小さな命と、とある組織。
「No. 509。 真面目なお前に仕事だ」
白衣の男に紙の束を渡される。資料の中身は、『人工生命体』の育成。
「……はい」
『どうして俺が』という気持ちと共に『またか』という気持ちが湧き上がってきた。
『生命の神秘を解き明かす』という、大層崇高な目標を掲げるこの組織は研究成果の集大成として、人工生命体を作り上げる奇妙な特性がある。
主に人工生命体を作り上げる時期は、研究結果の情報が集まり始める冬。冬の間に人工生命体を作り上げ、春から秋にかけて実験として、人の住む街へ彼らを放つ。
生み出した彼らがどのような行動を行うのか観察し、研究者達は組織に戻る。放った彼らのデータは手元にある為に、回収などは一切行わない。
研究者共が唯一回収するものと言えば、人の子供と、『使えそう』だと判断した生き物達だけだ。研究者共は色々な場所からとにかく生き物の情報をかき集め、崇高なる生命の研究を行う。
その結果は、何処かの国で大変に役立つ薬物の生成であったり、相手を滅ぼすバイオテロの原因であったりする。
この組織は、以前は合成獣の生成を行っていた。被験体No.509は、その成果の1つだ。この組織に居る職員の殆どは、既に被験体になっている。
被験体達は、頭に逆らえないようになっている。それは何処かの国の呪術を応用したものだと、既に居なくなった者達から聞いた。
唯一、ただの人間であるのは、この組織の頭だけだ。研究狂いならば自身も被験体にしているかと思いきや、そんな事はなかった。
頭は、己が身を使って実験は行わなかったが、自身の細胞や体液を使っての実験は行なっている。
今回の『人工生命体』は、頭の体液を使って生成された、『知性の小人』。
錬金術そのものではなく、自身達の研究成果も併せて生成したらしい為に、正しい呼称ではないだろうが、便宜上そう呼ぶ事になったらしい。
×
本当に、この中に何か居るのか。
そう思うほどに、指定先の円柱の水槽は透明であった。
中には透明な管が数本、中央より少し上で纏まっている。……いや、よく見ると、管は小さく透明な何かに差し込まれているようだった。
水槽は、常人が1人で立っていられる程の高さ、幅が有り、酸素か液体の循環を提供する小さな気泡だけが、水槽を下から上へ流れている。
水槽に触れると、かなり温かい。313.15℉程に保たれているようだ。……馬の体温と同じ、らしい。
資料によると、この中に定期的なタイミングでとある液体を水槽の中に入れなければならないようだ。
×
指定された時間ぴったりに、液体を注ぐ。
細かいところを気にする俺だから、この役割が与えられたと言うことか。資料によると、数十秒の誤差は問題ないが、それ以上の誤差はいけないらしい。
注がれる液体は、人工的に生成された頭の体液と、幾つかの栄養を混ぜたものだった。
ボタンを押せば管に液体が流れ、小さなそれに食事が与えられる訳だ。
×
数日後。
円柱の水槽に、管を繋がれた子供が一人。見事に生成されていた。
感情の無い、頭に瓜二つな翡翠の眼差しが、真っ直ぐにこちらを見上げた。