出撃:戌(いぬ)の場合
「ふっふーん、見ていてください!」
戌は卯を振り返った。
「私の方法が参考になれば、恐縮ですよ!」
向き直り
「ではいきましょう!」
戌は外に出るためのゲートを開いた。
×
そこは、秋の終わりのような世界だった。
乾いた風が吹き、色付いた枯葉が宙に舞う。
「いやー、寒いですね」
元気に戌は言う。
「マフラーどうぞ」
戌は厚着した卯に自身が身に着けていたマフラーを掛け、
「アナタにはコチラをどうぞ」
寒さで震える『ねこ』に手袋を履かせた。
『ふにふに』
『ねこ』は小さく鳴いた。
「お礼を言ってるのよ」
首を傾げる戌に卯は云う。
「なるほどー。 『どういたしまして』ですよ」
「貴女は寒くないの」
「今からめいいっぱい働きますからね!」
×
戌は、ふわふわな茶色の髪をした、犬耳の生えた女性だ。 周囲から見ると犬の獣人に見える。
戌は、『仮の面』の中で唯一、目元ではなく、口元を隠している。 しかし口元を覆っているものは口輪、つまりマズルである為、口元はしっかり見えている。
ついでに言うと、目元は長くて重たい前髪によって隠されているので、結局は全員と同じように目元が見えづらい仕様になっている。
そして、戌は『穢れ』のバケモノだった。
核になっている物体は『犬のぬいぐるみ』、感情は『恐怖』だった。
「恐怖と粗大ゴミの『穢れ』なんて、そこらへんによく落ちてますよ」
と戌は明るく言った。
×
薄暗い世界は絶えず風が吹き遊び、卯は『ねこ』を程よい収納場所に詰め入れた。
「いい収納場所ですね」
それを見ていた戌は、ほーん、と感心したように頷く。
「豊かじゃないと難しそうですが」
因みに戌は普通くらい。
「それはともかく、早速始めましょう!」
戌は黒い物体を取り出し、落ち込んでいる人間にぶつけバケモノを生み出す。 投げたそれに勢いがあり過ぎたのか、依り代は一瞬痛そうに呻き声を上げた。
「見つけたわよ、バケモノ!」
すると、偶然近くに居たのか、意外に早く魔法少女達が現れた。
「早速、魔法少女達のお出ましですね」
舌舐めずりをし、戌は手を擦り合わせた。
×
「さあ、此処から本番ですよ!」
戌は、生み出したバケモノを指笛で近くまで呼び寄せ、バケモノの背に乗った。
「ride on ですよ!」
バケモノの背に手を突っ込んだ戌は、そのままバケモノの背中を大きく裂き、中に入っていった。
『さぁーて、楽しませて下さいよ!』
×
「ふぎゃっ」
結論を述べると、戌の乗ったバケモノは魔法少女達の浄化技を喰らい、戌は中から弾け出されてしまった。
戌が乗る事で、バケモノはパワー・スピード共に性能が上がっていた。 しかし、バケモノに乗ったからといっても、戌のドジっ娘属性は消えた訳ではなく、側溝にはまったり、転んだり、と戌は盛大にやらかした。
魔法少女達にまで「このバケモノチョロいぞ」と思われて罠に見事は嵌められてしまった。
「むぅ、此処まででしたか」
浄化されたバケモノを見て戌は残念そうに呟き、
「今日はこのくらいにしてあげます!」
捨て台詞を吐いて、一旦撤退した。
×
「ふーむ、ノルマ量達成ですね! これで安心して帰れます」
戌は満足そうだ。
集まった魔法少女の粉の量は瓶の七分目で、程良く輝いていた。
×
「戌っちはねん、憑依型なんだよん」
子は卯に言う。
「あと、取り込む方法もあるけど、キミはお腹壊すだろうからやらないようにねん」
次に一緒に出撃できる時は、見せてくれるだろうか。