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立ち上がる組織。


「見つけた」


そう声をかける前から、()()はこちらのことに気がついているようだった。


「キミの『つまんないな』って声、聞こえたよ」


そう答えると、()()はゆっくりとこちらを振り返る。


「もしかしたら、キミの退屈をアタシが、……いや、“アタシ達”が、キミの退屈しのぎになってあげられるかもしれないよ?……あんまり、期待とかはしないでもらいたいけど」


掛けた言葉は、あまり()()には刺さらなかったらしい。つまらなそうに、ついと外方(そっぽ)向かれた。


「……だからもし、居場所が無いんならアタシのとこにおいでよ」


誘い文句が効かなかった落胆で、素直に思った言葉が溢れた。()()は動かなかったけれど、こちらに興味を持った様な、そんな気がした。


「君達みたいな、『人間』に、何が出来るっていうの」


巨大な硝子の鳥は、()()()()()()声を発した。睨み付けてはいないけれど、圧倒的な圧が押しつぶさんばかりに襲い掛かる。


「世界を、救うの」


そう笑うと、()()は目を細めた、ような気がした。



×



「キミ、名前は?」


どう呼べば良いのか分からず、()()に問う。


「教えない。そこまで許したつもりはない」


「うーん、それもそっか」


名前が無いなら、どう指せば良いのだろうか。


「君に名付けてもらいたくもないし、誰かに名付けてもらうのも嫌だ。調伏(じょうぶく)させるつもりはないよ」


『名前を付ける』行為は、自身の配下に下す意味合いがある。それは存在が大きいほど、その意味合いが大きくなる。


「じゃあ、名前じゃなくて、『役職名』を与えてあげる」


アタシも、アタシの仲間達もみんな、同様に役職の名を預かるの、と()()に告げる。


「名前でも、渾名でもないから問題ないデショ?」


「……そうかもね」


ようやく、()()は此方を振り返る。


「できれば、アタシ達みたいな人間に近い姿か大きさになってくれるとありがたいかも」


巨大なその姿は、対話をするのに向いてない、と言外に伝えれば、仕方ない、と()()は首を振り、身体を震わせた。何処からともなく熱い突風が吹き、()()は初めは花が散る様に、次いで土砂降りの雨ように剥がれ、崩れる。


残された、人の大きさ程の()()は背の高い、腐ったものと干からびたものと白骨化したものを混ぜ合わせ、無理矢理生きている人間に似せた様な姿だった。顔は、闇い陰になっていて見えない。


散っていった筈の黒い欠片達が小さな鳥の姿になり、彼の足元の()()()()還ってゆく。


「……その姿は?」


人の大きさ、形をした、凶々しい何かが、そこに現れる。筋肉や骨が所々露出して、溶けている。


「今までに喰らった人間の平均値」


「……あんまよくないかも、その姿。普通の人間は寄ってこないよ」


と、持っていた人体図鑑(という名の解剖学の書物)を寄越した。


「ふぅん?」


その書物をざっと読み、()()は身体の表面を変化させ、色々確かめているようだ。


「で、君が手に持ってるそれは何?」


()()は、手元を指す。


「キミはさ、はっきり言っちゃうと気分次第でアタシ達の命も、世界の事なんかも、どうにだってできるでしょ」


「……そんなことはないよ」


今は、という幻聴が聞こえた気がした。仮に今はそんな力が無かったとしても、執着の強いバケモノは強くなる傾向がある。それは執着が強いが為に、自身の魔力を消費せずに溜め込む性質があるからだ。


因みに、()()()()穢れを溜め込みすぎたバケモノは感情に振り回されて分裂する。神にまで成り上がった例など、初めて見た。大量の穢れを溜め込んでも尚自我を保っていられるこのバケモノは、相当(理性)が強いのだろう。


「だったとしても、今のキミも既に、アタシ達みたいなただの生き物や精霊にとっては十分に脅威なんだよ」


人間は、生き物は『安心』を欲しがるの、分かるでしょ、と首を傾げる。


「だから、これを付けて欲しいんだ」


好奇心の代償なら仕方ない、と()()は手渡されたものを、受け取った。


「それは組織(アタシ達)とキミの、可視化された約束」



×



「アタシは今日から『子』だ。君達に必要な物を作る、生産の役割を担う」


『子』は、自身に付いてきた、或いは来るしかなかった()()達に、高らかに宣言する。


「で。このバケモノには、一番陰の(悪い)気が強い『酉』の方向を守ってもらうから、『酉』」


仮面を付けた長身の()が、手を胸に当て、恭しく、演技じみた会釈をした。それに少し顔を顰め、次は『子』は集まった()()達を指す。


「君達はそっちから順に『丑』『寅』『辰』『巳』『午』『未』『申』『戌』『亥』」


そして、それぞれに仮面を手渡した。


「『丑』には、この組織を守ってもらう。この組織のこれからは、はっきり言うとキミにかかってる。組織が大きくなるまで、かなり負担が大きいけれどキミを信じて、この役職をキミにお願いしたいんだ」


背の高い、角の生えた偉丈夫は『子』を育て、護ってくれた男だ。だからこそ、共にこの組織を護って欲しいと願った。


「『寅』は、この組織がもしも攻撃されてしまった時に、それを破壊する役割を。でも、すぐに対応するんじゃなくて、証拠を集めてからね。『正当防衛』が、一番大事だから」


『丑』と同じ組織からきた派手なこの男は、随分と戦闘センスが高い。それゆえに、何処かの組織とぶつかる事態になっても、きっとこの組織を勝利に導いてくれるだろう。


「『卯』、キミには情報の管理を。組織が今まで何をしてきたか、組織に必要になりそうなものは何かとか、色々管理してもらう」


さらさらの黒髪は艶やかに風に靡く。旅の途中だったらしかったが、夢を語ると「その夢を、手伝いたい」と仲間になってくれると、言ってくれたのだ。機械の扱いや情報の管理が得意らしく、志願してくれた。


「『辰』は、その情報を扱うような役割。例えば、その情報の結果、何が起こるか、何をすべきかとか、そういった判断を任せるよ」


元『神』らしい長身の男は、人の常識に左右されない。そして、全盛期よりは劣るらしいがものを見通す目を持っている。彼の、その目を存分に生かしたかった。


「『巳』のキミは、主にその判断の結果を執行してもらう。“要らない”と判断された物を掃除して欲しいんだ。それにほら、組織内は綺麗でいて欲しいから組織内のお掃除もお願いして欲しいかも」


清流のような彼女は、浄化する力を持っている。そして『辰』の眷属らしく、彼の近くに長く居ることを望む。それならば、彼女の特性を生かした仕事を与えるべきだろう。


「『午』は食事や、身体に摂取するものについて色々してもらいたいかな。組織の形態が良くても、食べ物が良くなかったらやる気出ないでしょ?」


組織を運営する上で、モチベーションや体調の管理はとても大事だ。組織を長く存続させるその為にも、とても大事な役割になるだろう。


「『未』の役割は監査。組織内の治安や不備、不満とかを見つけたら速やかに報告して。あと、『見られてる』って分かられると人って繕うから、気付かれないように」


ぼんやりと微笑む彼女は、真っ直な眼差しを持っている。彼女のその真っ直ぐな瞳は、組織を覆う暗い影を払い、組織が熟するのを輔翼(ほよく)してくれるだろう。


「『申』は、他の幹部達の補助を。他の役職が一人では難しい時とか、そういうのを手伝うの。パシリじゃないよ。全ての役職を理解して、器用じゃなきゃ出来ない、特殊な役職なんだ」


そう彼に告げる。彼は、いつもてきとうだが、抜け目が無く、頼まれた事はきちんとこなしてくれる。だから、自由が多い方が、彼の性格を生かせるだろうと、考えた。


「『酉』、キミは調査。キミって余程な事がない限り死なないでしょ?だから、未知の場所や危ない場所とか、調べて欲しいんだ。それに、キミのその旺盛な好奇心も少しは満たせると思う」


まだ人間の振りをしたばかりで作り物のような彼は、「面白くて退屈しないのなら別に構わない」と、興味がなさそうに、そっぽを向く。


「『戌』は報告。それぞれが何をやったか、やってないか、それを明確にしてもらう必要があるから。キミには『虚偽報告』しないよう、気を付けてもらいたい」


真っ直ぐで真面目な彼ならばきっと、きちんと役割を果たしてくれるだろう。そう信じて、彼にこの役職を与える。


「『亥』は、治療に関わる役職をしてもらう。ここにいる()()達の中で、唯一回復の魔法や、医学の知識を持ってるのはキミだけだから。ああでも、妖精だけじゃなくて、人間とかも物理的に治療できるように、お勉強してもらわないとね」


『亥』となった彼女の、妖精でありながら穢れを無理矢理混ぜられた、その不安定な身体を管理するためにも、近くに医療設備がある方が安心できるだろう。


『子』は告げる。


「ここから、新しく世界を変えていこう」


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