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遭遇そのご。


 仔羊を連れた逃亡生活数日後のこと。


「だから肩に乗んなって」


「ふひひ、えへへぇ」


「気持ち悪ィ笑い声上げんじゃねーよ」


「きみとのでーとがうれしいんだよぅ」


「デートじゃねェよ、逃避行だ」


「かけおち、っていうやつだねぇ」


「違ェよっていうか肩から降りろってば」


 引き剥がそうとしたその時、ぽてりと仔羊が肩から落ちた。


「お、おい大丈夫か?」


 仔羊に触れると、冷たい。そして、薄らと透け始めていた。


「これは……」


 すぐさま触れていた手を離し、距離を取る。穢れまじりである仔羊(コイツ)の、混ざっている穢れが分かるほど正の魔力が少なくなっていた。


 つまりはバケモノの俺といた所為で魔力が相殺されてしまったらしい。危惧していた事態が起こってしまった。


「だから肩に乗るなっていったんだよバカが」


 一昨日から仔羊は正の魔力を摂取していないかった。


「まずいな」


 だが、途方に暮れている場合ではないようだった。悪いことは重なる、というのはどうやら本当らしい。


dnuo(こんなとこ)f euq(ろにいた)ined(んだねぇ)


 突如降ってきた声に怖気(おぞけ)が走った。身が竦んで動けなくなる。


『オレを相手に数日逃げ(おお)せるなんて』


 視線を前に向けるとそこに、闇が凝固したような"何か"がいた。


『ねぇ、君、助けてあげようか?』


 禍々しい気配の、人の形をした何かはそう喋る。にこりと、好意を与えるつもりで貼り付けた表情で。


 瞬間的に殺される幻覚を覚えた。


 生きていたら冷や汗が止まらなかっただろう。それどころか恐怖のあまりに気絶、最悪ショック死しているかもしれない。


 後退りそうになるのを堪えて、怪物を見据える。引いた瞬間、打ち捨てられる予感がした。


「……は?なんて言ってるか解んねェ言葉で喋るんじゃねェよ」


 死ぬかもしれない、と瞬時に思う。だが自分を探していたのであれば、直ぐに"滅却"する事はないだろうと踏んで、友好具合を量ろうと異なる言葉で応えた。

 声は震えていなかっただろうか。


『……あれ、この言語じゃなかったか……』


 相手はコホンと咳払いすると、


「……これなら解るかな」


と合わせた。


「……」


 小さく頷く。少なくとも穏便に済ませる予定でいるらしい事は判った。


「もう一度言うけど、助けてあげようか?」


 その言葉に相手を今度はしっかり観る。相手は鳥の頭骨を模したような白い仮面と鳥の翼のような真っ黒な外套(クローク)を身につけていた。……意匠(デザイン)題材(モチーフ)は鴉だろうか。


「オレ、無駄は嫌いなんだよね。だから()()()()()()()()()()早く答えて欲しいんだけど」


君を消すか消さないかの二択なんだから、と鳥男は首を傾げた。無感情な目が俺を値踏みするように見据えている。


「最近ここらの"妖精を生む場所"を荒らしているバケモノが居るって聞いてね?"上"の方から処理するよう言われたんだよ」


バケモノって君のことでしょ、と鳥男は一歩近づく。

 たったそれだけなのに、圧倒する存在感に"俺"という存在が潰れそうになる。

 思ったより穏便では無かったらしい。


 どう足掻いても勝つ想像が出来なかった。

 階級の絶巓(ぜってん)に君臨している奴というのはこういう奴かと、()()()()()()()に感謝した。


「……"上"、って何だ」


 だが、この鳥男は言葉を聞く限り、誰かから命令を受けて俺に会いに来たようだ。こんな恐ろしい奴を従えてる存在が居るってのか。


「今の君には関係ないことさ」


と鳥男は笑みを口元にだけ浮かべた。


「"上"に"依頼した側"は君をただのバケモノ(知性のない野良)だと思ってるみたいだけど。


何のバケモノか、また何匹いるか分からないよう上手く偽装工作や証拠隠滅してたでしょ?


計画的な犯行であることから考察すれば、かなり高度な知能と技術を持っていることくらい分かっちゃうんだよね。


交渉できる相手なら話し合いで解決、あわよくばオレが所属している組織に引き入れようかと思ってね。


だから、助けてあげようか?勿論、そこの妖精込みでさ」


と俺の足元に倒れている、消えかけた仔羊を指差した。


「その妖精を助けられるのはうちの組織くらいだと思うよ?知識も器具も揃ってるし、何より医者が妖精だからね」


 その情報は渡りに船ではあったが、飛びついて大丈夫だろうか、と返事に窮する。


「もしかしてちゃんと治療してもらえるか心配してる?なら幹部になればいい。役に立つ人材は大事にする組織だからね。君の能力なら直ぐにでも幹部になれるよ。


ああ、そういえば俺の近くの席がもうじき空きそうなんだよね。上手くいけばそこに座れるかも」


 それでも返事をしない俺に鳥男は少し苛ついた様子を見せた。


「……オレにしては大出血サービスなんだよ、()()()()()()()()言うなんて。しかもおまけまでつけて」


「わかった」


 段々増す圧力にとうとう応じてしまった。出来ればデメリットを考慮する時間が欲しかったが、情報がないので仕様がない。


 鳥男(コイツ)は表面上物腰が柔らかい態度をとっているが、印象より気が短いのかもしれない。


「そう。でも出来れば始めにそう言ってくれると、もう少し嬉しかったかな」


と鳥男は笑みを深める。喉元に突きつけた刃先を軽く喉に差し込まれたような心地がした。

 考えていた以上に短気な性分のようだった。


「……もし俺が会話出来ないような相手だったらどうするつもりだったんだ」


 ふと疑問に思ったことを聞く。


「ん?交渉できない相手だったら?オレが来ている時点で察せるんじゃないかなぁ。


オレって強いからさ。解るでしょ?」


と確認するように問う。武闘派でもあるらしい。


「太刀打ち出来ないくらい差があるってのは分かる」


 そう答えると、


「その差が分かる時点で期待以上だね」


と言った。


「話し合えない相手だったらそれはそれで面白いことになったとは思うけど、できる相手でよかったよ本当に、ね」


()()。と鳥男は(のたま)った。ほんとにな。


 ……どうやら窮地を脱する見通しがついたらしい。神とやらを真剣に信じてみようか、なんて以前の自分なら鼻で笑って一蹴するようなことを思った。


「でも君、妖精を飼うなんて面白い趣味してるね」


「……コレは勝手についてきてるんだ」


「ふぅん、まあどうでも良いんだけどさ」


 なら話題に出すなよ。心底どうでもよさそうな声に心で悪態を吐く。


「鳥男」


「なんだい?随分な呼び方だけど」


「俺はテメェの名を知らねェんだよ。その空く予定の席の名は何だ」


 鳥男は面白がるように目を細めた。


「……『申』、だよ」


------


「一応言っておくけど、前々から君のことは目を付けていたんだよ」


と、鳥男は語る。


「だから恨むなら強くなってしまった自分を恨んでね」


------



by妹。

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