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瞳の水月
「……何よ、酉」
少し苦しそうに卯は声を上げる。何故なら、両頬と顎、側頭部が固定されて動かないからだ。
直立の状態で少し上を――正しくいえば、目の前に立つ自身よりも上背のある男と目を合わせるように、その男の手によって両頬を挟むように支えられ、顔が固定されていた。
「…………」
固定している酉は無言で、口元に胡散臭い笑みさえも浮かべず感情が読めない。ただ、じっと卯の目を覗き込んでいた。
×
彼女の瞳には、『月』が写っている。瞳の奥の翳りが、その月を隠しているようだけれど。
その翳りが無くなった時、彼女はどうなるのだろう。
よく見るとその月は、欠けているようだ。
以前見た時と、形は変わっていない。
今日は、前回とは月齢が異なる日の筈。
つまり、月の満ち欠けは関係が無いらしい。
彼女の月は満たされる事はない、ということか。
……考えたってしょうがない。
×
「私を無視しないでくれる?」
段々と苛ついてきた時、ふと酉が意識を戻した気配がした。
「んー……、君の目って綺麗だねって思ったんだよ」
にこ、と胡散臭く酉は微笑む。