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出撃:卯(うさぎ)の場合


「ごめんね、申クンってば()()()今日は忙しかったみたいだからさ」


 今回の出撃には、酉が付いてくるらしい。 


「ご愁傷様、だよねぇ」


 何か事情を知っていそうな酉はただ笑っているだけだった。


「……別に、良いわ」


誰が監督しようと、卯には関係ない話だった。


「……頑張ってみる、けど」


 ちら、と酉をみる。 


「行かないのかな?」


「……行くけど」


卯は胡散臭い酉が何故だか苦手だった。


 卯は両の手で『ねこ』をすくい上げると胸の近づけるようにして握り込む。 すると、すっと身長が伸び、卯は少し大人びた格好に姿が変わった。


 仮面も可愛らしいものから、大人っぽいもの(コロンビナマスク)に変化し、羽織っていたケープはマントへ、服装も少しボディラインの見えるものへ変わった。


「ふぅん、それが君の考えた、『幹部たる威厳』ってやつかな」


「……そうね」


 卯は外に出るためのゲートを開いた。



×



 そこは、今にも夜の明けそうな世界だった。


 薄く色付いた空の淵は鮮やかな鴇色になっていて、とても美しく、眩しく感じた。


 この世界(場所)は、あまり太陽が高く上がらずに朝焼けのような空が長く続く。 卯はこの世界に合わせてある懐中時計を取り出した。


「……大丈夫そうね」


 確認を終えた卯は小さく溜息を吐く。 丁度、住人達が活動する時間帯だったようだ。



×



 卯は、元は下位の戦闘員だった。 求人の募集をしていて、募集の紙に載っていた福利厚生や職場環境が他の紙面より良かった為に面接を受け、上手く受かった。


 受かれば儲け物、ぐらいにしか思っていなかった卯であったが、ノルマを達成しているうちに、いつの間にか上位の幹部にまで上がってしまった。


「(かなり、気負ってるみたいだねぇ)」


 柔らかな黄味を帯びた白い髪を風に靡かせる、その姿を見て酉は溜息を吐く。


 ノルマを達成しているだけで上位幹部に(ここ)まで上がるとは、相当真面目に仕事をしてきたのだろう。


 上部に上がっていくにつれて、同僚や上司達(周囲)は足の引っ張り合いを始める。 今の自分達(最上位の幹部)はそんな事はしないが、少し前ならば、よくある事だった。


 そんな足の引っ張り合いや誘惑に負けずにここまで上って来るのは悪の組織としては、普通ではあり得ない状況だ。


「……こんな真面目で素直な子じゃあ、疲れて潰れてしまわないか、心配しちゃう(気になっちゃう)よねぇ」



×



「『依り代』は、どうする?」


 酉は横から差す太陽光に目を避けるように背を向け、卯に問う。


「……あの人にするわ」


 酉の影に見事に収まっている卯は、丁度近くを通りかかった不機嫌そうな(ニートそうな)男を指した。 「……チッ、リア充かよ。 死ね」などと此方を見て呟いていたがよく意味は分からなかった。


「お手並み拝見、ってとこだね」


 酉が透明化したステルスモードになった所で卯は胸元から黒い物体(少し小さめの濃縮タイプ)を取り出し、()()()()()文言を唱え、男(推定ニート)に投げつけた。


「……そこから出すんだね……」


少し酉が引いていたが、程良い収納場所なので変える気のない卯だった。



×



「出たわね、悪者(わるもの)!」


 生まれたバケモノが幾つかの特定の建造物(デートスポット)を破壊している間に、魔法少女達が集まって来た。


「恋人達の邪魔をするなんて、最っ低!」


脳内花畑(ピンク髪)にそんな事を言われても、破壊しているのはバケモノであって(自身)は関係ない。


「……来なさい」


紅い瞳を閉じ、魔法少女達に声を掛ける。


「いくよっ!」


「「うん!」」


毎度同じような掛け声はどうにかならないのかな、と卯は他人事のように思った。



×



「『シャイニングアタック』!」


「っ、しまった」


 他の魔法少女の相手で手一杯だった卯は、横から来た魔法少女の浄化技を避ける事が出来ず、思わず防御の姿勢を取った。 が、


「大丈夫かい?」


 いつの間にか現れた酉がそれを防いでくれたようだ。


「どっから出てきたの?!」


「今のは仕方ないよねぇ」


当たったら確実に危なかった(浄化されてた)からね、と、騒ぐ魔法少女達を無視して酉は卯に言う。


「ふふふ。 これは、オレの稼ぎだよ」


 笑う酉はクロークの下から瓶に少しだけ入った魔法少女の粉(キラキラ)を卯に見せた。 いつに間に回収したのだろうか。


「特別な方法があってねぇ」


「ちょっとぉ! 私たち(こっち)を無視しないでよね!」


 酉の言葉を遮り、魔法少女は叫ぶ。


「卯クン、そろそろ終わっても良いんじゃない」


必死な魔法少女を見遣った酉は、ふと姿を消した。



×



「上手く集まったねぇ」


「……当然よ」


 卯は不機嫌そうに答える。 そのまま酉から離れ、胸元から何かを取り出すような仕草をすると手の中に『ねこ』が()り、『ねこ』が現れたその時には、既に卯は出撃前の少し小柄な姿に戻っていた。


「面白いねぇ」


くすくすと笑う酉からぷいと卯は顔を逸らし


「帰るわ」


帰り用のゲートを開き、帰り支度を始めた。



×



「やっぱりちゃんと集めてくれるねん」


 卯から渡された瓶を受け取り、子は満足そうだった。


 集まった魔法少女の粉(キラキラ)は程良く輝いていて、瓶の半分程の量だった。


「もう、1人で出撃して(出て)も大丈夫そうだよ」


酉は子に言う。


「そうだねん。 一人前おめでとう、だよん」


子は心底嬉しそうに、卯に言った。


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