ふしぎにおもうねこ。
『ひつじ』
「んー?」
振り返る未はきょろきょろと周囲を見てから、足元を見る。
「あ、ねこちゃんだぁ」
しゃがみ込んだその視線の先に白くてつるつるのねこがいた。未はねこの頬をつつく。
「ぷにぷにー」
『ぷにー』
つつくのに満足して、
「なぁに?ぼくにようじ、かな」
と未は首を傾げる。
『ねこはふしぎにおもうねこ』
と、ねこも同じように首を傾げた。
『ひつじはいつもさるにじゃけんにあつかわれているねこ。どうしてそれなのにしたうのにゃん。
ねこだったらもうひゃくねんのこいもさめちゃうにゃ』
不満げに尻尾でぺちぺちと床を叩きながらじっと見上げるねこに、
「ふふー。ねこちゃん、ぼくの心配をしてくれているんだねぇ」
うれしいなぁ、と再びねこの頬をつつき未は笑う。
『ふにに』
「あのねぇ、申くんは、ぼくをちゃんと大事にしてくれてるよ。申くんなりにね」
『に?』
「ぼくねー、核が"不安"の穢れなんだぁ。だから、常に不安じゃ無いとそれが消えちゃうの。核が消えちゃうと、ぼくも消えちゃうから、ぼくを不安にさせるためにそうしているんだよ」
『それはしってるねこ』
ねこは相変わらず床を尻尾で叩いている。
『でも、ふあんにさせるだけならべつのほうほうもあるねこ。それに、したうりゆうにもなってないにゃん』
『もうひとついうなら、ひつじはそれでもとくにふあんがってないねこ』
と眉間にしわを寄せたねこに、
「わぁ、ねこちゃんは慧眼の持ち主、だねぇ」
と未は小さく拍手をした。
「んー、何ていうかねぇ、申くんがぼくに甘えているんじゃ無くて、ぼくが申くんにあまえている、っていうのが、とりくんのけんかい、かなぁ。これいじょうはひみつ、だよ?」
と片目を薄く開けて未は微笑んだ。
『ふにー』
ねこは何だか惚気を聞かされたような気持ちになって、無性に紅茶が飲みたくなったのだった。
そして去た未が見えなくなってからねこは気づいた。
『結局なんで慕っているか教えてもらってないねこ』
「ふふーん、ふんふー」
と鼻歌を歌い未は歩いていた。
「んー、なんでしたっているか、かぁ」
きっとそれはあのとき、だよね。
たくさんの妖精が敵になったとき。
どんな理由であれぼくを救ってくれたそのことが、どれほどに希望を与えてくれたか。
「でも、それはさるくんにもないしょなの」
by妹。