※異化。
恋愛的描写ではないかもしれないけど。
「随分と面白い造形になったな」
猿面の男は目の前の鳥面の男を揶揄った。
「そりゃあね」
少し口元に軽薄な笑みを浮かべた酉は小綺麗ないつもの姿と違い、髪は逆立っていて服も至る所が焦げたり、汚れていたりしていた。
申の横を通り過ぎ、休憩用の椅子にどさ、と乱暴に腰掛ける。
「……血生臭くないか」
よく見ると、赤茶色い汚れも至る箇所に付着しているようだ。
「今回はそういう役割だったからね」
魔法少女たちに血反吐吐かせて、のたうち回る姿を嘲笑う、かなり性格の悪い役割だった。相手を侮辱するかなり強めの言葉を吐いて身体を思い切り動かしたお陰で、脳内麻薬が大量に放出されたのだ。
「勿論、魔法少女達からリンチされて『ヤラレター』って感じで退散したんだけど」
「とりあえず、気が立ってるって事か?」
「そう。君、こういう時どうやって発散させてるか(落ち着かせているか)教えてくれない?」
酉は申に問う。
「俺は……料理作るからなぁ」
「……ごめん、全然参考にならないね」
酉は溜息を吐く。
「クッキー食うか?」
申は差し出した。
「……一つだけ、貰っておくね」
そう言って、先程まで一切見せなかった手をクロークの隙間から出す。その手は鳥の足のように鱗に覆われ、実に刺々しい手だった。
「これはひでぇな」
「治るまで暫くかかりそうなんだよ」
サク、とクッキーを噛む歯も、些か鋭い。
「お茶でも飲んで落ち着けよ」
「今のオレの手を見てそれ言ってくれる?」
握力やばいんだよ、と
「大丈夫だ。子の作った特別製だ」
お前本当に鶏なのかと思いながら申は厚めの器を取り出した。
「あぁ、あれか。『丑や寅が強く握っても割れない』ってやつ」
「そうそれだ」
器に赤みを帯びた透明な液体が注がれていく。
「なんで卯に言いに行かないんだ?」
申は何の気なしに酉に聞く。
「…………あの子には、今は会いたく無いんだよ」
申は、気まずそうに目をそらすその様子で合点がいった。
「本当に食っちまいそうだって?」
「……あのねぇ、こっちは言葉を濁してるのになんでそうはっきり言っちゃうの」
はぁ、と大袈裟に酉は溜息を吐いた。
「悪い」
「兎に角、オレはちょっと帰って来れそうにないから、そう伝えといてよ」
言い終わると酉は立ち上がり
「お茶とお菓子ありがとう。少し落ち着いたよ」
と器(少し変形していた)を置くと、外の方へ出かけていった。
……だ、そうだ。聞いてたか?
…………うん
残念だったな
……別に。
「……どうして、途中、防音魔法かけた?」
『食いそうになる』のあたりで。酉は、はたと冷静になった頭で考えた。