どくはく2。
「いやぁ、君が裏切るなんて思いもしなかったよ?」
クスクスと口元に手を遣り笑う酉は、にぃっと目を細めた。
「本当に良かったのかい?この世界での立場も名声も全て失う事になるけど」
大抵の生き物はそういうものに執着すると思ってたよ、と酉は彼に言葉を投げた。
「別に良いんですよ。そもそもボクは、『英雄』になんてなりたくなかったもので」
「へぇ。オレなんかの後を付いても、胸糞悪いものしか見られそうにないと思うけどねぇ」
「ボクは、今まで何も知らな過ぎたんです。それくらいが丁度良い」
良く見れば、彼は完全に身一つでここまで来たようだった。衣類も今まで着ていたような高級そうな柔らかな布地ではなく、其処ら辺のバザーで購入したような安物になっていた。
「まぁ、この世界での設定やら何やらが変わってしまったから、丁度手伝いが欲しかったところだったんだ」
酉が指を鳴らすと、虚空から黄ばんだ羊皮紙と羽ペンが現れた。
「オレは頭目じゃないから、先ずは二等契約しようか。給与も衣類の支給もあるし」
「分かりました」
酉が差し出す紙とペンを受け取り、書き込む。キラキラとした光を放つ、赤みを帯びた黒いインクだった。
「因みに、良くオレの居場所が判ったね」
「判るように感知能力を鍛えたんです」
貴方が来る度に、居場所を探って探って、感覚を研ぎ澄ませました。と『英雄』は和かに答えた。
「ボクは、はなから貴方の事を、信じてませんから」