出撃:午(うま)の場合
「うーん、参考になれば良いのですが……」
午は申し訳なさそうに卯を見た。
「なにせ、最近は出撃していなかったものですから」
道具を取り出し
「兎に角、頑張ってみましょうか」
午は外に出るためのゲートを開いた。
×
そこは、熱い風の吹く、砂漠だった。
雲一つない空は高く、眩しい太陽の光が真上から降り注いでいた。
周囲には植物は一切無く、赤い砂ばかりだ。
「貴女は出来得る限り、この道具を持ったままでいてください」
午から渡されたものは、周囲の環境から影響を受け付けない空間を生み出す不思議な棒だった。
「貴女にはきっと、この光は強すぎるでしょうから」
×
午は金髪碧眼の、正しく『白馬の王子』のような容姿をしている。
その為(なのかは不明だが)、彼が出撃すると、大半の魔法少女は心を奪われてしまう、らしい (子曰く「みんな『乙女』になっちゃうんだよねん」)。 その上、女性に優しい為、あまり仕事にならないので、出撃の回数は少なめである。
尤も、出撃回数が他より少なめな本当の理由は、午自身の請け負っている役職の仕事量が多いからなのだが。
×
「あぁ、ありました。 これですね」
心底ほっとした声色で午は赤い草を採り上げた。 今回、滅多に出撃しない午が出撃する羽目になった理由がこれだった。
「これは?」
「『邪気吸着型変換機』の基になる草です」
「……?」
言われても分からなかった。 首を傾げるその様子を見、
「『バケモノを生み出す黒い物体』と言えば、ご理解いただけるでしょうか」
「……!」
午は苦笑混じりに卯に告げた。 そんな名前だったのか。
「子さんに頼まれていた用事は済みましたし、本題に入りましょうか」
容器いっぱいに詰め込まれた赤い草を次元転送機で子の所へ飛ばし、午は立ち上がった。
×
「絶対に、許さないんだから!」
明らかに目をハートにしている魔法少女と対峙する午は、
「……困りました」
心底困ったように口元に手を遣る。
「まだバケモノを生み出してないのですが……」
この事態に卯も困惑していた。
ただ、「依り代を探しましょうか」と午が近くの街に足を踏み入れただけなのに。 数分もしない内に魔法少女がお出ましになった。
しかも、よく分からないが大変ご立腹のようだ。
「あたしというものがいながら、他の女に手を出すなんて!」
「……全く身に覚えがありません」
本気で考え込む午を他所に、卯は午の魅力ってすごいな、と透明化しつつ他人事のように傍観していた。
因みに、午の『全く身に覚えがない』発言は本当の話で、魔法少女が勘違いをしているだけである。 恋人にもなっていない。
×
その後、魔法少女は何時、何処で出会っただとか、因縁がどうだとか、午に語っていた。 それを聞きつつ、「なるほど」とか「そうでしたか」と相槌を打つ午も多分悪い。
数時間後、自身の身勝手な妄想(多少根拠有り)を言いたいだけ言った魔法少女は、
「き、今日はこのぐらいにしてあげるわ!」
なんて、魔法少女とは思えない捨て台詞を吐いて、ふらふらと去っていった。
卯は嵐に遭ったかのような気持ちだった。
×
「うーん、戦っていないのに何故魔法少女の粉が回収出来るのでしょうか」
瓶に魔法少女の粉を集め終えた午は、心底不思議そうに首を傾げる。
瓶の八分目程に詰まった魔法少女の粉は桃色をしていて、何処か甘ったるい香りを感じた。
×
「あー、やっぱりそうなっちゃったか」
子はあまり気にした風でもなく言う。 そう言いつつ、最初の方で集めていた赤い草を根元の方を紐で縛っているので、予想通りだったのだろう。
「丁度、桃色の粉について調べてみようかと思ってたんだよねん」
赤い草を縛る作業は、子の他に複数の下位戦闘員がしていて、縛り終わったものからどんどん天井に吊るされている。
「干した草が程良く乾燥したら、次はすり潰すんだよん」
それでも納得のいかない顔をしている卯に子は言った。
「『自身の魅力』も、武器になるって事だよん」
卯は新たに知識を得た。