出撃:申(さる)の場合
「……あんまり参考にするもんじゃねえと思うけど」
申は卯に言う。
「ま、『こう言う戦い方もある』ってやつだな」
面倒そうに頭を掻き
「じゃあ、行くか」
申は外に出るためのゲートを開いた。
×
そこは、薄暗い緑の生い茂る森の中だった。
「(……森と言うよりは…)」
『樹海』のような雰囲気だった。
「ヤッベ、出るとこ間違えたわ」
申はけらけら笑っていたが、なにをどうやって間違えたのが、それが卯は気がかりだった。
「魔力を使うと見つかって集中攻撃受けるから、歩きだな」
申は言う。 元から移動を失敗させただったんじゃないの、と卯は溜息を吐く。
移動しながら卯は申を見る。 猫背のようで、姿勢の悪い申は白い鬣の被り物と木製の猿面を被っていて、少し重そうに感じた。
「お、何か用か」
視線に気付いた申に首を振り、ぷるぷる震える『ねこ』を撫でた。
×
申は『穢れ』の塊である。 正しく言えば、生きた依り代の居ない、殆どが『穢れ』の自然発生したバケモノだ。
通常、バケモノは核となる依り代と一定量の『穢れ』で構成されている。
『仮の面』のもの達が使っている黒い物体には、依り代をバケモノに出来る一定量の『穢れ』が凝縮されており、ただぶつけるだけで依り代をバケモノに変化出来るようになっている。
自然発生したバケモノも、例には及ばず、何らかの物体や感情が核となって身体を形成している。 申の核になっている物は『死体』と『哀しみ』の感情だった。
だからだろうか。 独りぽっちだった未に引き合ってしまったのは。
助けたのは気紛れだった、筈だ。 丁度、側に正の魔力を纏った物体を持っていた。 そして、それを未に近付けた。
「気紛れなんか、起こすんじゃなかった」
申は苦しそうな顔でそう呟いた。
×
「着いたぜ」
申が案内した場所は、合戦場だった。
そこはただの合戦場ではなく、沢山の魔法少女達が様々な技や道具を使い、魔法少女同士で戦っていた。
「……どういうこと」
困惑する卯に申は言う。
「ここで、国同士が魔法少女共を使って戦争してるんだよ」
ますます分からなくなる卯に、申はニタリと歯を見せ笑った。
「戦争ごっこを引き起こしたのは俺なんだ」
根も葉もない噂を双方に流し、互いに疑心暗鬼にさせる。 その後、双方に限界が来た所で『向こうが先に手を出したらしい』という噂を両国に流したのだと言う。
内容の規模が大き過ぎて、理解が追いつかなかった。
「魔法少女を兵として扱う制度を政治屋共に推し示したのは、上層部に潜り込んだ酉だけどな」
けらけら笑う申に
「何で戦争をさせるの?」
そう問うと申の返答はシンプルだった。
「単純に、余計な感情の混ざっていない、純粋な『穢れ』が集まるからだ」
純粋な『穢れ』とは『哀しみ』や『怨み』、『恐怖』とか様々な負の感情のことだ。
「言い忘れてたけど、合戦場ではそこまで魔法少女の粉は集めてないんだ」
俺は他にも担当している世界があるからな、と申は言う。
「『穢れ』を集めてどうするの」
「『穢れ』が集まれば、バケモノは強くなる」
自分達を強くする為に戦争までするのか、と卯は瞠目した。
×
夜になると、いつのまにか魔法少女達は居なくなっていた。
「労働の法律があって、申の刻以降は働かないようになってるんだ。 因みに開始時刻は辰の刻だぜ」
「ふーん」
きっちり8時間労働のようだ。
「とりあえず、粉集めないとな」
やれやれ、と面倒そうに伸びをし、申は合戦場全体に魔力を広げた。
「……」
瓶に集まった魔法少女の粉は少し赤い色をしていた。
「……やっぱり混ざるよな」
申は赤色が混ざった粉の瓶を虚空に仕舞った。
×
「結構、大変なものが見られたデショ?」
子は卯に聞いた。
「あれは真似しようと思って真似出来ることじゃあないし、真似する事を推奨できる事でもないよねん」
子は卯を見た。
「戦略、策謀を使った戦い方、大いに分かったかなん?」
卯は頷く事しか出来なかった。