遭遇そのよん。
「はーあ、めんどくせーけど移動しねーと」
どういう仕組みかわからないが、妖精が死ぬと生産元はそのことが分かるらしい。
今は妖精が嫌う夜だから猶予はあるが、朝になれば原因を探しに大挙してここに押し寄せるだろう。
その前に出来る限り離れなければならない。数の暴力というのは本当、馬鹿にできない。
あと、妖精とは別に、俺の存在を脅かすような巨大な力を持った何かが此方に向かっているのを感知したからだ。明らかに俺に対する害意を感じる。
"妖精が自然に生まれる場所"を悪戯半分八つ当たり半分で荒らしてたのがバレて、消すように依頼されたのだろうか。
存在を消されるのはマジで勘弁してほしい。やりたいことも、行きたい場所も星の数よりあるのだから。
先ず目下の面倒を解決する為に仔羊を拾い上げ、縄を解く。
「おい、薫製肉みてーになってんなよチビ」
頬を軽く叩くと仔羊は目を覚ましたようだった。
己を捕らえていた妖精たちの姿が無いことや、道具の残骸に大体のことを察したらしく、すまなそうに身を小さくした。
「ごめんね、ぼくのせいで」
「煩いから始末しただけで別にお前の為じゃねーよ」
「……そっか」
きみはやさしいね、と仔羊は笑った。
「……お前は、これからどうする」
「うーん、このままだったらいろいろたいへんだもんね……」
いくら能天気な仔羊でも、明日から追われる身である事は分かっているらしい。
「ねぇ、ついていっていいかな……」
遠慮がちに聞く様子に溜息を吐いた。
「ああ、いいぜ」
どうせこいつは居場所も無いんだろうし、このまま野垂れ死んでもらっても寝覚が悪い。
「え!いいの?」
と見開かれた仔羊の瞳は、濃紺と紫のグラデーションに銀の粉を散りばめたような、一言で言えば澄んだ夜空のような色をしていた。
目を開いてしまったことに気づいたのか、仔羊は慌てたように手で目を覆った。
「何してんだよ」
「ぼくのめのいろ、きたないから……」
なら手で隠すんじゃなくて目蓋とじりゃいいだろ。
「……別に悪い色じゃねーと思うぜ」
その言葉に仔羊はぽかんと俺を見つめた。
「えっ、ほ、ほんと?」
「嘘言ってどーするんだよ」
頬を染め照れ臭そうにはにかんだ仔羊に、なんとなく居た堪れなくなって顔を逸らした。
「……ありがとう。ふふ、ぼく、キミのことが大好きになっちゃった」
突然の悪寒に仔羊をすぐさま振り返る。仔羊は嬉しそうにふへ、と気が抜けたように笑っていた。
それだけだったら良かった。
うっすらと開いた暗い色の瞳が、より昏く陰ったのを間違いなく見た。
……なんかやばい奴を拾った気がする。
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「でも何で急に出ていけって言われたんだ?」
「さいきんこのあたりあらされてるんだよ。だからきみがバケモノをよんでるんだろうって」
「呼ぶなんて器用なことできるかっての」
……自業自得だったようだ。
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by妹。