その続きのようでいて戌の言及をしてる話。
ついでで魔力について言及してる。
「寒ィな」
妖精の国や正の魔力だまり周辺以外は荒野だからな、ここ。星の瞬く闇の空に、白い息を吐いた。全っ然取れねーよ、この怨み。
「あっ、居たいた」
騒がしい声と共に、騒がしい戌が走ってやって来た。
「なんだよクソ犬か」
流石、恐怖のバケモノってヤツだな、と戌が俺の接着を解いているのを横目に思考を巡らせる。何処に行ったか一切連絡してねーのに見つけやがった。
確か、とにかく『怖い』と思われる行動は全て出来るらしく、恐怖のバケモノは相手の事は何でも知っている。人間だったら、生年月日や家の住所、趣味嗜好、誰にも言ってない筈の秘め事とかな。
どう言う仕組みだって言われりゃ犬っころは『分かりません!』……なんて堂々と言い放つだろうが、恐らく、恐怖の感情を介して相手の思考が読めるんじゃないかと俺は踏んでいる。
あと、恐怖のバケモノは奇行を起こしがちだ。それも、『予測が出来ない奴』『理解の範疇を超えるモノ』として、相手に恐怖を抱かせる為の生存本能的なものじゃねーかと考えている。
「早々になんですか。命令を放って置いていきますよ」
不愉快そうに鼻に皺を寄せ、戌は俺を睨む。
「お前に出来んのか」
そう、煽るように言えば
「出来ません!」
「素直だな」
半ギレしながら即答のようにそう叫んだ。まあ、お前なら素直にそう言うわな。なんかそういう制約が掛かってるっぽいし。
バケモノなのに『嘘が言えない』なんて、可哀想な犬っころだ。同情するぜ。同情は嫌いだろうけど。
バケモノ、そして穢れは、『負方向の魔力』が構成に関わっている。正方向の魔力は『正しい事』を起こさせる原動力っていうかそういうシステム、または理らしい。だから、『妖精は正しい』みてェなクソルールが罷り通るんだがそれは置いといて。
つまり、負方向の魔力が身体の構成に関わっているって事は『正しくない事が正しい』というよく分からん理が身体に組み込まれている訳だ。
だから、『嘘を言わない』という『正しいこと』を行うには通常より多くエネルギーを消費する。
車とかで例えると、正方向の魔力は『正方向に加速するエネルギー』で、負方向の魔力は『負方向に加速するエネルギー』。
『負方向に加速するエネルギー』を使って車を前に動かすには逆に、後ろに動かすよう働きかける羽目になる。分かり易く言えば『マイナスとマイナスを掛ければ答えはプラスになる』ってやつだな。
何も考えずに行う自然な動きは『正方向の行動』と言える。自然数は『正の整数』だからな。
そんで、『負方向の行動』を行うには正方向の行動と逆の事をする。やりたい事の逆をやるって考えるだけで面倒な事この上ないだろ。
おまけに、戌は制約のお陰で強制的に正しい事を行うようになっているから、必要以上にエネルギーを消費する。バケモノは指示に従うのも、あんまり好きじゃねーからな。
だから、犬っころがよく食い物を食っている事も、消費する穢れの量が多いのもそれで納得がいく。文字通り、息をするように穢れを集めてんだよな、あの犬。……何でここまで思考を飛ばしたんだったか?
「生きてますか?!クソ猿!」
ふと思考を現実に戻した直後
「痛ってェ!テメェ、馬鹿力忘れてんじゃねェよ」
クソ犬に思い切り背中を叩かれた。骨から変な音したぞ。
「はぁ?無視する方が悪いでしょう?!」
「声デカいから抑えろよ。今、夜中だぜ」
「ぐぬぬ……!」
そう言い合いをしながら、組織に戻った。
戌の穢れの集め方については、本編第一章の『ついでで色々聞いてみる。』の後半にさりげなく記載済み。