表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/57

※白兎と軍鶏。

 

 仕事の関係で、酉は卯と2人きりで拠点で暮らしていた。仕事の期間は()()()()()()2年間。意外と短いようで、意外と長い。


 拠点はただの一般家屋で、普通の住宅地の中にある。今回の仕事の内容は、『侵略予定の土地の視察及び観察』。魔法少女の粉(キラキラ)を集める必要もなければ、魔法少女と戦う必要もない。


 組織内で『情報』を(つかさど)る卯と、『調査』を掌る酉が組むのは、あまり珍しい事ではない。だが、2人きりという特異な環境に、しばらく卯は警戒心を剥き出しにしていた。しかしその警戒も、共に仕事を行い、全く何も起こらないとなれば、その警戒もやがて薄れていった。


 卯は努力家だ。なるべく『理想の自分』で居ようと、他者の前では常に気を張り詰めている。だから、『無闇矢鱈に気を張るのは、格好良くないし、身体にも良くないよ』と、ある時卯に伝えた。



 しかし。


 しかし、ここまで油断しろと言ったつもりは無かった。


「……(いや、『油断しろ』とも言ってないんだけどね……?)」


 酉は内心で溜息を吐く。


 長い間共にいるうちに、卯は酉への警戒心を薄れさせた。ーー否。持たなくなった。


「……(……もしかして、大分疲れているのかな?)」


 風呂場から出たばかりの卯は、長い髪は濡れていたし、着ている服も大きめのシャツ1枚だけだった。


 髪から伝った水分が服のあらぬ所を透けさせたり、肌にぴったりと貼り付いていたりと、大変目の遣り場に困る。


 どうでも良いただの女ならば、どんな姿でも構いやしなかった。卯だから、目のやり場に困ってしまった。


 ぼんやりと佇むその姿に思わず声をかける。


「…………拭いてあげるよ」


「……お願いするわ」


 眠そうに卯は承諾した。酉は魔法でタオルを手元に引き寄せ、


「ほら、こっちにおいで」


 と、座っているソファーの()を叩く。


「うん」


 頷く卯は酉に背を向け、()()()()腰掛ける。


「……」


 相当頭が参っているらしい。酉は卯を退かすのを諦め、そのまま拭く事にした。


 すっぽりと包み込める程、酉と卯の体格には差がある。体格だけでなく、実戦経験や魔力量等にも大分差があり、卯がどんなに本気で抵抗しても難なく捕縛出来る自信がある。


 それなのに、卯はリラックスした様子でこちらに身を委ねている。


 卯は『これまで通り、何も起こらないだろう』と、思い込んでいる。しかし、『バケモノ』としては、その信頼を破壊し、絶望するその顔を見てみたいと思うのは仕方のない話だろう。


『怨み』のバケモノとしては、それで更に怨んでもらえれば、これ以上ない歓喜や悦楽に浸れるだろう。


 ……だけど。


 なんとなく、彼女のそういう様を()()()()見たくはない心境が有る。


「……(それに、彼女に手を出したら即刻で殺されそうだよね)」


 組織内での同僚(最上位幹部)の中で、同僚、部下関係無く最も好かれているのが卯だ。特に、彼女の両側を守る、派手なナルシストと堕ちた神は容赦無く対象を痛め付ける。


 そして、酉の命を握っている無感動な頭目は、迷いなく仮面を()る。無感動では有るが、仲間意識は割と強い方だから。


 唯一見方になってくれそうな不幸な死体を思い出してみるが、彼は『憐む』だけで、何もしない気しかしなかった。


 (被食動物)の髪を拭きながら、(捕食動物)は何度目か分からない溜息を吐く。


「ーーあまり油断しないで」


 聞こえないように、囁いた。


 手を動かす度に香る君の匂いとか、白いうなじとか。


 このままでは、本当に食べてしまいそうだ。


 酉は気付かれないように、タオルの上から髪に口付ける。


「……何か言った?」


「なんでもないよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ