』の幹部なんでしょ!」
「一体どんな悪いことをしたのか知らないけれど、悪いことはいけないことなんだよ!」
「妖精の国から食べ物よこどりなんて最低だよ!」
「止めたのになんでお腹すかせてないの?」
「どうやって食料を調達したか知らないけど、脅しはダメだよ!」
妖精達は順番など関係無しに、思いついた事を口々に捲し立てる。
「……うーん、大抵が『仮の面』への有り難いお言葉で、あとは『食糧の確保』について……か」
「他に聞きたい事無かったの」なんて言葉が漏れる程に、予想通り。
「まあ、いいか。……じゃあ、聞いてくれた事だし、オレ達の食糧確保について話してあげよう」
あと、妖精達は自身達が集団である事を理解していないのかもしれないな、とその様子を見て考察したのだった。
×
酉の説明を聞いても、妖精達はあどけない顔(申曰く間抜け面)を更に莫迦みたいに呆けさせていたので、自身の説明に付いて行けていないのだと悟る。
「――と言う事で、『仮の面』が持っている畑、食料の生産工場、畜産等でほぼ全てを賄っていたんだけど……聞いてるかな」
なので、話を纏めるついでに要約を付け足した。妖精達の顔がマシになったので、ある程度は理解をしてくれただろう。
「じゃあなんで、『仮の面』は妖精の国から食料をよこどりするのさ!」
「そりゃあ……まあ、流石に言えないかな。莫迦正直に全てを答えるなんて思っていたのかな?」
いちばん聞かれるであろう事は、妖精達の国への信頼が喪失するような内容なので、敢えて伏せておいた。
「なんでおしえてくれないのさ!」
「ズルだ!」
悪いことは良くないよ、等と自身等を随分と高い棚の上に上げて妖精達は言う。
「君達も『仮の面』に内緒で食糧を減らさなかったっけ」
なんて、そんな事を言っても妖精達は聞き入れない。
「そんな、こと……!」「ところでさぁ。オレの仲間、拠点に着いたみたいなんだけど。……そろそろ帰ってもいいかな?」
妖精が反論しようとした時に丁度、子からの連絡が入った。
どうせ許可は貰えただろうから、妖精共をどう葬ろうか考えようか。
どうしようかな。
側頭部に手をやり、子の通信と繋げる。
〈うん、まあ概ね想定通りだったから自由にして良いよん〉
「……じゃあ、そうさせてもらおうかな」
子からの許可も降りた事だし、と笑う。まずはハンデを付けてあげる為に、自身へダメージを倍増させる魔法を魔力を敢えて散らしながら掛ける。これは、自身の感情を、つまり妖精や魔装者達への怨みを強く抱く為にも、妖精や魔装者達をうっかりと殺さない為にも必要な事だ。
「魔法少女、気を付けて!」
負けてあげるんだからさ、そんな危機迫る顔しなくていいよ。と、酉は余裕そうに口元を歪める。
×
魔法少女達の魔力とぶつかり、キラキラした魔力と暗黒色の火花が派手に飛び散る。
「……く、意外と手強いな」
自分自身が。そこだけ抜き取ると、何処ぞの仲間幹部を思い出しそうな自信家的意見だが、それは事実だった。
思っていた以上に、リミッター外しの魔装者は弱かった。丑と寅には悪いが。バケモノである酉は、言うなれば超高濃度の魔力の塊である。物理的な攻撃等、はっきり言って痛くも痒くもない。ただ、中途半端な強さの魔力を体内に入れないよう、酉は攻撃の受け方を工夫する。
魔装者達の攻撃が当たる度に大量の魔力が削れていくが、その度にどんどん怨みが溜まっていくのであった。
「……(取り敢えず、妖精の場所に行くからその連絡でも入れておこうかな)」
「妖精に捕まったのでよろしく」と、星官以上に配布されている薄いタブレット端末を出し、送る。
「させないんだから!」
その直後、ばっと魔法少女が光線を飛ばし、手から端末を落とした。落ちた衝撃で端末が割れ、修理代やデータ修復の面倒を考え僅かに表情を歪める。
「やっちゃって、魔法少女!」
直後、妖精が叫び
「 」
魔装者達は打てる最高の浄化技を、叩き込む。虹色を帯びた眩ゆい光が、周囲を明るく染めていき、凄まじい風圧と熱量に、クロークの裾が激しくはためく。
「ぐっ、」
技の当たる衝撃で……と言うよりは、当たった側から自身がみるみる削れて行く不快感に声が漏れた。
幾ら、何度も最終浄化技を喰らっているからと言っても、自身が削れる感覚は非常に不愉快だった。特に、執着するの性質の感情を持っている為に、自身を削る事に対しての抵抗感が酷い。
相殺された穢れと浄化技がキラキラに昇華されていく。……これ、回収出来ないかなぁ、と内心で思いながら、勢いに合わせて倒れる。酉は下っ端に紛れて雑魚の真似もするので、倒れるその姿は随分と様になっていただろう。
「――やっ、た?」
魔装者の1人が声を上げ、その言葉に他の魔装者達の視線が集中する。
持っていた魔力は随分と減ったものの、思った以上に減らなかった為に酉は魔力を影の方に逃がし、十分に魔力が減ったかのように見せかける。
「……(あんなにやって、十分の一周辺か)」
酉は地面に横たわり、内心で期待はずれだと溜息を吐いた。