※執着の果て。
結構暗めなネタ。
誰かわかる人はわかるだろうから明記しない。
「……やめてくれない、かな」
「なんで?」
首を傾げると柔らかな髪が揺れ、彼女の匂いが舞う。鼻腔をくすぐる彼女の匂いが、皮膚を伝う体温が、脳を焼く。
「貴方は私が好き。私も、貴方が好き」
ゆっくり紡がれる言葉は、幼い子供に言い聞かせるかのように優しく、誘うように蠱惑的だった。
「いったいどこに問題があるというの」
宝石のように煌めく紅い目が、絡み付くように捉えて、離さない。彼女の瞳の奥の翳りが、欲を引き摺り出そうと深くなる。
『本当に、やめてくれ』
人の言葉が出せない程に、余裕がない。
『オレはまだ、君を失いたくはないんだ』
核を締め付ける痛みが、手に震えを寄越す。
『オレの、怨みと妬みの穢れを持つバケモノの、』
あぁ、これは本当に
『好きだという気持ち』
そういう気持ちなのだろうか。
『“喰べてしまいたい”と思う、その衝動は』
そうだというにはあまりにも、
『本当に、“君を喰べて、一体化してしまいたい”』
暴力的だ。
『同一化してしまいたい気持ち、なんだ』
誰の目にも、一切見られてしまわないようにする為に、自分だけのものにする為に、一つになりたい。でも、
『…だから、そんなことをしないで』
まだ、動いている君と、
『言わないで、くれ』
生きてる君と、一緒にいたいんだ。
「……貴方が何を言ってるのか、分からないわ」
暗い鬱金色の目が、理性と本性との間で揺れている。彼の吐き出す息が、言葉が熱くて、心が甘く締め付けられる。
「でも」
吐き出された言葉の概念が、強く伝えてくる。
「苦しそうで、辛そうなのは、分かったわ」
私の事がどれだけ好きなのか、どれほどまでに、執着してくれているのか。
「(でも、心から嬉しそうね)」
目を細め、彼を見る。抑え切れていない喜びで彼の口元が歪み、尖った歯の並ぶ口内が見えた。彼の黒い粘膜が、私を欲しいと唾液で湿る。
「……私は、何時、貴方に食べられても良いと思ってるわ。……だから」
私は彼に手を伸ばす。
「貴方がどうしようもないほど、私の事が好きで好きで堪らなくなった時」
救いを差し伸べる、女神のような気持ちで
「その時は、私を喰べてね」
女神のように、微笑んで。